戦国式セキュリティの豪邸

最近引越をした。
今の家は窓をあけると一軒の豪邸のお庭が見えるのだ。というか、未だに構造がちゃんとわかっていないのだが、私の住む小さくて古い(旧建築基準法の時の建築で耐震診断もしてない)マンションが、豪邸の敷地の一部…なのか?最近まで豪邸の隣にあるマンションだと思っていたが、うちのマンションの後ろ側もまだ豪邸の建物が続いている様子なのでわけがわからないのだ。一般家庭で言うところの母屋と犬小屋くらいの感覚だ。
犬小屋のマンションに住んでおります。お久しぶりですバーチャル炊飯器です。

この訳のわからない豪邸について近頃さらに気づいたのだが、私が「豪邸のお庭がこんなに丸見えでよいのかね?借景借景」と思っていたお庭、残念ながら庭じゃないようなのだ。多分、入口だと思う。確かにお金持ちの庭にしては簡素過ぎるとは思っていた。それでもきれいに手入れされた松なんかがあるんだけど。高い塀の途中に大きな門があり、そこから家の玄関までの間の広いエリアを庭だと思っていたのだ。多分庭じゃない、そう思ったのは真夏のしんどさで昔行った信州旅行を思い出したからだ。

信州旅行のその日のプランは松本の街を歩いておいしいものを食べてちょっと外れにある温泉旅館に泊まって寝るというものだったのだが、たまたまその日の松本は猛烈な暑さで雲一つない快晴であり、駅についたときには「暑いけど街ブラしたる!」と意気込んたものの、7分くらい頑張って「もしかしてこれは無理なやつかもな」と悟った。
そうして予定にはなかったが「城なら屋根があるんじゃないか」と考えて松本城に行くことにしたのだった。

松本城に着くと広いお庭には暑いのに甲冑を着た武士的な人や黒い服の忍者的な人が外国人観光客の接待をしており、私も本当は忍者と一緒に写真が撮りたかったが、外国人観光客に「忍者とツーショットを撮りたいのでお手数ですがカメラをおまかせしても構いませんかね?」と言う語学力と度胸と人を信じる心が足りなくて頼めなかった。

忍者を諦めて松本城に入ったら、当たり前なのだがやっぱり屋根があり、ありがてえありがてえと思いながら順路を進んだ。進むうちに私が完全に魅了されたのが、矢座間と鉄砲座間だ。城に詳しくないから全く知らなかったが、城の壁には少し庭側に飛び出した形の小さい窓がたくさんあり、そこから矢や鉄砲で庭に入ってきた敵を狙い撃ちできる。それを矢座間、鉄砲座間というらしい。窓を覗くと、なるほどさっきの忍者が狙える。あっちの窓からはあの観光客の一角が狙える、なるほど…と次々と順路に現れる座間を一つ一つ覗いていたら、遠足か何かの小学生男子に「先生、あの人おかしいよ。全部同じ窓なのに全部見てる」と言われてしまった。いや、そう言わずに見てみなよ。全部違うだろ。なあ先生もそう思うだろ、と先生らしき人をチラッと見たら「そういう人もいるの!!」って小学生を叱っててなんかショックだった。
しかしいいのだ、お城のお庭は門や塀から入ってくる敵を城の座間から狙えるように広く作ってあるのだなと一つ物を知ったのだから。

話を豪邸に戻すと、私がお庭だと思っていた場所は家までの見通しが良くて、門から家までの距離を無駄に思えるくらいだいぶとっている。そして、気づいたがカーテンのついてない窓がいっぱいある。窓がいっぱいあるのだ。
これってもしかして松本城と同じセキュリティなんじゃないのか?もちろん矢や鉄砲で撃つわけにはいかないだろうが、窓がいっぱいあることに気づいて「完全にあれじゃん」と思った。もちろんこのお屋敷の入口には監視カメラもついてるし、セキュリティ会社のシールも目立たないところに(金持ちはわざわざ目立たせないんだね)貼ってあるが、何よりこの侵入したら上から狙い打ちされそうな構造を見て泥棒や強盗が狙いに行けるかと考えると、いくら金がありそうな家とはいえ、もう少し狙いやすい家に行こうと考えるんじゃないだろうかと思う。
なるほど、理にかなっている気がする。

そしてそのお屋敷のすぐそばにありでっかいセコムのシールか貼ってあるうちの犬小屋マンションでは、私が集合ポストに設置したダイヤル式の鍵が自分が閉めた時の番号と違う番号になっていたりして、ちょっと怖かったりするのだった。

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