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小説 「姉ちゃんと僕と、僕らのじいちゃん」 12

【前回までのあらすじ】ねえちゃんは僕の誕生日の前日に電話をかけるとじいちゃんに伝えていた。でも電話は鳴ることなく、姉ちゃんは死んでしまった。僕はといえば、家で姉ちゃんからの電話を待っていたから、姉ちゃんの死に目には会えなかった。そんなことを思い出しながら、僕は公園でユカと進路について話していた。



 僕はずっと考えていた。どうして姉ちゃんがこの世から飛び立つその瞬間、姉ちゃんのそばにいてやれなかったんだろう。

「大学に、いくよ」

「ゆうや?」

 どうして手を握り、肩をさすって、髪を撫でて、声をかけてやれなかったんだろう。

「ユカ、いっしょに未来を探そっか」

「ほんとに?」

 僕はうなづいた。ユカの顔がぱあっと明るくなった。

「ゆうや、よかった!」

 ユカが僕にしがみついた。

 ――いま僕は思う。

 姉ちゃんは僕の誕生日の前の日に死ぬことを知っていたんじゃないか。

 死ぬタイミングを知ることができるのか、それが可能なことなのか、僕は知らない。だけど姉ちゃんは知っていたんじゃないか。姉ちゃんはその日に僕が病院に来ることのないように、僕に電話を待たせたんじゃないか。

 自分が死ぬその姿を、僕に見せることのないように。

「ゆうや……」

 抱きしめた腕の中からちいさな声が聞こえた。僕はユカのウェーブのかかった柔らかい髪を撫でる。ユカからはいい匂いがした。健康な、太陽みたな匂いがした。

 ユカに気づかれないように、僕はゆっくりと息を吐く。胸に溜まったものを吐き出し、また新しい空気を吸い込んだ。

 僕はきっと、未来を見つけるだろう。

 今を生き、未来を探り、だけどひとりではいられなくなって、共に生きる誰かと歩むだろう。たぶん、きっと――

 僕はユカにキスをした。ユカは優しく僕を受け入れる。

 そして夕暮れの風は、夏の終わりを告げる。


   

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