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ハチマキトカゲ

「クンクン…… この臭い、間違いない。ここが “ハチマキトカゲの巣” だ。」

そう言いつつ “星々信用金庫” と書かれたタオル(文字の方をオモテ面として、ウラ面にはどこにでもいそうな星のキャラクターがびっしり描かれている)で額の汗をぬぐってこう続けた。

「思ったよりクチャイかも。」

やはりつまらない。絶好調だ。彼の名前は「空ダ 右利き(くうだ みぎきき)」
モヒカンクロスという、十字型に髪の毛を残すオリジナルスタイルの頭頂部から放射状に汗が吹き出す。つまらない人間でも、嗅覚は等しく悲鳴をあげる。

「はいはいでもさでもさ、クチャイの、ドリアン何個分〜?」

甲高い声が響く。眩しいくらいに黄緑色のツインテールが揺れる。彼女の名前は「ギネス大賞 信心掌(ぎねすたいしょう しんじんしょう)」
彼女もまた、非常につまらなかった。つまらないどころか会話自体がそもそも苦手なために「はいはいでもさでもさ」というよく分からない切り出し方をしていた。何か言った方がいいという思いが強すぎたのもあるだろう。信心掌は気まずさを飲み込むためなのか、デカラ(デカビタとダカラのやつ)を飲み干した。

このつまらない二人はどのようにして、なぜ、ハチマキトカゲの巣にやってきたのか?きっかけは10年前のことだった……


  〜 蛾獄(がごく)(日本で一番嫌な刑務所) 〜

空ダ 右利きは、全4ピースのワニが描かれているジグソーパズル(2.5ピース分くらいワニの口で埋まっている)を密造した罪で、蛾獄に入れられていた。そんなつまらないジグソーパズルをこっそり作ってはいけないのだ。空ダ 右利きは逆にそれがいいと思ってしまっていた。

空ダ 右利きの両親は分の悪い賭けが嫌いだった。右利きの名もそれ故だ。さすがに右利きにはなってくれるだろうという思いで名前をつけられた。
そんな親に反発して、彼は物心ついた頃から逆張りをしていた。砂場で遊ばなかった。床に落としたものをすぐに捨てれた。小3から両利きになった。とにかくひねくれていた。そして空ダ 右利きが14歳の時に、スマブラでとあるテクニックが生まれた。

空ダ 右利きのジャンプの軌道は非常に独特だった。そんなジャンプの軌道と全く同じ挙動を起こすテクニックが偶然スマブラにも生まれた。彼の名字をとって、そのテクニックは “空ダ” と呼ばれるようになった。
そのことが彼の性格をねじ曲げきったのだ。スマブラの方が、空ダ 右利きよりも有名だった。町中でジャンプするたびに「スマブラの真似?」と言われる日々。自分の方が先だったのだと、彼は意地を張るようになった。変な意地を張ってる男は本当につまらない。

こうして空ダ 右利きはめちゃくちゃつまらなくなっていき、つまらないという直方体がつまらないベルトコンベアーに載せられた、みたいな感じで蛾獄に入れられた。


それと同時期に、つまらない畑を竜巻が通り抜けてちょうどつまらない感じで半裸になったカカシ、みたいな感じで蛾獄に入ってきた者がいた。それがギネス大賞 信心掌だった。

ギネス大賞家は代々「毎年、その年ごとにギネス記録に認定されたものの中でもっとも我々を驚かせたもの」を決めてきた一族だった。
しかし皆さんも知っての通り、ギネス記録は近年ニッチなだけですごいのかどうかもよくわからない記録に溢れかえってとてもつまらなくなっている。大量のつまらないギネス記録を理解、把握、解釈するギネス大賞一家はその粋を極めたようなつまらない一族になり、信心掌ももれなくつまらなかった。

信心掌は本当の名前をギネス大賞 美海香(みみか)と言う。彼女は幼少期、一日一万回感謝の正拳突きの手のひらと足の裏を合わせるバージョンのやつを自然とやっていた。それをたまたま見ていた市役所の職員が感銘を受け、戸籍を勝手に変更したのだ。
そのため、信心掌は自分が信心掌であることを “知らない” 。むしろ、知って何になる?とさえ思っている。「むしろ、知って何になる?」というのは少し言葉の使い方がおかしいように思えるが、これは信心掌が会話自体を苦手としているからだった。信心掌は会話が苦手すぎて自主的に蛾獄に入った。入る時も看守とかなり揉めた。


二人は食堂で出会った。蛾獄の食堂は食券制だ。その食券をちぎり、半分ずつ眉毛に貼ってピクピク動かすというつまらない行為をしていた空ダを見た信心掌が「発見伝!ごはん両津〜!」と叫んだ。
「こんなにつまらない人が生きてる!」空ダは衝撃を受けた。“発見伝!” の “伝!” の部分がノイズになって“ごはん両津”という、まだ理解できる方の言葉を入ってこなくさせる、この天性の才能に惹かれた。つまらない人といたら逆におもしろいと考えた空ダは、それから信心掌と共に食事をとるようになった。空ダも空ダで変な意地を張っててつまらないから、信心掌も空ダのことはつまらないと思っていた。信心掌は家族で慣れてるから、別にそういうのが苦じゃないタイプだった。

そうして何年も過ごしていた。つまらない二人でよくやったものだ。蛾獄の運動会(6年に1回ある)で二人三脚の時に、全力でバック走をしてすぐこけてなかなか起き上がれず、5分くらいブーイングを受け続けたり、蛾獄のお遊戯会(8年に1回ある)で、二人でGO!GO!選挙の完コピをしたりして、つまらなかった。(24年ごとに蛾獄の運動会とお遊戯会が被るので、その年はすごく忙しい)


ある日、信心掌の元へ家族から手紙が届いた。手紙の内容は「全てのつまらなさを食らう奇生物(アーティファクリーチャー)  ハチマキトカゲ」についてだった。
ギネス大賞家自身も自分たちがつまらないことはわかっていた。それを打破したいと考えていた。毎年全部のギネス記録に目を通しているギネス大賞家は、ついにその膨大な情報の山から一つの宝石💎を探り当てたのだ。

「ニュースコラボカフェ。私と空ダにオープンです!」信心掌はすぐに空ダにこのことを伝えた。
空ダは自分がつまらないとは思っていなかった。しかし、逆に全然つまらないとかではない自分がこの生き物を探し当てた方がおもしろいのではないかと考えたのだ。空ダはもうひねくれてつまらなすぎて、自分を正当化するためだけに逆という考え方を使うようになっていた。

二人は次の日に脱獄した。つまらないやつに限って行動力はある。
二人はそのままタクシーでハチマキトカゲが確認されたという山「浴衣ノ爺山」(ゆかたのおじいさん)(浴衣を着たまま体育座りをしてるおじいさんみたいな形の山で、わりと人気)へ向かった。

ハチマキトカゲの巣の捜索は困難を極めた。当然だ、伝説上の生き物なのだから。しかし二人は諦めなかった。そんなに険しい山でもないからピクニック感覚で結構楽しめていた。蛾獄も一応ちゃんと刑務所ではあるから、二人とも体力がついていた。
何日も何度も、登っては降りてを繰り返し「つまらない奴らが毎日のように登山していて不快です。」といった内容のレビューが浴衣ノ爺山のGoogleマップにちらほら目立ち始めた頃、ついに二人はハチマキトカゲの巣を見つけた。


「クンクン…… この臭い、間違いない。ここが “ハチマキトカゲの巣” だ。
  思ったよりクチャイかも。」

「はいはいでもさでもさ、クチャイの、ドリアン何個分〜?」

「うーん、何個分とかあるかな。」

「まあね、まああればね。」

「じゃあ、えー、8個分!」

「これ絶対かなりクチャイでしょ!これ!マスクありますからね〜。」

「なんかマスクつけたら逆にもっと臭くなりそう、ニオイがこもりそう。」

「では私のみということで。」

「おじゃましマンモス。」

「くさマンモス。」

「あーーー!!!いた!!!」

「スピード対決よねえ!」

『フシュルル……  キシャーーッッッッ!!!』

「まずい!クサい息だ!」

「お互い我慢しましょ!」

「味空ダ!」(空ダ 右利きの、味蕾に対する味のベクトルを保存しておくことで自在に美味しい気持ちを思い出すという技) (それで耐えている)

「フゥッ…………」(ギネス大賞 信心掌は、一日一万回感謝の正拳突きの手のひらと足の裏を合わせるやつをやってるから肺活量がある) (全然耐えれてる)

『クルルッ……  シュウシュアァ……』

「え?書写って言った?」

「え何が?小学校の授業とかの?」

『ショァアアーーーッ!!!』

「う、なんだ!?吸い込まれるような、体から何かが抜けていくような感覚だ!!!」

「珍しい!珍しい!!」

『クシュウウゥ……  フスン……』

「なんだ、まるで湯船からあがってきたような気分だ……」

「効果見えてきたんだと思うよ効果!」

「つまらなくなくなっている、ということか……?美海香、お前何か言ってみろ。」

「ヒジ・ライトイヤー。」(肘、右耳と、身体すぎるバズ・ライトイヤー)

『フシュッ…… ンフフ……』

「お、おもしろい……」

「空ダも、ほら。」

「え、えーっと、ラグビーボール柄の毛布……」

『プシュッ…… カハハハハッ!』

「「ふふ、アハハ!アハハハハハ!!!アハハハハハハハハ!!!!!」」


浴衣ノ爺山は、今日も晴れ。
Googleレビューは、★3.1。

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