きつねとたぬき
20歳の頃、特殊な内容の仕事で、ちょくちょく東京に仕事…といってももちろんアルバイトに行くことがありました。
……この仕事の話は、今から考えたらそこそこ面白いので、死ぬまでにいつかおはなしするつもりです。
さて、生粋の関西人、まして尼っ子の私が、江戸に行って最初に驚いたのが、飲食店で「にく」といえば「豚肉」をさすことでした。
私ら関西人は「にく」といえば必ず「牛肉」を意味し、もしも「肉うどん」とか「肉玉モダン(お好み焼き)」などと注文して、豚肉が入っていたら、そら、相手によっては刃傷沙汰に発展しかねません。
そんな時、東京のうどん屋で、さらにビックリこいたことがあります。
それは、壁に貼られたメニューの「たぬきうどん」。
「なんやねん、それ?」
ちなみに関西では、最近はグローバル化してだいぶかわりましたが、本来、「きつねうどん」とは表記せず、単に「きつね」としかメニューに書きません。
その理由は、「きつね」は、おあげさん(油揚げ)が入った「うどん」に決まっているからです。そして「たぬき」は同じく、おあげさんが入った「蕎麦」。
ですから「たぬきうどん」なんてものは、そもそも表現に矛盾があり、想像がつかない食い物だったのです。
ただし関西でも京都だけは例外で、「たぬきうどん」というメニューが存在しましたが、観光客が多いせいか、わざわざ「京風」や「京都風」と前書きしてあることが多く、尼や神戸や大阪の人間に配慮していた感があります。
ちなみに京都風の「たぬきうどん」というのは「あんかけうどん」の事を言います。
本来、なぜ「きつね」と「たぬき」と呼ぶのかと言うと、あげさんの黄色い色と、麺の色との組み合わせが、それぞれ、きつねとたぬきの肌の色に似ているからでしょう。今なら人種差別で問題視されかねないネーミングです…って、なんでやねん!
京都の場合、ひとつひねって、うどんの出汁が、ドロン!…これは出汁の粘りのトロリにもかかってるのですが…ドロンと化けた、つまり、騙すのはキツネで、化けるのは狸、ということで「たぬきうどん」と、なったようです。
さて、東京の「たぬきうどん」。
どうやら、関西でいうところの「天かす」が入っているようですが、これも微妙に異なり、関西の「天かす」は、基本的に天ぷらを揚げた時の副産物で、原則、七味唐辛子と同じように無料であることがほとんどですが、関東ではわざわざそれ用に天玉を揚げてつくるそうです…知らんけど。
なんせ私らの常識では、「きつね」というだけで「うどん」、「たぬき」というだけで「そば」なのですが……
実は私が通った関西学院高等部の食堂には、「きつねうどん」と「きつねそば」が存在したのです。当時の料金は、たしか、110円やったと思います。私が16〜18歳。1970年の後半です。
実はこの「きつねそば」、麺が日本蕎麦やのうて中華麺だったのです。たしかに色目は、たぬきよりキツネです。
そのあたり、ちゃんとスジが通っていました。
余談ですが、関西の古いオッさんは、なぜか「きつね」を「ケツネうどん」と発音します。だいたいそんな人は「左官屋」を「しゃかんや」と発音する人です。
よう考えたら、世の中には不思議なことがいっぱいです。
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