キャッツ・アイ

 あいつらだけは、許せない。

 私はコスプレイヤーだ。イベントごとに各地を回り、コスプレ広場で写真を撮られている。

 露出の高い服装であることは認めるが、だからって胸元や股間ばっかり撮影してくるあいつらのことは許せない。

 そういうやつらに限って撮影前のあいさつもなく、いきなり撮ってくる。こちらが注意をしようとするとそれを察知してすぐ逃げてしまう。

 友達に聞いたところ、ああいうやつらは写真を地下で売買しているらしい。確かにイベント後はオタク向けニュースサイトでコスプレの話題が出てくるが、そこにやつらが撮るような盗撮写真はない。

 たいていは私の画像も1枚、2枚はニュースサイトでまとめられている。その写真はあの人が撮ったやつだ、と分かるものばかりだ。現場でのマナーがしっかりしている人ほど、写真もきれいに撮ってくれる。きれいにとられた写真はネットでも好評になる。だからそういう人ほどコスプレイヤーにいい印象を与えているのだ。

 一度やつらにむかついてコスプレの現場にカメラを持ち込んだことがある。あのときはスク水・マフラー・カメラという、とある擬人化キャラのコスプレだった。写真を撮られながらも撮り返そうと思ったのだ。

 しかしやつらは遠巻きに私を見るだけで、私を撮りにこようとはしなかった。やつらにも後ろめたい気持ちがあるのか、撮られて自分の姿をネットで拡散されることにおびえているのだろう。

 その作戦は失敗に終わった。

 コスプレイヤーの特長の一つに裁縫が得意な人が多いことがあげられる。

 ネットで話題になるコスプレイヤーには容姿が優れている人、着ているコスチュームの質が高い人のどちらかに入ると言って問題ないだろう。私は後者のグループなのだろう。

 子供の頃から裁縫や服飾に興味があったし、大きなイベントでは特に気合を入れてコスを作っている。友達からコス作製をお願いされることもある。

 しかし、気合を入れて作るほど、やつらも多く集まってくることを考えると気持ちがしょげることもある。どうにかやつらに反撃することはできないだろうか。

    *

 今日は久しぶりの大型イベントだ。今日のコスはあのネットゲームのネコ耳ソーサラーだ。服装はノースリーブに短めのスカート。1ヵ月以上前から製作を始めた力作だ。

 広場に立つと、いつものあの人が撮影にきてくれた。いつもイベントが終わるごとにきれいに撮れている写真を私に送ってくれる。いい人だ。私のブログのタイトル画像もこの人が撮ってくれたものを使わせてもらっている。

 私は自分のサイトで今日のイベントに参加することを告知もしていた。きっとそれを見て朝一番できてくれたのだろう。会場待機列に並んでこのイベントに参加する人は、たいてい企業ブースか、薄い本が目当てだ。だから朝のコスプレ広場はコスプレイヤーもカメラマンも少ない。こんな早い時間から私のところへ来てくれるなんてやっぱりうれしいものだ。いつもみたいにきれいに撮ってくださいね、なんて話しながら今回も撮影してもらった。

 昼を過ぎるころにやつらはやって来る。やつらの荷物を見ると企業ブースの袋を持っていることが多い。きっと盗撮写真の売買をしているだけではなく、転売ヤーでもあるのだろう。

 また黙って私のことを撮り始める。やつらの顔をにらんでやるが、撮影はとまらない。自分がカメラで撮られなければ問題ないと思っているのだろう。

 しかし、今日の私は機嫌がいい。あの人も朝一番にきてくれたし。

    *

 家に帰ってからコスの洗濯をする。この服装はまた着る機会があるだろう。丁寧に手洗いをしアイロンをかける。

 そうだ、ネコ耳も分解しなくては。

 今日私がつけていったネコ耳には極小のピンホールカメラを内蔵させていた。記録されていた映像を確認すると、しっかりとやつらの顔が映っていた。やつらはどうせ胸元と股間しか撮ってないから、ネコ耳にカメラが仕込まれていたことは気づいていない。

 頭の上にあるネコ耳から撮られた映像には私の顔身体は映らない。自分の腕が見切れてはいるだろうが、今日の私はノースリーブだ。あの広場には水着コスの子も多い。コスチュームを着ていない腕が映り込んでいても、私が撮った映像だとばれることはないだろう。

 この映像に映っているのはあのイベントのコスプレ広場だということは一目瞭然だ。ならばこのローアングルからカメラを構えているやつらがどんな連中かも分かるだろう。

 この映像を今すぐにネットにアップロードするのもいいかもしれない。コスプレや薄い本といった二次創作界隈の住人は、グレーゾーンだということを自覚している。だからこそマナーを守らない人に対しては、結託してたたかう風潮がある。きっと一つのきっかけとなって、この映像に写っているやつらくらいは締め出すことが可能だろう。

 だが、まだ早い。こいつらだけを締め出しても何も変わりはしない。こいつらはゴキブリと一緒で見つけた数の何倍もいるのだ。

 もっと多くのイベントに行って映像を集めなくては。そして十分に集まった時にそれらを一斉にアップロードする。その中には何度も何度も盗撮をしているやつもいるだろう。顔が拡散されたら誰だかすぐばれるような、有名なやつもいるだろう。盗撮をしたやつらが、さらしあげられたらどうなるかを広く見せしめなければならない。

 撮っているお前らが撮られていないわけないだろ。その日がくるまでせいぜい楽しんでろよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?