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ふるさと納税最高裁判決~part1~

今月の租税裁判例のご紹介をしたいと思います。

4月に注目していた2つの判例ですが、いずれもまだ判決文が公開されておりません。今月は少し前のものになりますが、去年の6月30日に出ました、ふるさと納税についての判例をご紹介します。
国が、泉佐野市をふるさと納税制度の対象自治体から除外したことの適法性についての最高裁判決です。
判決文は裁判所のHPで公開されております。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/537/089537_hanrei.pdf

こちら、前回の記事でも軽く紹介しました。
泉佐野市が、ふるさと納税制度に係る平成31年総務省告示第179号(以下、本件告示といいます。)2条3号の規定のうち、法律改正前の寄附金の募集及び受領について定める部分が法律の委任の範囲を逸脱した違法であるかなどを争い、本件告示に基づく指定取り消しの決定を求めたものです。
最高裁判所は原判決を破棄し、当該決定を取り消しています。

ふるさと納税制度についてはご存知かと思われますが、納税者が応援したい自治体を選び、寄附をします。その寄附金が、控除上限額の範囲内であれば、自己負担額2000円を除いて所得税や住民税から控除され、返礼品として、自治体から特産品などをもらうことができるというものです。
ふるさと納税を利用してお肉やお米、フルーツをもらっている方も多いのではないでしょうか。

さて、わずかな負担額で、返礼品がもらえるという納税者にとってお得なふるさと納税ですが、今回の判例で問題になったのも、この返礼品でした。

そもそも、ふるさと納税は、以下の問題提起から始まりました(総務省「ふるさと納税研究会報告書」(平成19年10月)。平成19年5月8日第166回国会総務委員会菅総務大臣発言。)。
①お世話になったふるさとを応援したい。
②税金を納める先を自分で決めることで税金の使い方について考えるきっかけとなる。
しかし、実際に運用してみると、多くの納税者は返礼品の豪華さによって寄附先を決めるため、自治体間の返礼品競争が始まりました。

こうした返礼品競争に問題はあるのでしょうか。
もちろん、納税者からすると、もらえる返礼品の量や質が上がるというメリットがあります。
一方で、本来公共サービスに使われるはずだった税金が返礼品を購入することに使われます。よって、返礼品の調達コストが上がるほど、公共サービス提供の質が下がることにつながるという問題があります。

政府もその競争を抑えるべく、毎年総務大臣が通知を出していました。それでも返礼品競争は収まらず、ついには平成31年の地方税法改正により、ふるさと納税指定制度が導入されました。
時系列を総務省がまとめたのが以下になります。
平成29年4月総務大臣通知を発出
・「寄附額に対し返礼割合の高い返礼品」について、速やかに返礼割合を3割以下とするよう要請
・「金銭類似性の高いもの」、「資産性の高いもの」、「価格が高額なもの」を送付しないよう要請

平成30年4月総務大臣通知を発出
・返礼割合が3割を超えるものを返礼品としている団体に対して、責任と良識のある対応を徹底するよう要請
・地域資源の活用が図られるよう、「地場産品以外の送付」について良識のある対応を要請
各種会議等あらゆる機会を通じて地方団体に見直しを要請。サイト運営事業者にも協力を要請

同年7月
「返礼割合3割超」及び「地場産品以外」の返礼品を送付し、多額の寄附を集めている12団体を公表

同年9月
9月1日時点の見直し状況の公表に併せて、「過度な返礼品を送付し、制度の趣旨を歪めているような団体については、ふるさと納税の対象外にすることもできるよう、制度の見直しを検討」することを大臣閣議後記者会見において表明

平成31年 地方税法改正案を通常国会へ提出

その制度では、返礼品を原則地場産品とする、返礼品は寄附金の3割以下とする、その他募集適正基準等が定められたのですが、その基準については、総務大臣に委任されていました。

そこで、総務省は、その基準を示すべく、本件告示を発出したしました。その中に今回問題となる2条3号がございます。
本件告示2条3号は、募集適正基準について、平成30年11月1日から申出書を提出するまでの間に、ふるさと納税の趣旨に反する方法により他の地方団体に多大な影響を及ぼす寄附金募集を行い、他の地方団体より著しく多額の寄附金を受領した地方団体でないことを定めていました。
つまり、地方税法改正前にふるさと納税の趣旨に反した寄附金募集をしたという事実に基づき、改正後に指定を行わないというものでした。

泉佐野市は高還元率の返礼品を受け取れるとして有名だったのですが(還元率は3割を大幅に超える、およそ5割ほどでした。)、その泉佐野市が、平成31年4月5日付けで、総務大臣に対し、ふるさと納税の対象団体としての指定を受けるため申出を行ったところ、総務大臣は、令和元年5月14日付けで、泉佐野市に対して、当該指定をしない旨の決定(以下「本件不指定」といいます。)をしました。
そこで、泉佐野市は本件不指定の取り消しを求め、訴訟を起こしました。(なお、この訴訟の前に国地方係争処理委員会の審査がございました。)
以上、事案の概要について説明しましたので、次回から判決の中身に移りたいと思います。

次回はこちら

弁護士 三木隼輝(みきじゅんき)

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