科研費採択から見る大阪工業大学の研究力

◇大阪工大の2022年度現在の推定研究費と登録課題件数

大阪工業大学の公式サイトは、学生の就職率をフォーカスする傾向が強過ぎるところがあるので、実際に研究室がどれぐらいの研究能力があるのかが分かりにくいです。科研費採択状況から大工大の研究能力の一端を見ていきたいと思います。
独立行政法人日本学術振興会が審査と交付を行う科研費(科学研究費補助金)は、人文・社会科学から自然科学まで全ての分野の基礎から応用までの様々な学術研究を発展させる事を目的としている競争的研究資金の事です。
2023年度現在では、基盤研究S・A・B・C、挑戦的研究、若手研究、奨励研究、特別研究員奨励費に分かれています。
基盤研究Sが最も研究資金が多く、期間5年で5千万円以上2億円程度までとなっています。つまり、規模が相当大きく、国家プロジェクト並の研究が行われていると考えて良いと思います。多くの大学は基盤研究A・B・Cと若手研究での資金獲得を行っているようです。
科研費基盤研究Bの構成案は、次のサイトを参考にすると良いでしょう。

大工大の推定研究費と研究者の研究内容は、「日本の研究.com」というサイトで調べられます。

https://research-er.jp/institutions/148

2022年度の大工大の推定研究費は、1億7100万円(107件)となっています。関西の国立大では和歌山大が1.49億円(85件)、公立大では滋賀県立大が1.66億円(96件)となっているので、これらの大学に近い研究能力があると考えて良いと思います。

5年間の推定研究費の総額は12.26億円。
分野別では工学(人間工学・材料工学・機械工学・建築土木工学・総合工学)が最も多くて6.62億円、理学(化学)が2.34億円、社会科学(教育学)が1.41億円と続いています。
科研費のタイプは、基盤研究B・基盤研究C・若手研究が中心となっています。

常翔学園グループの兄弟校である摂南大は、前身校が大工大と同じですが、こちらは総合大学として独自進化しています。摂南大の5年間の推定研究費の総額は9.34億円で、薬学・看護学・農学・水産学・人間工学の分野に集中している点で、大工大とは棲み分けが出来ているのが面白いところでしょう。

https://research-er.jp/institutions/721

◇関西の主な大学の5年間の推定研究費総額と分野別研究費(理工・生命科学のみ)


関西の主な大学の5年間の推定研究費総額と分野別研究費(理工・生命科学のみ)は以下の通りです。データは「日本の研究.com」から抜粋しています。
https://research-er.jp/

京都大[国立] 1862億円(工学468億円、理学262億円、生命科学332億円)
大阪大[国立] 1440億円(工学335億円、理学235億円、生命科学238億円)
神戸大[国立] 320億円(工学63億円、理学45億円、生命科学68億円)
立命館大[私立] 129.97億円(工学49.2億円、理学11.29億円、生命科学12.75億円)
奈良先端科学技術大学院大[国立] 107.82億円(工学25.27億円、理学21.11億円、生命科学27.82億円)
近畿大[私立] 64.83億円(工学は9.58億円、理学5.32億円、生命科学14.19億円)
京都工芸繊維大[国立] 51.53億円(工学23.2億円、理学6.68億円、生命科学1.45億円)
関西学院大[私立] 51.08億円(工学8.6億円、理学10.48億円、生命科学3.88億円)
同志社大[私立] 48.23億円(工学8.29億円、理学5.31億円、生命科学5.45億円)
関西大[私立] 43.08億円(工学19.09億円、理学4.27億円、生命科学2.02億円)
兵庫県立大[公立] 42.49億円(工学10.77億円、理学8.09億円、生命科学13.38億円)
京都産業大[私立] 20.56億円(工学1.10億円、理学4.90億円、生命科学8.22億円)
大阪公立大[公立] 18.71億円(工学5.6億円、理学4.79億円、生命科学3.36億円)
龍谷大[私立] 17.87億円(工学は1.69億円、理学は1.22億円、生命科学は5.48億円)
甲南大[私立] 14.59億円(工学1.45億円、理学3.92億円、生命科学5.34億円)
大阪工業大[私立] 12.26億円(工学6.62億円、理学2.34億円)
奈良女子大[国立] 11.03億円(工学1.36億円、理学1.9億円、生命科学1.81億円)
和歌山大[国立] 10.30億円(工学3.48億円、理学1.56億円)
滋賀県立大[公立] 9.87億円(工学2.39億円、生命科学2.59億円)
摂南大[私立] 9.34億円(工学1.35億円、生命科学2.86億円)
滋賀大[国立] 7.23億円(理学1.35億円)
長浜バイオ大[私立] 6.62億円(理学1.88億円、生命科学3.13億円)
京都先端科学大[私立] 4.59億円(工学1.38億円、生命科学1.37億円)
京都橘大[私立] 4.55億円(工学1.32億円)
大阪電気通信大[私立] 3.13億円(工学1.5億円)

推定研究費から見ると、大阪工業大の研究能力は国立で和歌山大・奈良女子大相当、公立大で滋賀県立大相当と捉えられるでしょう。関東の大学で言えば、工学院大や東京電機大と同程度以上と言えます。
工学分野に絞ると、大阪公立大を超える推定研究費を得ているので、研究環境は一部の国立大・公立大と変わらないぐらい恵まれている方と考えられます。

◇大阪工業大の2023年度在籍教員の出身大学院構成

大学の教員の研究・教育に直結しているのが最終的に、博士号・修士号を取得した出身大学院での研究・論文です。それぞれの大学院・研究室のやり方が基礎になっているので、色々な面で影響を受けています。そして、これが院生や学部生の研究・教育にも影響を与えそうです。
自校出身者が多いかと思っていましたが、旧帝・東工大・筑波・旧大阪府大・京都工芸繊維大の大学院やNAISTの出身者が多いです。

[工学部]
建築学科 - 東京大院x3・京都大院x1・大阪大院x3・京都工芸繊維大院・宇都宮大院・東京都立大院・大阪市立大院・東京都市大院・大阪工業大院x2

機械工学科 - 東京大院・京都大院・大阪大院x4・東北大院x3・九州大院・北海道大院・東京都立科学技術大学大学院・慶應義塾大院・同志社大院

電気電子システム工学科 - 東京大院・大阪大院x4・九州大院・広島大院・佐賀大院・琉球大院・大阪府立大院・上智大院・大阪工業大院x2

電子情報システム工学科 - 東京大院・京都大院x2・大阪大院x3・筑波大院・電気通信大院・大阪工業大院x2

都市デザイン工学科 - 京都大院x3・名古屋大院・筑波大院・山口大院・ロンドン大学ユニバーシティカレッジ バートレットスクールオブプランニング・大阪工業大院x4・摂南大院

応用科学科 - 東京工業大院x2・京都大院・大阪大院x4・東北大院・九州大院・神戸大院x2・総合研究大学院大学・大阪府立大院x2・大阪工業大院

環境工学科 - 京都大院x3・北海道大院x2・広島大院・鳥取大院・大阪府立大院・兵庫県立大院・大阪工業大院

生命工学科 - 京都大院x2・大阪大院x2・名古屋大院・九州大院・筑波大院・京都工芸繊維大院

[ロボティクス&デザイン工学部]
ロボット工学科 - 大阪大院x2・神戸大院・筑波大院・奈良先端科学技術大学院大・岡山大院・東京農工大院・九州工業大院・早稲田大院

システムデザイン工学科 - 東京大院x2・京都大院・東京工業大院・筑波大院・神戸大院・早稲田大院・同志社大院・立命館大院・大阪工業大院

空間デザイン学科 - 京都大院x2・九州大院・京都工芸繊維大院x3・コロンビア大院・神戸大院・大阪工業大院

[情報科学部]
情報知能学科 - 東京大院x2・大阪大院x5・筑波大院・九州工業大院・北九州市立大院

データサイエンス学科 - 京都大院x2・大阪大院x2・東京工業大院・九州大院・大阪工業大院x3

情報システム学科 - 東京工業大院・大阪大院x2・奈良先端科学技術大学院大・名古屋大院・奈良女子大院・大阪府立大院・早稲田大院x2・東京理科大院・大阪工業大院

情報メディア学科 - 東京大院・京都大院x2・大阪大院x2・神戸大院・東北大院・九州大院・筑波大院・奈良先端科学技術大学院大学・和歌山大院・山梨大院・岩手大院・Swansea University・大阪工業大院x2

ネットワークデザイン学科 - 東京大院・京都大院・大阪大院・九州大院・神戸大院x2・東京水産大院・奈良先端科学技術大学院大・奈良女子大院・リバプール大院・川崎医療福祉大院

[知的財産学部]
知的財産学科 - 東京大院・京都大院・大阪大院x5・横浜国立大院・大阪府立大院・早稲田大院・立命館大院・摂南大院・大東文化大院


◇「教員1人当りの学生数」は学部3年までの教育への影響に関連するのであって、科研費や研究環境には関係がない

国立大・公立大は私立大よりも教員1人当りの学生数が半分ぐらいで、少人数教育が出来るので教育が行き届くという話があります。私大の場合は学生数が多いので、大講義室でのマスプロ教育になる科目は確かにあります。
但し、科研費は代表研究者が所属する研究室が行っている研究に対して交付される物であるので、研究に関わっている大学院生以上で無いと関係してきません。
以下の記事に書かれている国公立大と私大の研究環境の違いに関する認識は間違っていると言えます。

国立大が必ずしも研究環境が恵まれているとは言えず、国立大学によっては推定研究費が私大と大して変わらなかったり、劣っていたりするケースが多々あります。
よって、ネットで言われている「国公立大の方が私大よりも研究環境が恵まれている」という話は、旧帝大・東工大・国立4大学院大学・金岡千広・電農名繊・医学部を持つ大学・筑波・神戸辺りの話です。その他の国立大は、そこまで科研費を得ているわけではありません。まして、国立大学法人運営費交付金が年々減らされており、学費を上げるにも最大2割という縛りがあります。私大の場合は自由に学費を上げられる上に、OBなどからの寄付が期待出来ます。その為、早慶・東京理科大・明治・中央・法政・同志社・立命館・関大・日大・近大・京都産大・4工大・大工大などの古くから理工系学部を持つ私大の方が研究環境が良い場合もあります。
マスプロ教育は学部3年までの話です。4年になると研究室に配属され、私大理工系でも留年や中退者が出てくるので(特に東京理科大・芝浦工大・東京電機大などは課題が多くて進級が厳しい)、4年次の教員1人当りの学生数も相当減ります。

◇私大の弱点であるマスプロ教育を改善する大学院・学部一貫特別クラスの存在


大工大の場合、工学部機械工学科・電気電子システム工学科・電子情報工学科で成績優秀者を対象に研究推進クラスを用意して、大学院・学部の6年一貫教育を行う仕組みを始めています。先取り学習やPBLなどで従来の教育よりも綿密に行う試みで、私大のマスプロ教育を打破する事が一部可能になります。


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