おおかみしょうねん


おおかみにおそわれたことはないけれど
おそわれるのはいやだから
だれもはいってこれないように
こころのドアにカギをかけた
そしたらそとにでれなくなった


「べつにいいし」とへやのなかで
しばらくひとりであそんでたら
だれかがぼくをよぶこえがした
ちいさなまどからひかりがはいって
たいようがてまねきしていた
しろいてがぼくのほおをなでた
かぎとひかりがぼくをぎゅうぎゅうはさむ
くるしくてたまらなくなったから
くろいカーテンでそとをかくして
まっくらなへや
きこえるおとがみんなこわい
とくにじぶんのこえがいちばんこわくて
こわいといってしまうことがこわくて
みみをふさいだ ぼくのこえも だれのこえも
ぼくのなかにとどかないように
けっきょくきこえていたおとから
いっしょけんめいめをそらして
そとからぼくをよぶこえを
「たすけてください」というこえを
いないふりしてむししつづけた

たすけをもとめるこえはきえ
いつしかおとすらきこえなくなり
しずかなしずかなじかんになった
ぼくはカーテンをあけた
そらはくもがかくしていた
かぎもあけて とびらをあけて
いっぽそとにでてみると
いくつかしたいがおちていた
ほかになにもなくとほうにくれて
いまにもかれそなかわをみた
ながれがとまってよどんだかわを
にごったみずにうつったぼくは
ちゃいろいけがわのおおかみだった



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