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2国(国道2号線)の殺人鬼

 2018年の正月あけ、中学部・高等部からの友人、三ッ井くんが山口に来てくれました。
 昔の友と語らうのはホントに楽しいですね。時が止まっていたような思いがします。

 日本を代表するような大企業の系列会社の社長をつとめる彼は、実はその昔、私と一緒にバンドを組んでたメンバーなのです。

 おととい鹿児島から新山口に着き、昨日の朝、山口で仕事をし、昼過ぎに秘書室長のみを東京に返して、そのあと私と遊ぶことになりました。

 古い友達は、地球上で同じ時間、空間、空気において、たしかに歴史的に同期していたはずなのに、私とは違う視線で、そして違う脳みそで記憶をしています。

 この微妙……もしくは多大な差が、驚きと桃の木を生み出し、脳みその一部が覚醒して、そこから花が咲いたりします。
 その花が、パカン! と咲く時の音が、至極の快感なのです。

 三ッ井くんが車の助手席で、急に歌いだします。

「♪ いまは 昔…俺がニコク(国道2号線)を走ってた …牛どん屋が見える…あの交差点…ねえちゃんナナハンまたがって…オイラの方へメンチを切った……」

「なんやそれ?」

「オマエの書いた歌やないかい? 【ニコクの殺人鬼】、めっちゃええ歌やんけ」

「それくらいは覚えてるがな、そやけど、その歌のいったいどこが"ええ歌"やねん?」

「オマエなあ、こんな名曲ないぞ、あの時代やぞ、忘れもせん、1977年間の2月や。
簡単なコード進行だけが決まってて、オマエが即興で、その場数秒で、歌詞つけてメロもつけたんや。
 俺な、俺もあの頃とんがってたから、よう言わんかったけど、あれからもう40年経って、大人になったからな……実はな、オマエのこと天才やと思ったんや、その時」

「ええかげんやっただけやないかい?」

「それが、ええんやないか!」

「三ッ井、やっぱり絶対に変わってるわ、ようそんなわけわからん趣味とセンスで、マトモな大会社の社長つとまってるなあ?」

「アホ! 俺、めっちゃ仕事できるねんぞ」

「俺かって、やったらできるわい」

「いっしょにするな! 俺の場合はれっきとした企業や、上場企業やぞ、カタギやぞ、給料もくさるほど出るねんぞ、オマエみたいな隙間をゴキブリみたいに這いまわる不良とちゃうぞ」

「それがどないしてん? ほんなら何か? 大企業のサラリーマンや雇われ社長が、みんな偉いんか?」

「そこや、クボ、そこなんや! ……金や地位や役職なんかな、何の役にもたたへんぞ。若いうちはともかくな、この歳まできたらな……人間の勝ち負けはそんなとこやないぞ……

 あと、干支(えと)ひとまわり、12年経ってみい、俺らの同級生かなり死ぬぞ。あとひとまわりやぞ、桜が咲くのん12回見るうちに、確実に、何人かの葬式にでなあかんぞ、同窓会気分で…」

「もうすでに、死んだやつもおるからなあ……だいたいわしらの学年は早死にが多いねん。関学の中学部入った187人のうち、すでに1割近くは死んでるんとちゃうか?」

「そやけどな、オマエは死なへんわ」

「そんなことはないよ、最近カラダボロボロやもん」

「オマエめっちゃ体力あったやんけ、短距離も長距離も……」

「いったいいつのことやねん? 今なんか家の階段で、二階に上がっただけで息切れや」

「俺より体力ないやんけ!」

「世の中、そんなもんや。若いうちになんぼ毎日走りこんでも、60歳近くなったら、何も意味ない」

「よっしゃ、ついにクボに体力勝ったなあ、これこそウサギと亀の論理やな、俺なんか毎日駅の階段あがってるけど、息切れなんかないぞ」

「レベルの低い会話をするな、情けない」

「ところで、コレなんや?」

「五重の塔や、国宝や」

「ええやんけ!……山口に、こんなんあったんかって……ここっていったい、何ていうとこや?」

「るりこうじや」

「どんな字ぃ書くねん?」

「ここに書いてあるがな」

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