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秋の日に願いをかけながら

夢を見た。日本時間にして9月6日の明け方のことだった。
翌日に本番を迎えるAmerica’s Got Talentのセミファイナル、Travis Japanのパフォーマンスを見る夢。彼らは予選と同じくピンクストライプの衣装を身に纏い、ショーテイストにアレンジされた「上を向いて歩こう」を歌っていた。会場の盛り上がりが最高潮を迎えようとしていたタイミングで目が覚めて夢を見ていたことを悟ったものの(そもそも選曲からしてあからさまな夢ではあったものの)その瞬間、一気に緊張感が増したことを覚えている。

8月7日のインスタライブで、AGTセミファイナルの演目の振付を自担である七五三掛龍也くんが担当した、という話が明かされたとき、楽しみだ、という気持ちと同時に身体中にとてつもない緊張感が走ったことを今でもリアルに思い出す。私は、しめちゃんの作る振付が大好きで、しめちゃんの作り出す世界や、しめちゃんの魅せるTravis Japanの姿に心底魅了されている。だから、これだけの大舞台にしめちゃんが振付をしたパフォーマンスを持っていく、そのことが誇らしいと同時に、その仕事のとてつもない大きさに畏怖の感情を抱いていた。

暗闇に浮かぶ紅い花と狐面、あやしげな「和」の空気から一転、明るい光に包まれて彼らが歌うのは「Party Up Like Crazy」。華やかなピンクの照明、縦横無尽に動くレーザー、一面「TRAVIS JAPAN」の文字で敷き詰められた床、照明に映えて光り輝く銀衣装。夢みたいに煌びやかなステージ。だからこそ、ブザーが鳴った瞬間、胸に鈍い痛みが走った。でも、彼らは止まることなく、一度転んでからが勝負だ、とばかりに、更に大きなエネルギーを以てパフォーマンスを続けた。それは長い間ステージに立ち続けてきた強さそのもののようで、あまりにも頼もしくて格好良かった。

9月に入り、セミファイナルの本番が近づいてきた頃から結果発表を迎える日までずっと、小沢健二さんの「神秘的」を聴いていた。小沢さんの音楽や言葉は私にとっての礎で、心が揺れたときに立ち返る存在でもある。そして、その中でも、小沢さんがニューヨークに渡った後に作られた曲にTravis Japanへの想いを重ねることが多くなっていた。彼らがいるところはロサンゼルスで、曲の舞台はニューヨークであったとしても、アメリカはアメリカとして、日本にいる自らの想いを重ねたくなる瞬間が何度も何度も訪れていた。そして「神秘的」の歌詞は、日本とアメリカの距離に想いを馳せながら祈るのにぴったりだった。そして、結果発表を迎えてからも幾度となくこの曲を聴いては彼らのことを想い、少しだけ泣いた。

光あれ!あなたに咲きたまえ
そう想う時 コネティカットの雪 静寂を待ち 川を凍らす
小沢健二「神秘的」より
光あれ!僕らに咲きたまえ
そう想う時 東京の春の雪 雫となり 友を濡らす
小沢健二「神秘的」より

私が、私たちが、彼らのことを想うとき、強く祈るとき。その想いや祈りが柔らかな風だとか雨露だとか、そんなものに姿を変えて届けばいいのに、と思ったりもする。物理的な距離や時差を感じたり、特に今回のAGTのように、できることは祈ることだけ、というときに。彼らが渡米してから、彼らに対する応援として、直接できることも限られている。だから、私たちの彼らに対する祈りや想いが、姿を変えて彼らの身近に在り、彼らを包み込みますように、と思っていた。

セミファイナルの結果が出てから暫く、今回の結果や講評や自らの感情と向き合いながら、ひたすらにいろんなことを考えた。彼らが尊い挑戦をしたことや、その挑戦で彼らが得たであろう大きな経験、そして、私の「好き」の気持ちは何一つとして変わらず「事実」としてそこにある。ただ、これに関するたくさんの人のあらゆる感情に触れていくうちに、知らず知らずのうちに自分の心の置き所が分からなくなっていたような気もした。

また夢を見た。日本時間にして9月9日の明け方。Travis Japanのライブに入り、しめちゃんにファンサを貰う夢。しめちゃんと目が合って、手を伸ばしたらハイタッチをしてくれて、ぐっと強く手を握られて……腰から砕け落ちた瞬間に、目が覚めた。夢から覚めても手の感覚が残っている気がして、更にどきどきした。そして、しめちゃんが手を引きに来てくれたんだ、と思った。心の置き所に迷う私の手を。

勝敗といった「結果」以上に、彼らが得たものはきっと大きい。褒められたことや嬉しかったこと、人の優しさや温かさは心の支えに、悔しかったことや課題だと感じたことはこれからの糧に。9月11日のインスタライブでAGTのことを振り返りながら、彼らは噛みしめるように何度も「楽しかった」と口にした。準備期間から本番、結果発表までにあったことや、その時々で感じたこと、貰ったコメント、何もかも彼らの血や肉になるんだろうと思う。そうして前に進み続けるTravis Japanの姿は、あまりにも眩しい。

光あれ、あなたに咲きたまえ、僕らに咲きたまえ。いつだって想っている。そして、その「光ある」日々が彼らと私たちに来ることを、ずっとずっと願っている。