国民民主党公約の「基礎控除を103万円→175万円」を実行するとなにが起きるか?
総選挙で議席を増やした国民民主党が与党と部分連携をするかもしれないという報道がでており、すると、公約として掲げていた「基礎控除を103万円から175万円に上げる」というのを実行すると、財政にどういうインパクトがあるのかを考えてみました。
先にお断りしておくと、私は税や財政の専門家ではないので、いろいろまちがっている可能性があります。とりあえず妄想ベースで考えてみます。
そもそも「103万円」とはどういう金額かというと、所得税計算の際の基礎控除である48万円と給与所得控除の最低額である55万円を足したものです。基礎控除は一定なので(厳密には高額所得者の場合は減少しますが、この検討とは関係ないので無視します)、給与所得者控除が年収に応じて変動することになります。
国税庁の算式に従って計算すると、所得控除等の引き上げによってメリットがある年収は、395万円が上限となります。
国税庁の資料によれば、年収100万円~400万円の人は男性で924万人、女性で1,227万人となっています。
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2022/pdf/002.pdf
所得控除等の引き上げの恩恵を受けられる人はこの範囲の方々ですから、中央値の250万円の人で試算してみます。
年収が250万円の人であれば、現状だと、83万円+48万円=131万円の控除が受けられるところ、これが178万円に引き上げられれば、控除額が47万円増え、所得税率が5%、住民税の10%とあわせて、年間約7万円の減税ということになります。
ざっくり2,000万人にこの減税額が適用されるとすると、7万円×2,000万人=1.4兆円の減税額ということになります。
これはあくまでも勤め人の話ですので、フリーランスの青色申告基礎控除とかがどうなるのかとかはよくわかりませんが、いったんはこの数字で考えてみます。
1.4兆円の所得税減税となるので、所得税減税の乗数である0.2を乗じれば、GDPは、1.4兆円×0.2=約3,000億円ほど増加することになります。
※「乗数」とは、国の支出や減税に対して、どのくらいGDPが増えるかの掛け目のことです。0.2というのは内閣府の資料にありました。
【引用】個人所得税を名目 GDP の1%相当額継続的に減税した場合の実質 GDP の拡大率(1年目)は、概ね 0.2%程度である(表 2-3 参照)。
税収弾性率という数字があり、これは、GDPが1増えると税収がいくら増えるかを表す数字です。長期的には税収弾性率は1.1~1.3くらいになるようですので、上限の1.3を採用すると、税収の増加額は、3,000億円×1.3=約4,000億円となります。
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/8388.pdf
結局のところ、この所得税減税により、税収減が1.4兆円、税収増が0.4兆円と成り、差し引き1兆円ほどの税収の減額が起こることが予想されます。
1兆円の税収減というのは非常に大きく、たとえば、東京オリンピックの国庫負担が約3,600億円、大阪万博の国庫負担が(いまのところ)1,600億円だそうなので、所得控除を178万円に拡大することにより、毎年オリンピックと万博を2回ずつ開催するような負担が生じる可能性がありそうです。
つたない財政の知識で推計してみましたが、EBPM(エビデンスに基づいた政策決定)の観点からは、「手取りを増やしたその先」をみなければなりません。1兆円の税収減というのは確実にどこかにしわ寄せがいく金額になりますので、しわが寄せられる先をしっかり見極める必要があります。
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