ちいさくもある

此の木に一枚と葉の無き頃に
確に此の手が渡した箱が
此の木が鮮緑に安らいだ今
確に其の手から此の手に渡った
勿論 乞うことすら望まなかった
理の無い由であった

惑える心持を只管抑えて如何を問えば
面は白々しいまでに明るく そして真に白く

「ちいさくもある」

白紙に似た返答の由でさえ不解としながらも
決て表より語らず返した

「だが おおきいはずだ」

君に一つ御願いが在る
事始める前の一言を
事終わる頃に言うは間違いだ

「投げてもよいか」

咄嗟に奪われ投げられた箱
柔らかい地に触れ脆くも壊れた

「献身的ではないのだ」

二の眼は温い水に塗れ視界は穏やかに歪む
割れた箱の断片を掻き集めて
君が背を向ける時に叫んだ其れは見事な迄に無様さ

「自らに対し最も怠るところであるよ!」

掻き集めた箱に土を被せて立ち止まった君の袖をとる
曖昧な儘でも喪えないと泥の付いた指で縋る
此の広い君を如何にすれば留められる
思いを巡らせて目を伏せた瞬間に
指は全てを喪い足元に白く何かが残るのみだった

「たしかに」

細い骨を一つ拾い上げて

「ちいさくもある」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?