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エッセイ 多幸感をつかむ

 多幸感とは、脳内で快楽などを司るA10神経のシナプス間に、幸福感を司る神経伝達物質であるセロトニンが、大量に放出されている状態だそうである。
 だからそのような状態を、あえて人工的につくりだそうと考えた。

 そこでつい先日、同僚 スタッフが、昼間から口をあけて爆睡居眠りをかましていたので「握りっ屁」をしてやった。

「握りっ屁」とは、オナラが出そうになったら、自分のお尻に手の平をあてがい、出たガスを、水をすくうように手中に採取して封じ込むことである。
 そのこぶしを素早く、寝ている人間の顔の、鼻と口のあたりに近づけて、そっと指を開くのだ。

 実は30分くらいのあいだに4回試してみたのだが、そのうち取り出すときにガス漏れをしたのか、それともその時に採掘されたガスの質が健全すぎたのか……3回までは、被験者に何の反応もなかった。

 ところが、4回のうち1回。

 被験者は、完全なる睡眠状態から、一瞬にして、「うっ! 臭い!」と、口にし、激しくカラダをくねらせたのである。

 その「静」から「動」への切り返しの素早いこと、鋭いこと……とても人間技とは思えなかった。

 しかし、その直後から、被験者は、まるで何事もなかったかのように、またまた爆睡してしまったのである。

 目覚めてからたずねてみると、夢の中で、なんとなく臭い思いをしたのは覚えているが、詳しくは記憶にないとのこと。
 なんとめでたいことか。

 4回のうち1回の成功ということは、打率2.50 になる。
 打率は決して高くはないが、率よりも内容である。それが逆転ホームランであれば、打率などどうでもよくなる。

 とにかく、この「握りっ屁」が瞬間的な効果を発した時の私の興奮たるや、凄まじいもので……なかなかこんな感動は味わえることではなく、とにかく何よりも超ハッピーになり、なんだか寿命が1カ月ほど伸びたようにさえ思えた。

 ついでに、ひとりで笑いすぎて、思わずオシッコを漏らしそうになった事実を、正直に付け加えておく。

 昨日、その話を知人にしたら、サディストの気があるのでは? と疑われたのだが、そんな気はさらさらない。

 別にいじめてるわけではなく、そのびっくり箱のような反応……効果によって、自らの体内から放出されたガスの存在感が圧倒的に確認できるということなのだから。

 いやはや、とにかく、幸せになれるのはまちがいない。天晴、握りっ屁。

 なにごとも食わず嫌いはよくない。

 ほかに誰も目撃者がいない時を見計らえば、あなたもトライして、決して恥ずかしくはないのだ。そして、信じる者は救われるのである。

 まあ、騙されたと思って、ぜひ一度、まわりの誰かが寝ているときに試すことをおすすめする。

 対象が起きてる時は、防御されて、さらに息を止められてしまうので、効果があまり期待できない。

 もしも首尾よく成功すれば、脳内で快楽などを司るA10神経のシナプス間に、幸福感を司る神経伝達物質であるセロトニンが、大量に放出されて、強烈な多幸感に溢れることは、科学が証明しているのだから。  了

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