スミちゃんの不味い飯 第4話

みなさんごきげんよう。
ここは駄々花町8丁目、スミちゃんのアパートがあるエリアです。えっと…スミちゃん、スミちゃんの表札は…と。え!?スミちゃん、本名「スサオカミツヨ」っていうんですか!スミちゃん全然ちゃいますがな、あぁ氏名のそれぞれ頭のスとミなわけですか。どうでもいいですが、表札っていいますか、斜めになって落っこちそうなステンレス郵便受けのところのステッカー…え、ちっさい。あぁ…女性ですもんね。物騒な世の中ですから、あれこれ用心って理由もあるんでしょうかねえ。にしても…、文字が揺れ揺れブレブレで酷く怖いんですけど…。


あれから一晩経ちました。その間、スミちゃんはドンさんの言われた通り家へとまっすぐ戻り、タラさんに言われた通り水ばかりを口に含み、とにかく横になっていました。アパートのドアのカギこそ掛けたようですが、それ以外、カーテンもしない、ユニットバスのドアは開いたまま、ティッシュもあっちこっち散乱したままです。まぁこんな日もあるでしょう、仕方ありませんね。

すると、そこにやってきた一人の女性…。

「あーけーて、スミちゃん、ここあーけーて!」

と言いながらもアパート二階角部屋通路に面した台所の小窓をドズッと開けて飛び込み、室内へと入ってきたこのクノイチのような強引女性。近所に住むスミちゃんの友達、リュンさんでした。

「店行ったらさ、スミちゃん吐いて店休んでるって聴いたからこっち来て見た。なんだよ、マジで死んでんじゃん、どしたのさ?」

手ぶらかと思いきや、玄関ドア内側から開けてみると、廊下には3つの比較的大きめな手提げ袋が。沢山買い込みましたねえ。あ~あ~あ~、スミちゃん食べられないのに…。

「私が久々に大味なメシでも作ろうか?スミちゃん食べる?」

「食べられるかどうか…もう、わかんないんだ…」

「どういうことよ?それ。ゆっくりでも説明しちゃってみ?」

シュシュでまとめていたロングヘアを一旦下ろし、もう一度きれいに結び直したリュンさん。

リュンさんて人は強引ではありますが、結構待つことには慣れてらっしゃるようで。スミちゃんの躊躇する姿、濁った瞳、そのへばった様子にも別段イラつく様子もなく散乱したティッシュをゴミ箱へまとめて捨てたり、買ってきた食材を出してはまとめ、冷蔵庫にどんどん仕舞って行く様なんかは、なかなかこれ、頼もしい感じさえしてまいりますよ。

「あのさ…、ドックくん、知ってるよね」

「うん、あの一浪でクリーニング屋の息子ってヤツだよね」

「…そこのさ、…お母さんにさ…」

躓きつつではありますが、昨日起きた様子を淡々とスミちゃんは語りました。リュンさんは眉間にシワを寄せながら、ひとつひとつに言葉はないですが頷きながら、真剣にスミちゃんの言葉を漏らさないようじっと聴いていたようです。

「そんなことあったんだ、昨日。あぁ、ランチしに行けば良かった。そしたら一言二言ドックくんに言ってやれたのに」

「なんでドックくんなのさ」

「だってドックくんじゃん!あいつが疑似二股恋愛みたいなことして煮え切らないからこういうことになってんじゃん?あいつスミちゃんに惚れてるだけじゃね?」

「その角度はしらん」

「あいつが昨日きっぱりした態度見せつけてくれてたら、スミちゃんそんなに傷つくことなかったべ?そうは思ってないわけ?」

「しらん。そうかもしらんがしらん」

スミちゃん、ドックくんのこと、普通にお客さんとしかみてない様子ですね。

「じゃああんたどこの何で傷ついてるんですか!なんで吐きまくってるんですか!」

「わからんよ、そんなこと…」

「あぁぁぁぁぁぁ!なんかわけわからんちくなってきたら急にお腹すいてきた!スミちゃんのカレーが食べたい、スミちゃん食えないなら私が食うからカレー作って!」

なんていう大逆転な発想でしょうか。そうですか、食べられないなら作ってくれコノヤロウですか!とはいえそれ、可能でしょうか?スミちゃん。

「…わかった。途中で吐くかもしれないけど、できるところまで作る」

料理人としての血が騒いだんでしょうか、スミちゃんゆっくり立ち上がってフラフラヨロヨロとキッチンへと向かいます。まぁ7歩も歩けば着くんですけれども。

冷蔵庫にしまってあった野菜と肉を取り出して開始です。ごしごしと野菜を洗い、手際良く皮を剥きザッスザッスと切って。特に小粋な計らいをするわけでもなく、冷蔵庫から水を取り出し鍋に入れ、火にかけ…といたって誰でもできそうな料理行程。それからもドコドコkと野菜が投入され煮込まれていきます。途中容赦ないコンソメと野菜の美味しそうな匂いが部屋中を襲いましたが、スミちゃんエプロンからマスクを取り出し装着。グッェグッェ嗚咽交えながらもしっかりと仕事をこなしていました。

あぁそろそろでしょうかね…。
もうたまらん!とばかりにリュンさん、すくっと立ち上がり台所へ近づきます…。

「いい匂いだ。市販のルーとか調味料とか色々混ぜて使ってるんだよね?けど、スミちゃんのカレーはなんっていうか、また一週間くらいしたら食べたくなるよなさ、後を引くちょい辛、でも野菜の甘さがじゅんわり出ててさー、なんだろ、説明できないカッコよさがあるんだよね」

「ご飯冷凍庫。チンして」

「了解!」

部屋中がカレーに包まれています、カレーが部屋になっていると今なら言ってもいいほどです。

「できた」
「あざ~~~~すっ!んじゃいっただきまぁす!」
「あたし、…ごめん。トイレいる」
「おぉーごめんごめん。しんどいところ作らせちまって。どこでも行くがよいよ」

よっぽど空腹だったのでしょうね、リュンさん。怒涛の勢いでございます…が。

「カラッ!!んげ辛い!!どどしだごでー!!超~辛いんだけど、スミちゃん!あたしの好みちょろ甘辛いの知っててこれ??いや、尋常じゃなく後からガウガウ辛いの襲ってくるんっすけど!あ、まさかと思うけどこれ、押しかけた嫌がらせ?」

「え、そんなことない…」

と、トイレのドアを開けて籠ろうとしたスミちゃん、マスクを外して座っておそるおそるそのカレーの味見をしました、ら…。

「辛い?なんで…?全然辛くないんだけど」
「いやいやいやいやいやいやいやいや辛いって!この辛さがわかんないってちょっとスミちゃん、どうかしてない?え?味見して作ってなかったの?」
「いつも通り…作った。ん…?…辛くない…って、か…」
「ん?どした?スミちゃん…」


スミちゃん、固まってます。なぜかすごーく固まってしまってます。

「味が、…あ、…は、味ない…辛いの?これ」

「辛いよ?斑にハゲそうなくらい、毛穴300%開きそうなくらい辛いよ?」

「辛いん、だこれ…は、はっ、は、ははははは」
「どどどどどしたどした?!スミちゃん?」
「わからない、味わかんない!あ、なんだこれ、…はは、はははは…」

スミちゃん、心のどこかのネジがポチッ、ブチッとれたようなカスッカスッの笑いが止まりません。しかし笑いながら涙も零れてます、もうなにがなにやらです。そしてまた泣き崩れました、トイレの前で愕然です、スミちゃん。

「スミちゃん…。味わかんなくなっちゃったっての?」
「辛く、…ない…全然…」
「…もう相当じゃん、これ…」


このまま辛いカレーは放置腐食されるのかと心配でしたが、リュンさんそこは貧乏性が功を奏し、牛乳とチーズを足してどんどんまろやかカレーへと変身させた様子です。

「これでよしと。ベースはスミちゃんカレーで美味いんだから大丈夫っと。…ごめん、私が空腹でスミちゃんカレーフェチだっただけに、食い意地の方が勝っちゃって。しっかりスミちゃんのことサポートもできなくて…ごめん」

「カレー作ったせいでも、リュンさんのせいでもない。…全部自分のせい」

そう呟いて、リュンさんが買ってきてくれた硬水の入ったペットボトルを握りしめたスミちゃん。微量でもちゃんと飲んでます。タラさんの言葉、守ってるんだ、えらいえらい。

"全部自分のせい…"


どんな心持ちでこの言葉を呟いたのか、まださっぱりわかりませんけれど、味覚を壊したことで、何かスミちゃんの心にこれから変化が起こるのかもしれません。いえ、この際、者は考えようです、良い方向へ向かうことを願いましょうよ。リュンさんもこうやって見守ってくれているわけですから。




…スミちゃんの不味い飯。
続きは後日にいたしましょう、あ、言い方変えてみました by カタリB


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