見出し画像

ビューティフルグッバイ

大阪の長堀通りと言う道の、歩道は少し可愛いデザインの絵が描かれています。


僕の幼馴染は、生前の若い頃に、このコンクリートやマンホールは、俺がやった仕事やねん。


お前ら、もっと優しく歩いてくれよ。


とよく言っていました。


その頃の僕は、カタギになったんや〜。くらいしか思っていませんでした。


彼が、ヤクザ稼業の他に、自分で会社を作り、行く宛の無い、十代の子達を雇って、更生させていると知ったのはだいぶ後の事でした。


ヤクザの組長のようで、更生施設のボランティアの人のようで、僕にとっては、小さい頃からの、ありふれた幼馴染です。


小学校の入学式で、殴り合った僕達は、その後、どんな時も一緒に過ごすようになって行きましたが、中学を卒業する頃に、お互い進む道が違う事を実感しました。

このままずっと共に走り抜けるはずだった道は、大きな別れ道があって、僕は普通の高校生になりました。


でも、僕達は、時間の許す限り会いました。


暴走族の総長になっても、ヤクザになっても、組長になっても、社長になっても、彼は変わる事なく、僕を尋ねて来ました。


一度、僕が大学生の頃、高校の友達や、中学の頃の友達を家に呼んで、遊ぼうと言う事になった時、せっかくだからと幼馴染も誘ってみました。

ごめん、俺はカミデの大切な友達の人達に会えるような人間じゃない。


彼は、電話でそう言っていました。


僕は、かなりの時間、説得しました。しかし、彼の考えは変わらなかったので、諦めて電話を切りました。


その日の、深夜に僕の家で、みんなで散々お酒を飲んで、それぞれに帰っていくタイミングで、幼馴染は僕の家の前に居ると、携帯に連絡して来ました。


慌てて、家の前に、大きな黒いベンツが停まっていて、その横に幼馴染の姿がありました。

ごめん、遅くなって。


いいよ、まだ何人か居るから入ったら?


ええわ、これだけ渡そうと思って。


幼馴染は、お金の入った封筒を僕に渡して来ました。

お金なんか要らんから、入れよ。


いや、ええわ。お前、お金かかったやろ。たくさんの人達、家に呼んで。それくらいさせてくれよ。


車の運転席から、幼馴染の弟分が真っ直ぐ僕を見つめていました。

それから、7年後、彼のお葬式がありました。

お葬式会場に、警備員さんを押しのけて、乱入して来た特攻服を来た少年達が、棺を開けて、僕の幼馴染を抱きしめていました。

その光景を見た時、これが始まりなんだと思いました。


バカみたいに笑ってた日々は、もう戻らないし、悲しくない訳じゃないけど、その全ては、いつまでも美しい。


まさに、僕にとってのビューティフルグッバイです。