ニューボール サッカー部
先日のライブ会場の待ち時間。
店の前のフェンスの内側にサッカーボールが転がっていました。
黄色一色で、緑のナイキのマークが入っていて、さらにブラジルの代表チームの紋章がプリントされています。
私らの青春期には、こんなオシャレというか、誇らしげな商品はありませんでした。
もしもあの頃……1976年頃にこんなボールを持っていたら、もったいなくて蹴ることなどせず、枕元にずっと飾ったに違いありません。
そんなボールが占有離脱物の様相で放置されていて、もちろん誰も別にそれを持ち帰る、つまり占有離脱物横領を行わないのだから、なんと山口……一の坂川界隈は治安がよいのでしょうか?
思わず手にとると、慣れ親しんだボールより少し小さい。これは4号のボールで小学生向けのサイズです。
私ら(中学高校のサッカー部)では、これよりひとつ大きい、5号を使用していました。
キャプテンや先輩から、練習試合などの前に、
「ニューボールをおろせ」
という指示がでると、1年生は広辞苑くらいの箱から、折りたたまれた新品のボールを引っ張り出し、自転車の空気入れの先の洗濯バサミを取り外したやつで2人ひと組で空気を入れます。
1人がピストンをシュポシュポと上下させ、もう1人はホースの先をボールの穴に押し付けます。
最初は空気圧をかなり高めに……パンパンに入れて、しばらく放置します。
これはボールの縫い目を広げるのが目的で、この作業を怠るとあとで変形することがあるのです。
使用時には寸前に専用の針を空気穴に突き刺して少し空気圧を下げます。
私らが練習で使用していたのは、何故かサッカーの象徴たる五角形の黒と六角形の白が組み合わされたデザインではなく、全面真っ白で、縫い目の位置も一見バレーボールに見えるようなボールでした。
これが、手縫い本革の"ピーコック"のボールでした。
"ピーコック"というのがメーカーなのか、ブランド、ラインナップなのか、商品名なのか、いまだにわかりません。
とにかくこれを練習で過酷に使用すると、徐々に塗装が剥げ、いつしか表面がベージュ色のバックスキン(裏皮、スエード)になってしまうのです。
※ スエード とは、
なめした皮の内側を、サンドペーパーなどで磨いて、けば立てた皮のこと。手袋や靴などに、よく使われる。
語源は、「gants de Suède(スウェーデン手袋)」。やがて、製法を意味するようになった。
さて、このスエード状態になったボール。
ドライの時は塗装の質量が落ちたぶん、ニューボールよりも若干軽くなり、飛びやすくて都合がいいのですが、雨の日の練習で水を含むと「とてつもなく」重たくなるのです。
サッカーという競技は、大雨でグランドがぬかるみ状態になっても、強行されるので、雨を想定した練習は必要なのですが、実際の試合ではニューボールを使用するので、そこまで水を含まないのです。
この水を含んだ、使い込まれたピーコックのボール。なかなか蹴っても浮き上がらず、ボテボテと転がるだけです。
もちろんそのボールを浮かせて遠くまで蹴る化け物みたいな筋力を持つ先輩もいましたが……。
それより、このボールを使ったヘディング練習が、地獄そのものでした。
水をたっぷり含んだボールは、まさしく、凶器そのもの。
いくらおデコの中心でヘディングしても、本当に頭がクラクラして、一瞬、前が真っ暗になり見えなくなるのです。
一度、ヘディング直後にその重さの反動で、跳ね飛ばされてしまい、チーム全体からボロカスに怒鳴られたことがありました。
まあ……気力が抜けたプレーや凡ミスなどでボロカスに言われることは運動部の中では日常茶飯事なのですが、それでも気分がいいものではありません。
「あれからいったい、何十年やねん?」
興味本意に数えると、およそ38年。
今こうしてサッカーボールを両手で持って見つめただけで、38年の歳月が一瞬で消え失せ、あの時グラついた頭の感覚がよみがえりました。
それが糸をひき、なんか今日は朝から頭が痛い。
よって本日は家でゆっくりと休養いたします。