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感想というよりか

虎に翼39回、心折れてよねちゃんにも背中を向けられ

「じゃあ、私はどうすればよかったの?」

と伊藤沙莉らしい少しかすれた低い声がずっしりと来た。

一人、部屋で行李(というか箱?)に六法全書を入れようとして涙する寅子だけれども、一度や二度じゃないくらいこういう涙を流したことはないか。アタシはある。女性だけじゃなく男性だってあるはずだ。

どうにもならないことを諦めてぐっと飲み込んででも悔しくて情けなくて…

例えて自分の話をしよう。
仕事は好きだったしやりがいもあったけれど給料は安いまま、一人二人と結婚か妊娠で問答無用で辞めさせられる。(ちなみに歯科衛生士である)同期で同じ職場に20年勤めたのは確か自分だけだった気がする。子育てが一段落して復職した友だちもいるが聞くと殺伐としている様子だ。正規雇用ではなくパート扱い、国家資格だから最賃よりはすこぅしだけ時給は高いが福利厚生なんてちゃんとしてない。そんなだから人間関係も荒んでいると聞く。

結婚や妊娠でと言うならまだわかるが(いや全然わからない)ただ年齢で肩を叩かれた友達もいた。踏ん張ったらあからさまに減給などの嫌がらせをされ辞めた友だちもいる。新卒を使い捨てするほうが支払う給料が安くて済むからだ。勝手だ。自分たちは外車乗り回してたりするのに。

個人経営の歯科なんてそんなもんだった。同じ医療系でも個人経営のクリニックでは従業員の数も少なく組合などあるはずもなく。アタシたちの権利は守られてはいなかった。でも気づくこともできなかった。いや、気づいていてもどうしようもなかった。

何度もやりがいか給料かで悩んだが、やりがいを選んだアタシの辞める(と言うか先生の突然死により解雇扱いとなる)ときの手取りは20万円を切っていた。ちなみに市道民税と年金は天引きされておらずそこから払うのよ。既に制度的に小規模(と言うか零細?先生とアタシの二人だ)でも厚生年金に加入できたのだろうが余計な出費を増やしたくない先生は最後まで歯科の組合国保のままであった。

国家資格なんすよ。二年(今は三年かな?)座学と決まった時間数の臨床実習を終えてやっと国家試験を受ける資格を得られるという。でも使い捨て。給料上げたくないから。(何度でも言う)

自分の世代は特別だった。男女雇用機会均等法の施行から4,5年?やっと賃金を見直すことになり、専門学校も2年制となった区切りの年だったのだ。求人票が発表された時は先輩たちがざわついた。「うちの基本給いくらだった?」実習に行くと訊かれるのである。

「新卒の基本給のほうが自分たちより高い…?それは自分たちにも適用されるのか…?」顔を見ただけでわかるのだ。自分が就職した歯科は衛生士の先輩が辞めて久しく、助手二人と受付で回していたのでわからずじまいだがどうだったんだろう。

さんざん安い安いと言ってきたが具体的な数字を出そう。例年より上がったと行っても基本給は10万3千円だった。つまり先輩たちは10万を切っていたと思われる。毎年五千円くらい昇給したがベースアップは二千円で手当に三千円。それも30代になったらベースアップが止まった。ボーナスは基本給の1.5倍とされていたが「患者が減ったから」と言う理由で(一時期歯科がコンビニより多いと言われた時代、そりゃ患者も減る)1.2倍に下げられたことも何度もあった。他のスタッフがみんな辞めていってアタシ一人になってからは流石になかったけれど。求人票に書いてあった「有給:年5日」は実質的には取れず(権力勾配による無言の圧力)風邪を引いて熱が38℃以上あるときだけ休めてそこに当てられるだけであった。

いつだったかツイッターで「なぜ男子は歯科衛生士になれないのか!」と呟いてる若い男性がいた。見に行くと「男性差別だ!」と言っていた。あのね…女性の職業差別の歴史を勉強してくれ。そんな難しいことじゃないぞ。

そもそも看護師もそうだったけど(看護師も給与が高いと思われているけれど看護師だった叔母が「夜勤するからであってまだまだ安い」と言っていたが)女性の仕事(ケア労働に多いね)と見做された職業は賃金が安く設定され(社会がそう決めたから)募集したって来やしないから最初は女性のみだったのではなく、募集しても来ないから女性の職業とする、と定められたがしかし「男性もこれに準ずる」と法に明記され、なれないわけじゃなかったんだ。

と、説明するととあるリクルートサイトでの情報を鵜呑みにして反論してきた。「それは近年のことですよね!」

「いえ、30年前に学校で習いましたよ」と歯科衛生士法を引いて説明してやっと誤解は解けたが「給与の多寡は問題じゃない、男性が目指しづらいのはやっぱり差別だ」と直接の返信ではないが呟いていた。

給与の多寡ですよ…低いから男性を募集しても来なかったんですよ…というように女性専用車両の導入のきっかけも知らずに「男性差別だ」と嫌がらせをする輩もいた頃で、もうなんかこう諦観というかさ…しかも男性差別じゃないなら証明してみろよと言わんばかりの態度で来る人もいてマジでね、う〜んざり。

オマエのその手の中にあるカマボコの板で精一杯調べてから発言しやがれ。一昔前ならGGRKSだ、それか半年ROMってから物を言え。

生まれた土地を離れて今札幌の歯科に通っている。(歯科衛生士なのは隠してる)医療法人としていくつかクリニックを経営してるようなとこでは産休や育休もあるみたいなのがわかって、この業界でも少しは良くなっているらしい。去年のニュースでは男性の学生も入ってきたようだ。よかったね。

寅ちゃんの闘いを見ていると胸がぎゅうっとなる。みんなで連帯して闘っていたら少しは待遇が良くなったのではないか。今少し改善されたように見えるけれどもっと早くそうすることができたのではないか。

言い訳と謗られたら甘んじて受け入れるが毎日の仕事でいっぱいいっぱいだった。臨床に出たら失敗は許されないしそんな余裕はなかった。それでも衛生士会に属して活動していた人達がいることは知っている。でも田舎で患者が多くて残業(残業手当って普通は高いんだね!うちは基本給を人時間で割っただけの金額だったよ!)も多く仕事に疲れ果てていた自分にはできなかった。

皮肉なことだが仕事をやめて国会中継を見たり行政や労働者の権利に詳しいオット氏と色々と話すうちに社会の歪みや差別を意識できるようになった。だから今フェミさんだとかおばさんと揶揄されてもいろいろな差別について声を上げる。署名をする。怒る。すべては今の若い世代のために。自分たちと同じ思いをしてほしくないから。

寅ちゃんのあの演説が何度も思い出される。

「元々の法律が……私たちを虐げているのですから。生い立ちや、信念や、格好で切り捨てられたりしない。男か女かでふるいにかけられない社会になることを私は心から願います。いや、みんなでしませんか?しましょうよ!」

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