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M&Aの思い出

中小企業の経営企画部に所属していた時の業務をいくつか紹介しましたが、買い手側としてのM&Aは経営企画部の担当になるケースが比較的多いのではと思います。買い手企業の分析(事業デューデリジェンス)や買収した際のシナジーをいかした事業展開、財務諸表に与える影響など、分析や事業計画を策定する必要があるからです。

私も情報収集や分析などに関わっていました。これから経営企画やM&Aに関わる人に少しでも参考になるように、言える範囲で当時の業務の話をしたいと思います。
 

情報収集

私が当時いた企業は、積極的に新規事業を立ち上げる企業でした。その流れで、一時期M&Aで企業や事業を買収するということにも前向きだった時期がありました。まずは、買収先の情報を入手しないといけないということで、日本M&Aセンターなど大手の仲介会社に登録、実際に営業マンとお会いして検討をしていた時期があります。
 
正直、当時のポジションは課長の下の役職で、もちろん意思決定者ではありません。私に回ってくる情報は世の中に出回っている案件ばかりで、そこまで面白い案件ではありません。10件以上は案件紹介を受けたと思いますが、上司に話をしたのは1~2件程度だったと思います。
 
一方、役員にくる案件は、まだ世の中に出回っていない面白い案件でした。このあと紹介する3つも全て役員案件になります。M&Aもまずは案件が重要なので、いかにそういう情報が回ってくる立場になるか、ということを考えさせられるきっかけとなりました。

案件1 シナジーをのがした案件

最初に担当した案件(A社)は、飲食店を数十店舗展開しているチェーン店の案件でした。関わる前から個人的に知っているチェーン店であり、当時はそれなりのネームバリューがあったので、こういうチェーン店でも売りにでているんだなと思った記憶があります(今となれば有名店でも売却対象となる理由はわかるのですが)。

企業の財務諸表と各店舗のPLを分析、もちろん赤字店舗もありましたが、投資回収としては悪くない数字でした。何より、当時の勤務先に無かったものを手に入れることができる案件ということで、自分は強烈にプッシュをしました。それは、チェーン店の運営ノウハウ、販路、商品開発力になります。
 
A社は、数十店舗を同一ブランドで全国展開しているチェーン店で、出店先もショッピングセンターやアウトレットモールなど、色々なところに出店しておりました。季節ごとの商品やコラボ商品など商品開発力もありました。これらは、東京都と神奈川県のみの出店、一番展開しているブランドでも8店舗、出店は商業ビルのみ、商品でメディアに取り上げられることはほぼなし、といった当時の勤務先にはなかったものです。
 
その点も含めて、私はぜひ買うべきだと上司に伝えました。もし取得したら事業責任者を担当するつもりでもありました。しかし結果的には見送りとなりました。見送りの理由は、直前で売却額の上積みがあったと聞きました。本当がどうかは知る由もありませんが、聞いた増加額であれば検討の余地はあったこと、金額が上がったから再度検討しようではなく、即見送りとなったので、おそらく別の理由があったと思います。
 
結果的にこの案件の約2年後に私は退職しているのですが、もしこの案件が成立して自分も関わっていたら、退職は少なくとも数年先になったと思います。それも含めてもったいない案件だったなと、今でもこのチェーン店の名前を目にするたびにそのときのことを思い出します。
 

案件2&3 利益か?ロマンか?

案件2(B社)と案件3(C社)は検討時期がほぼ同じなので、まとめて紹介します。いずれも海外企業が対象で、B社はラーメン屋を3店舗、C社は居酒屋を3店舗、運営している企業でした。ちなみにB社とC社はアジアのそれぞれ別の国の企業になります。
 
両案件とも、財務諸表と店舗別のPLをみて分析をおこないました。余談ですが、英語の財務諸表をみたのは始めてで、グーグルに頼りながら日本語のデータに打ち直していた記憶があります。
 
結論としては買収金額はほぼ同じ、利益率はB社のほうが高いので、投資案件としてはB社のほうがよいという結論を出しました。居酒屋もですが、当時からラーメンは和食として海外でも人気かつ高値で販売できたこと、買収先を起点に他国にも展開するなオペレーションがより簡単なラーメンのほうが可能性があると考え、その担当役員にB社のほうがいいと伝えました。
 
しかし、結論はC社を買収することとなりました。理由は、居酒屋は和食レストランとして海外で人気で、ラーメンより和食レストランのほうがかっこいいのでやりたいとトップが言っていたとのことでした。日本から飲食未経験の社員を赴任させることは決まっていたので、正直、ラーメンのほうがまだ可能性があるのにという思いは変わりませんでしたが、トップが決めたのであれば仕方ないかなという感想でした。

この居酒屋がどうなったのか、この1年後に退職しており、その後の状況を教えてくれた後輩もすでに退職しているので、正直わかりません。それよりも経営者のお金か?ロマンか?というほうが、経営企画を担当するみなさんには興味深いと思います。お金を追う経営者とロマンを追う経営者がいるということ、困ったことに同じ経営者でもロマンを追うケースとお金を追うケースと両方あるということは、またどこかでお伝えする機会があると思います。
 
今回はここまで。次回以降、また今回のようにこれまで関わった業務について紹介したいと思います。

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