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〈地〉に紐付けられた我々が自ら大地との関係性を断った酬い(宮台真司)

備忘録:JAM The World 月イチ宮台
青木理、宮台真司
JAM THE WORLD | J-WAVE | 2021/02/02/火

※(注) 番組の内容を自己流にまとめたもので、宮台真司本人の言葉をそのまま記録したものではありません。

地球平面説や陰謀論は同じ背景を持っている。トランプでもネットコミュニケーションの敵味方図式でもない。背景はもっと根深い。宮台真司がトランプを支持したのは、社会に内在していた非常に危険な兆候をトランプが可視化してくれたからだ。

日本を見て判るように、80年代、新住民問題が地域の空洞化を加速させ、公園の遊具撤去などのロックアウトが起こったことも、実は今回、アメリカを席巻した陰謀論と全く同じ背景を持っている。

19世紀、アメリカはイギリスに遅れて急速な産業革命を推し進めたせいで、生活様式が急激に変わり、特に都市部、郊外部では自治で町が回せなくなってしまう。この時、現れたのが「反知性主義」なのだが、実はアメリカでこの言葉はもともと肯定的な意味で捉えられていた。

反知性主義とはイノセンティズムのことで、言葉や知識よりも、信仰が与える閃きを大事にする主意主義の構えであり、このイノセンティズムは、世界で初めて近代の市場化・システム化・行政官僚化・技術化に対抗する運動として現れたものであった。

そこからアメリカは共和党(保守・排外主義)と民主党(グローバリズムと再配分)の二つの伝統に分かれていく。ところが、民主党は90年代、情報ハイウェイ構想に従って一挙にtech化を推し進め、GAFAの莫大な献金を受けて、ひたすらグローバル化の貫徹にのみスロットルを踏み続ける。

その結果、民主党の本分であった再配分の性格を忘れ、そこから取り残された人々が不全感を抱いてトランプに走ることになる。しかし、Qアノン的陰謀論(反ユダヤ・中国)の妄想のルーツは、アメリカの産業革命の頃からすでに内包されていた。実はこちらの方がより重要である。

世界には〈血〉に紐付けられた人と〈地〉に紐付けられた人がいる。人は〈良き記憶〉を自分一人では保てないので、それを血縁者に結びつけて語り継ぐか、土地に結びつけて語り継ぐかに分かれる。基本的に〈血〉に紐付けられた中国とユダヤ以外は血縁的であっても地縁的要素が強い。

中国とユダヤは国境を越えてネットワークを拡げる。ユダヤはディアスボラ(離散)民族であり、中国人はジェノサイド(大殺戮)に悩まされてきたため、財産、土地を持っていても役に立たない。彼らの生き残り戦略は産業革命下において国際金融ネットワークとして結実する。彼らが投資するのは陰謀ではなく、単に儲かるからである。

米国のタウンシップを典型とする〈地〉に紐付いた人々は、地縁関係を頼らなければ仲間集団を維持できない。ところが産業化の犠牲として土地が解体されていくと、場所の〈良き記憶〉が温存できなくなり、人々の間に不全感が生じ始める。ここにグローバル化が追い討ちをかける。

紐付けを失えば人々はヘタレになり、良きものの尺度も失う。寄る辺ない彼らはネットやメディアの直撃を受けやすく、陰謀論をたやすく信じ込み、トランプのような大きなものにすがる。日本でもアメリカでも、自ら大地との関係性を断ち切ったことによる自業自得の現象が起きているのである。


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