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競馬場には行ってない① ~天皇賞(春)~

2015年の春の天皇賞。
当時の勤め先に馬好きの方がいて、レースに合わせて10分ほど休憩をもらい一緒に職場のテレビを見ていた日曜日。
この春天は馬券も買っていなかったが、どんな結果になるのだろうとドキドキしながら見た。
後に数百億円を紙切れにした大御所を見るためだ。

ゴールドシップ。
その名にふさわしい堂々たる出で立ちと気性の荒さは競馬ファンにとどろいていたが「ちゃんと走ったら無敵」というものすごい馬という事も知っていた。
3才のクラシックは2冠、その年の有馬記念も優勝。
凱旋門賞も出走したことがある。
G2の阪神大賞典は、2013~2015と3連覇と負けなしの素晴らしい功績だ。

が、しかし。
ムチは無視する、調教でナポレオンの画のように立ち上がる、走りたくない時は凡走、ゲートでは他馬を威嚇し、吠えるわ立ち上がるわやりたい放題。
これがパドックでは案外大人しめで、ゲートを出ないと走るかどうかわからないという、まさにギャンブルにふさわしい馬だった。

雲行きはゲート付近であやしくなる。
ゲートに入らない。
後ろ足がビョンビョンしている。
多分3分くらいは人との攻防が続いた。
「ゴルシ入らないね」
「さすがだわ。こりゃダメかなー。」
「ヤバいヤバいww」
2人でケタケタ笑っていた。

ようやくゲートに収まりスタートをきるも、全くダッシュがつかず最後方。
地鳴りのような声が飛び交うスタンド前を通過していく。
「ゴルシ大外すぎw」
「どういう状況?w」
スタンド側からのカメラでは違いはあまりわからないが、正面から写したカメラでは、他馬がロスなく内ラチ沿いを走っているのに対し、ゴールドシップは1頭ポツンとより観客席側を走っていた。
3200mというG1では最長の距離を走る春天では、いかにロスなく内を走るかがカギでもあるのに、ロス所の騒ぎじゃない。この大外は致命的。

スタンドを過ぎてコーナーを曲がり、向こう正面へ走っていって、レース中盤グイグイ後方から上がっていく馬がいた。
ゴールドシップだ。
残りまだ1000m以上はある。
「え?え!?ゴルシ行ったよ!」
「どういうこと?!」

こちらの処理が追い付かない内にグイグイ前に上がっていく。
最終コーナーを曲がり4番手辺りまで着順を上げ、なおもグングン進む。
他馬が後ろから猛追しているが、全く衰えないスピード。
逃げるカレンミロティック。
ゴルシ!ゴルシ!と叫ぶ2人。
フェイムゲームが切れ味を出した残り50mで抜かされるかと思ったがゴールドシップは1着でゴール板を駆け抜けた。

ラストスパートを残り1000mからする馬を見たことがなかったから、なんだかんだ凄いものを見たと興奮した。
1着で駆け抜けた後のオレスゲーだろと言っているかのようなゴルシのドヤ顔はカッコ良かった。

ひとしきり騒いだあと、粛々と仕事に戻った。
まだ2時間は働く。
この落差は結構寂しいが、看護師さんとのこの時間は楽しかった。

後日談で、横山騎手がスタンド前で大外を回った理由が「観客の声を聞かせて馬にやる気を出させた」との事だった。
人馬一体でギャンブルしてたのかと思うと背筋がゾワっとした。
こんな不安定な人馬が春天を優勝するなんてあるのかと、つくづく、ポテンシャルはものすごい高い馬なんだなぁと思った。もちろん騎手も。

これを最後にゴルシは、3連覇のかかった宝塚記念で120億をJRAへプレゼント事件という偉業を成し遂げ、掲示板にも上がることはなく引退した。
数年後にゲームやアニメで再来する人気は流石だなぁと思って見ている。

明日の天皇賞はどんなドラマがあるんだろう。
とにかく皆、特にメロディーレーンが無事に走ってくれたら、と、推しを応援しつつ、たまに引退した馬たちを思い出すひととき。

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