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おはなしなおはなし①「いただきます」

「ともくん、おきて。あさごはん、できてるわよ」

おかあさんのこえがきこえる。そっか。ぼくはねむっていたんだ。
めをこすりながら おへやにいくと いいにおいがした。
「さあ、てをあらって いただきます しましょうね」
おかあさんがぼくのあたまをなでながらいった。
「おかあさん、きょうのあさごはん なあに?」
「おとうふのおみそしると、なっとうよ。ともくんもすきでしょ?」
いすにすわると おとうさんが笑っていた。いいにおい。おいしそうだなあ。たまごやきもあるぞ。
「ともくん、いただきますいってないぞ」
おとうさんにみつかっちゃった。
「どうして、いただきますっていわなくちゃいけないの?」
いわなくても、あじはかわらないじゃないか。
「ともくん、いただきますっていわなくても、あじはかわらないっておもってるんじゃない?」
おかあさんが おとうさんのおみそしるをつくえにおきながらそういった。ぼくはびっくりした。
「え?おんなじじゃないの?」
「おかあさんのいうとおりだぞ。ちゃんと、 いただきます っていおうな。そっちのほうが、ずっとごはんがおいしくなるんだ」
ぜったいうそだ。おとうさんたち、うそついてるんだ。
「いただきます」おこられるのはいやだから、ちいさくいってたまごやきをたべた。いつもより、おいしくなかった。

ようちえんにつくと、まつのすけがきてたので いただきますのはなしをした。
「そうだよね、ぼくもまえからそうおもってた。」
まつのすけはわかってくれた。なんてったって、ともだちだもんな。
「かわるわけないよね、ケチャップをかけてるわけじゃないもんね」
ぼくは まつのすけにそういった。
「でもさ、そしたらどうしていただきますっていうんだろう。へんなの。」
まつのすけとぼくは、ずっとおにごっこをしてあそんだ。

ゆうごはんのときに、ぼくはわざと「いただきます」っていわなかった。おかあさんとおとうさんは、なにかいいたそうだったけどなにもいわなかった。ぼくのかちだ。だけど、やっぱりいつもよりおいしくなかった。おかあさんたちがうそをついているわけじゃないのかな。

きがつくと、おふとんのうえだった。そっか。ぼくはねむっていたんだ。
めをこすりながら おへやにいくと いいにおいがした。
やった。きょうはだいこうぶつのめだまやきだ。すぐにぼくはたべはじめた。きのうだって、いただきますしなかったんだ。きょうだってへいきさ。

あれ?きょうもおとうさんもおかあさんもなにもいわない。おかあさんは、おさらをあらっている。おとうさんは、ごはんをたべながら ほんをよんでいる。おかしいな。それに、ごはんがおいしくない。どうしてだろう。いつもとかわらないはずなのに。

「ねえ、おかあさん。めだまやき、いつもとちがう?」
「いいえ。かわらないわよ」おさらをあらいながら、おかあさんはそういった。ぼくは、おとうさんのほうをみた。
「おとうさん、なにかいれた?」
「なにもしてないぞ。」ほんをよみながら、おとうさんはそういった。

おかあさんも、おとうさんも、ぜんぜんぼくをみてくれない。そしてわらってくれない。なんだか、ぼくはかなしくなってきてしまった。ぼくがいただきますっていわなかったからかな。おかあさんやおとうさんがうそつきだっておもったからかな。

ぽろぽろ ぽろぽろ なみだがあふれてきた。これからちゃんと いただきます をしてごはんをたべるから、きのうにもどって!
なんども なんども ぼくはなみだをふいた。


「ともくん、おきて。あさごはん、できてるわよ」
おかあさんのこえがきこえる。そっか。ぼくはねむっていたんだ。
めをこすりながら おへやにいくと いいにおいがした。

「あら、ともくん。こわいゆめでもみたの。めがはれてるわよ」
おかあさんがしんぱいそうにちかづいてきた。そうか。ゆめだったのか。よかった。
「きょうは だいすきなめだまやきよ。はやくてをあらってらっしゃい」
おかあさんがぼくのあたまをなでながらいった。
いすにすわると おとうさんが笑っていた。ほんは、もっていなかった。
「いただきます」あんなかなしいおもいをするのは、もういやだ。
「ちゃんと いただきます いえたな。えらいぞ」おとうさんがわらっていた。「ともくん、きょうはちゃんといえたね。」おかあさんもわらっていた。めだまやき、とってもおいしい。

「おかあさん、いただきますっていうと、おいしくなるんだね!」おどろいたぼくはさけんだ。
「いいかい、ともくん。いただきますっていうとみんなえがおになるでしょう。だからおいしくなるんだよ。」おとうさんが、そういった。
「うん、ぼくしってるよ!」おとうさんとおかあさんが かおをみあわせて、またわらった。

ようちえんにいくと、まつのすけがはなしかけてきた。
「とも、おはよう。ぼくね、きょうはいただきますしなかったぞ。」
あわててぼくはこういった。
「まつのすけ、いただきますっていったほうがいいよ、ごはんがおいしくなるんだ。」
まつのすけはびっくりしてる。
「それはねえ・・」
だからぼくはおしえてあげたんだ。なんてったって、ともだちだもんな。

(おしまい)


埋もれてしまっている宝石がたくさんあるように思います。文化だったり、製品の場合もあるけれど一番は人間の可能性です。見つけて、発信してよりよい世界を共に生きましょう。