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歩荷さん

涼しい所に行こう、と言う夫に誘われ御岳ロープウェイ乗り場へ。山頂は薄暗い雲に包まれて見えない。だがここまで来ると空気は爽やか、陽射しは強い。

次々とやって来るロープウェイのドアを係員が開けてくれ、乗り込む。眼下に開田高原、緑がうねうねと続く。山頂駅に着くと更に涼やかな大気に包まれた。霧が掛かっている。御嶽社を巡り、行場山荘へも足を伸ばしてみる。そこから先は登山届が必要な道となる。カッパを着た下山者がやってくる。その中に歩荷が居た。

スチロールを何個か積んだ荷を背に、ストックを使いながら通り過ぎて行く。行場山荘は通過して行ったので、上の小屋への荷上げをしているのだろう。過去の山行で歩荷の人々を幾度か見掛けている。塔ノ岳の有名歩荷さんは元気で饒舌で、名刺まで頂いた。

歩荷という仕事に凄く惹かれる。体力と技量を存分に使う。力を発揮し仕事を黙々とこなす事に、躊躇や迷いや遠慮は要らない。むしろ力を使わずして成り立たない過酷な仕事だ。荷物と自分を、間違い無く目的地に運ぶというシンプルな目標と、その為の工夫や鍛錬はその人次第という所も、惹かれる理由の一つだ。

山を辞めて数年。変わらず続けているのはザックトレーニング。米を詰めたザックを背負い段差を上り下りする。重い荷を背負う時の姿勢の工夫、接地する足の重心の掛け所、そんな事が実際にやってみてこそわかるのだ。単純な動作だが、体力作りの基礎になっている。

それは仕事で無くても良いのかも知れない。何かの負荷を敢えて掛けて、力を養いそれを使う事。そんな事が好きで、そんな時間を無心に過ごしたいのだ。疲弊した身体と別の所で、心はどんどん澄み切って行く。そういうのがきっと好きなのだ。

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