思い墓


見えているということはさして嬉しいことでもない
悲鳴ばかりあげていないで笑顔を向けていたいのだけど
握る手が氷より冷たいと言う 事実で指はもうズタズタだけど
感じる眼差しのあたたかいことに 心はもう形をとどめず崩れ
私の呼吸と思考は緩やかに沈黙と化し 多分もう生きてはいない


  曜日を間違えるのはもういい加減やめにしませんか
  時計の針は右回りだから左に回してはいけません
  近頃訪問しても扉を開けてくれないのは もう私を認めたくないからですか
  日をまたいで朝 扉の向こう 寝不足なのはあなたも同じだ
  震えるその心持が鮮明に見える 「出会わなければ良かった」と


過去を否定することで未来への道は閉ざされて
どちらに行く事もできぬまま現在は宙につるされる
助けてほしいと声をかけて届く距離にいるのは彼
広い地平にただ一人だけ耳を済ましている人は彼
故に沈黙せざるを得ない 要領を得ない 何も得ない


  後姿はただ痛いだけで何の色気も見出せない
  前も後ろも右も左も向けない彼女はただうつむいて
  下から覗き込んだら泣き顔が見えた
  こぼれる涙を目に受けながら更にうつむくその下を行くと
  遂に地面に埋まってしまった 受けた涙は土に滲んだ



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