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ふるさと納税最高裁判決~part2~

前回の記事はこちら

前回は令和2年6月30日ふるさと納税最高裁判決の事案の概要について説明しましたので、今回は、判旨についてみていきましょう。
判決文は裁判所のHPで公開されておりまして、こちらになります。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/537/089537_hanrei.pdf

まず今回問題となる関係法令(告示を含みます。)を載せておきます。地方税法37条の2第2項、平成31年総務省告示第179号(以下、本件告示といいます。)2条3号です。

地方税法37条の2第2項 
前項の特例控除対象寄附金とは、同項第1号に掲げる寄附金(以下この条において「第1号寄附金」という。)であつて、都道府県等による第1号寄附金の募集の適正な実施に係る基準として総務大臣が定める基準(都道府県等が返礼品等(都道府県等が第1号寄附金の受領に伴い当該第1号寄附金を支出した者に対して提供する物品、役務その他これらに類するものとして総務大臣が定めるものをいう。以下この項において同じ。)を提供する場合には、当該基準及び次に掲げる基準)に適合する都道府県等として総務大臣が指定するものに対するものをいう。

一 都道府県等が個別の第1号寄附金の受領に伴い提供する返礼品等の調達に要する費用の額として総務大臣が定めるところにより算定した額が、いずれも当該都道府県等が受領する当該第1号寄附金の額の100分の30に相当する金額以下であること。
二 都道府県等が提供する返礼品等が当該都道府県等の区域内において生産された物品又は提供される役務その他これらに類するものであつて、総務大臣が定める基準に適合するものであること。

平成31年総務省告示第179号2条3号
平成30年11月1日から法第37条の2第3項及び第314条の7第3項に規定する申出書を提出する日までの間に、前条に規定する趣旨に反する方法により他の地方団体に多大な影響を及ぼすような第1号寄附金の募集を行い、当該趣旨に沿った方法による第1号寄附金の募集を行う他の地方団体に比して著しく多額の第1号寄附金を受領した地方団体でないこと。

本件の争点は総務大臣が不指定理由としてあげた以下の2点が正当かどうかです。
1 平成30年11月1日から申出書を提出する日までの間に,返礼割合が3割超又は地場産品以外の返礼品を提供することにより寄附金の募集を行い,著しく多額の寄附金を受領しており,本件告示2条3号に該当しないこと(判決文中不指定理由②です。)
2 現に泉佐野市が実施している寄附金の募集の取組の状況に鑑み,地方税法37条の2第2項各号に掲げる基準に適合する団体としては認められないこと(判決文中不指定理由③です。)
なお、総務大臣は不指定理由としてもう1つ理由(不指定理由①)を挙げていましたがそちらについては撤回しました。

判旨を紹介します。
不指定理由②につきまして、少し長いですが、判決文を要約しつつ紹介します。

まず、判決は本件告示2条3号の規定の違法性について、
① 地方税法37条の2第2項は,募集適正基準の策定を総務大臣に委ねており,同大臣は,この委任に基づいて,募集適正基準の一つとして本件告示2条3号を定めていること。
② 地方自治法245条の2が、国が普通地方公共団体に関与するには法律又はこれに基づく政令によらなければならないとする,関与の法定主義を規定するところ,本件告示2条3号は,この関与に当たる指定の基準を定めるものであること。
これらのことから、本件告示2条3号の規定が地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱するものである場合には,その逸脱する部分は違法で無効であるとしました。

次に本件告示2条3号の規定が委任の範囲を逸脱しているかどうかの基準についてです。
① 本件告示2条3号は,本件指定制度導入前の返礼品の提供の態様がふるさと納税制度の趣旨に反する方法で行われており、著しく多額の寄付金を受領した地方団体について、指定を受けさせないものである。つまり、地方団体が本件改正規定の施行前における募集実績自体(返礼品の提供の態様)を理由に指定の対象外とされる場合があることを定めるものといえる。
② そして、本件改正規定の施行前は、返礼品の提供について法令上の規制がなく、地方自治法245条の4第1項の技術的な助言である総務大臣の通知があるだけであった。
③ 地方自治法247条3項は、国の職員は普通地方公共団体が国の行政機関が行った助言等に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないと規定しており、その趣旨は,普通地方公共団体は助言等に従って事務を処理すべき法律上の義務を負わず,これに従わなくても不利益な取扱いを受ける法律上の根拠がないため,その不利益な取扱いを禁止することにあると解される。
④ そして、本件告示2条3号の規定は、実質的には従前の総務大臣による技術的な助言に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを定めるものであるから,実質的には,同大臣による技術的な助言に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを定める側面があることは否定し難い。
以上から、地方自治法247条3項の趣旨(上記③です)も考慮すると,本件告示2条3号が地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱したものではないというためには,本件告示2条3号のような趣旨(他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るというものです。)の基準の策定を委任する授権の趣旨が,同法の規定等から明確に読み取れなければならないとしました。

そして、この基準をもとに、本件の具体的事情のもとで以下の検討をしています。
① 地方税法37条の2第2項柱書き及び他の同法の規定を見ても本件告示2条3号のような趣旨は読み取れない。
② 委任の趣旨からしても、本件告示2条3号のような趣旨の基準を設けるか否かは、立法者において主として政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄であり、また、そのような基準は、地方団体の地位に継続的に重大な不利益を生じさせるので、総務大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当な事柄とは言い難く、本件告示2条3号の基準を定めることを委ねたと当然に解せない。
③ 本件法律案の作成の経緯や、国会の審議の過程においても、募集適正基準が本件告示2条3号のような趣旨を含むことが明確にされた上で審議・可決されていない。
以上から、地方税法37条の2第2項につき,関係規定の文理や総務大臣に対する委任の趣旨等のほか,立法過程における議論を斟酌しても、本件告示2条3号のような趣旨の基準の策定を委任する授権の趣旨が明確に読み取れるということはできないとし、
「本件告示2条3号の規定のうち,本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は,地方税法37条の2第2項及び314条の7第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべき」と判示しました。

また、不指定理由③について、確かに泉佐野市の従前の返礼品の提供の態様は、社会通念上節度を欠いていたと評価されてもやむを得ないものの、従前は返礼品の提供について特に定める法令上の規制が存在しなかったのだから、法令上の規制が設けられた後も同様の態様による提供を継続するものと推認することはできないとし、不指定理由③については認められないと判断しました。

以上、不指定理由②、不指定理由③ともに認められず、不指定処分は取り消されることになりました。

以上が、判旨になります。

この判決には裁判官による補足意見がついております。
その中で、林裁判官が泉佐野市の「勝訴となる結論にいささかいう結果を居心地の悪さを覚えた」と表現しております。
次回はそちらを紹介していきたいと思います。

弁護士 三木隼輝(みきじゅんき)

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