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名月との会話

 真夜中、すべての電気を消した山口の部屋。
 うたた寝していたら、ふと誰かに肩をさすられて、目がさめた。
 けれどもそばには誰も見当たらない。

「あれっ? なんだか外が明るいぞ」

 窓ごしに、室内にまで、ほんのりとあかりがはいってきている。

「ちょっと待て、もう夜明けか? 今日は早めに、ちょっと休憩するつもりでベッドに入ったばっかり ヤンケ!」

 あわてて時計を見ると、0時53分。

 テラスに出ると、雲ひとつない夜空の、
天頂付近に、まん丸なお月さま。

「なんや、あんたやったんか?
こんばんわ……」

 山並みも、田んぼも、道路も、民家も、みんな、みんな、薄く照らし出していた。

 なるほど、これぞまさに名月。

 しばらくのあいだ、お月さんと、世間話をして、それからまた、布団の中に戻った。
「私はね、実は、♪月がでたでた、月がでた〜の、炭坑節が、妙に好きなんですよ」

「そうかね、ワシもあの歌は好きじゃよ……でも、月月に月見る月は多けれど月見る月はこの月の月 ゆうのも、ええねえ、詠み人は知らんけど」。

「お月さん、悪いけど、もう一眠りしまっさ」

「そうかね、なら、おやすみ」

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