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エッセイ 宮崎くん

 私の弟子の、ミスターエックスではありません。ミスターマックス。ディスカウントストアです。

 そのミスターマックスの店内通路を、トイレに向かって歩いていると、前方から近づいてくる、見知らぬお母さんと遭遇しました。

 お母さんは、右手で小さな女の子の手を握り、左手には、レジを済ませたあとの重そうなビニール袋を下げていました。

 すると、女の子が突然、お母さんの手を離して駆け出しました。しかもお母さんの顔を振り返りながら……。

「前を向いて歩きなさい!」

と、お母さんが鋭く叱ったと同時に、女の子は後ろを向いたまま、イノシシのように私に向かって突進してきました。

 私のおへその下くらいに、ちょうど彼女の頭が命中しそうになりました。北朝鮮のミサイルより正確に……。

 私はとっさに、

「オット っト……」

 と、両手を広げ、腹筋に力を入れてお腹をしぼり、腰とお尻を凹(ボコっ)と引っ込めたまま、女の子との衝突を、平泳ぎのような格好でかわしたのですが、足がもつれてこけそうになり、自販機に背中を思いっきりぶつけてしまいました。

 お母さんが、あせって、大きな声で、
「すいませ〜ん」と、私に謝ります。

 私は、

「あ〜びっくりした〜」

と、ニコニコ笑いながら、そのまま、トイレに向かいました。

 たったそれだけのことです。

 数十秒後、キレがわるいオシッコをしながら、TOTO の文字を見つめて、じっくり考えました。考える時間がたっぷりあるのが、また情け無い。チョロチョロチョロチョロ……。

「さっきみたいなケースでも、きっと、被害者ヅラして、声を荒げて文句を言うヤカラも、おるんやろなぁ…」っと。

 何がそうさせるのか?
 気分か、ストレスか、貧乏か、失恋か、育ちか、躾か、DNAか……

 別に私にストレスがないわけではないのですが、そもそも最初から悪気が全然ない親子に、小指の先も、怒りなどわきません。あたりまえです。

 そら、子供が騒ぎまくってるのに、知らん顔してる、アホなおかんは、あきませんよ。

 とにかく、
「オオット っト……あ〜びっくりした〜」で、すべて解決……人間社会の「当然」です。

 これがあたりまえで済まない社会にだけは、絶対になって欲しくありません。

 宮崎くん。
 聞けば君、関学大の出やそうやないですか。

 ワシは中高だけが関学で、大学には進んでないけど、おんなじ三日月の校章のもとに通った人間として、
 さらに、建学の精神、マスタリーフォーサービス、奉仕のための練達……をこめた、北原白秋せんせの校歌を歌ったはずでっしゃろ?

 やっぱり、君、あかんよ。

 ハッキリ言って、それ、やってること、人間のカスやわ。根本が間違ってるわ。

 今回、ちゃんと刑務所で反省して、キレイな身体になって、シャバに帰ってきて、一から生まれ変わらないかんよ。

 世間の風当たり……社会的制裁は、一生継続して厳しいやろうけど、一応、ワシも大きなくくりでは、関学の先輩にあたるわけやから、

 刑務所を出たあと、反省してるのに、それでもなおかつ世間から嫌われまくって、差別されて、行き詰まったら……山口においで。

 ミスターエックスと一緒に勉強したらええよ。

 ラジオにも出て、別のキャラクターを作ったらええよ。

 そやけどここでは、ミスターエックスが先輩やから、まずは先輩をたてて……その先輩から、学ぶものは、めちゃくちゃたくさんあると思うよ。マジで。

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