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りんごを磨く

 りんごをハンカチとかで磨けば、おどろくほど光ってきます。嬉しいから調子にのって、ますます磨き続けるのです。 

 実はりんごは熟すにつれて、リノール酸やオレイン酸などの脂肪酸が増加し、内側から皮に含まれるロウのような物質を溶かすらしいのです。
 
 時々それが表皮に現れて、ネトネトしたような状態になることがありますが、それを磨けば自然のワックスなので、さらにピカピカに輝くという寸法です。

 おそらくりんごの天然ロウ物質は、保温や保護の役目をしているのでしょう。 
 人間がつくるあとづけワックスは、日本では柑橘類だけのようです。 

 私は今日も、何かの物語に出てくる靴磨きの少年になりきり、自分の顔が写るまでリンゴを磨き、眺め、ため息をつき、りんごと語らい、おだて、ころがし、そしてナイフで6等分にして皮ごと食べるのです。 

 ほんの少しですが、心のどこかに、磨きこんだりんごに対する後ろめたさが芽生ます。
 けれどもそこで逃げずに現実に向き合い、自分自身と毎回小さな勝負をしています。
 まあ、ラジオ体操クラスのトレーニングのようなものです。 

 りんご1個で、朝からよう遊ぶわ、ホンマに……。

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