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夏の終わりの自称親友

僕はついに視力がなくなりました。
メガネもコンタクトも嫌いでしたからずっと裸眼だったんです。
地雷を踏んだようにある瞬間を境に視力は落ちていきついには何も見えなくなりました。

真っ暗な世界を想像していましたが世界はピカピカでまぶしくてまぶしすぎて何も見えないってこんなかんじなんだーと驚きました。
光だらけでまぶしい世界に投げ出されたように感じました。
身の周りの些細な出来事はどうでもよくなり気になりません。
ただ一緒に住んでいる猫だけはどこにいるのか何をしているのか何を言いたいのか何をしてほしいのかが以前よりもわかるようになり、これはうれしかったです。

ある日、初めて聞く声が我が家に訪ねてきました。
五回忌を過ぎた名物爺様の親友だったとツッコミをさえぎるように言い切るのです。
なんだかねちゃねちゃしたしゃべり方で早く帰ってくれないかなーと僕は内心思っていました。

その頃の我が家の問題といえばレバー式の水道の蛇口が自然と止まってしまうことでした。
手を洗っていてもすぐ水が止まる。
食器を洗っていても水がすぐ止まる。
ガタがきてるのかな?

なんだかんだ言っては数日居座った自称親友はようやく帰る素振りを見せました。
やれやれだぜまったく。
僕は自分でもわかるくらいそっけない態度だったと思います。

玄関を出る直前に振り返りながら自称親友は思い出したように言いました。
君のお父さんはね、無駄遣いが大嫌いだったよね?
電気の消し忘れとか、水道の止め忘れとか、大嫌いだったよね?

近所の子供達や犬や猫に大人気でタバコ臭かった名物爺様。

業者はハトマメ顔ですぐに点検を終えました。
その日の晩ごはんでは名物爺様の思い出話に花が咲きました。
ヒグラシがおとなしくなりはじめた頃のことでした。
換気で開けた窓からタバコの臭いがからまってきて僕たちはにこにこしながらご飯を食べました。

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あれはちょっと不思議だったよね?という出来事は案外身近なものだしおどろおどろしいものではないと思うんです。
マウントの材料にしたりすがりついたり、、、何のために人はそんなことをしてしまうのか。
だめで平凡な自分でいいじゃないですか。

2020 10. 21

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