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回想|ザギョウパーティやろうよ 2018

キャンパスのパン屋、粉とクリームでティモンを見かけた。

後ろに、いる。

カウンター席で友達とクロワッサン片手に話している。どうしようか、とバレないように下を向く。悪いことなんてしてないのに。うう、話しかけようかと身を小さくする。結局勇気が出なくて話しかけず、粉クリを出る時にちらりと後ろのカウンターに目をやると、目が合って、「あっ」と一瞬固まる。ティモンは手を上げようとしていて、俺は小さくうなずいた。話しかければよかったと一抹の後悔をするも、そのままドアを開けて外へ出る。チリン。今思えば、ティモンの隣にいたのはトマだった。

*

年明け、レポートを書きに図書館を徘徊していると、ティモンがそこに平然と座っていた。何やら生物学の本とにらめっこしている。全部英語だ。やあ、と話しかけた。おう!リョウタ!とにこやかな笑顔が返ってきた。何してんの、みたいな話と「オランダ行けば英語でドイツ哲学勉強できるかもよ」と慎ましい助言をもらう。

じゃ、またねと切り出そうとすると、「ジュリエットが餃子パーティしたいみたい。また連絡するよ、もし君が良ければだけど」とティモン。ジュリエットが日本の餃子にどハマりしているらしく、一緒に作って食べたいそうだ。いいね、行きたい、と秒で応えた。

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ジュリエットは企画して人を誘って、みたいなのが苦手らしく、結局ティモンから連絡があった。「Hey!餃子パーティやろう!」と夕方4時にメッセンジャーが鳴る。

「ごめんこれから部活あるから食材任せた!」「20:30からでもいい?」「明日のために僕早めに帰っちゃうけど行くよ」「ごめん、gyozaって何買えばいいかわからなくて…」「俺買い出し行くよ!」「部屋は私のところが広いわ」「ワイン飲む人?」「もち〜!」

怒涛の会話ですべてが決まっていった。ティモンは部活があり、ジュリエットは課題があって、ティオーネは「餃子って何?」って感じだったから、俺とトマで買い物に行って、ジュリエットはワインとサッポロ黒ラベルを用意してくれ、ティオーネが部屋で待っていた。開口一番、「餃子って何?」と楽しそうに聞かれた。20時には全員集まって、チップスをつまみながら談笑していた。トマは早く帰ると言ったのに、結局0時まで残っていた。

皆わがままなようで協調性があり、誰も我慢したり無理することなく、自分のペースを守り合っていた。皆が自分のことを説明できる自立さがあり、相手を尊重する思いやりがあった。

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それから、昼はベンチで一緒にクロワッサンを食べ、夜は誰かの家でパーティをするようになった。皆お金がなかったから、ご飯を作って映画を見るのが俺たちの日課だった。ジブリを見たり、フランス映画を見たりした。俺が肉じゃがを作ることもあったし、トマとティモンがキッシュを作ってくれたこともあった。

ティオーネがコストコで爆買いしてくれた時は、皆でAFL(オーストラリアのラグビー、アメリカで言う所のアメフト)を観戦したりした。俺たちも2チームに分かれ、点が決まると酒を飲んだ。あれは飲み過ぎた。

ナイトクラブで一緒に踊って、ビリヤードの楽しみ方も教えてもらった。秋葉原のゲーセンを制覇したり、雨の鎌倉で紫陽花を見に行ったりもした。ティモンとはよく一緒に銭湯に行った。そこで整いながら話すのが好きだった。

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どこにいても何をしていても、一緒に話をしていれば楽しかった。「”シャキシャキ”レタスサンドってなに?」「”キレイキレイ”ってなんでカタカナなの?」と日本語について聞かれることもあったし、「日本で人の名前を呼ぶときってどうしたらいいの?」「日本人はどうやって恋人作るの?」と何でも聞かれた。

俺も挨拶からナンパの仕方まで何でも聞いた。話題が尽きることはなさそうだった。フランスにはビズーっていう頬と頬をくっつける挨拶があるらしく、地域によって回数が変わる。男女の異性間で行うことが多いらしい。逆に男同士ではあんまりやらないみたい。マジかよ!と驚いていると「フランスは一回や二回のキスはキスのうちに入らないよ☆」としたり顔で言うから、びっくりしちゃった。握手もそんなにしないし、バレーボールの時にハイタッチするくらいの日本人だもの。

ただ、白状すると、彼らと一緒にいる中で、まあテンション上がった時はハグくらいするよね、と思うようになった。だから、友達に久々に会ってテンション上がってハグしそうになるのを「いやいや日本人だから…」と抑えている。

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今もそうだけど、もっと英語が話せたらと言うもどかしい思いはいつもしていた。速すぎて聞き取れないし、言いたいことも言えない。最後は気持ちで何となくは伝えられていたのかな、とは思うけど、語学が出来るに越したことはない。

ただ、言語の壁があるからこその面白さもあったなあとも思う。”Damn it”とか”Hey dude”とか、教科書に載っていなかった言い回しは新鮮で馴染みがあった。彼らにとってにとも日本語のスラングは面白いらしく、「マジで?」「やばい」「それな」を教えた時はきゃっきゃっと楽しそうにしていた。何かあったらすぐぴえんぴえん言うようになってしまい、教えなきゃよかったと思った。

でも、彼らが日本語を話しているのは本当に可愛いくて、英語の時はペラッペラ話してるのに、お店になると、「あー、これ、やきにキュていしょく、、おねがいしまス…」って急に可愛くなる。ギャップ萌えだった。俺の名前をりょたと呼ぶのも、可愛くて3ヶ月くらい訂正しなかった。Noってちゃんと言えるのに、「いや、ちょっと…」と日本の言い方を真似てやんわり断るのとかも好きだった。

おわり


最後まで読んでくれてありがとう〜〜!