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スマートシティ戦国時代を制するのは誰だ

昨今スマートシティやコネクティッドシティという概念が話題になっている。いたるところでスマートシティという言葉は踊るがそもそもこれは何なのだろうか?

そもそもスマートシティとはどのような定義なのだろうか?

スマートシティとは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の先端技術を用いて、基礎インフラと生活インフラ・サービスを効率的に管理・運営し、環境に配慮しながら、人々の生活の質を高め、継続的な経済発展を目的とした新しい都市。
引用:IoTニュース

基本的にはIoTがスマートシティの技術の根幹をなすようだ。今回はこのスマートシティという軸で分析記事を書いていきたいと思う。


スマートシティはなぜ必要?

そもそもスマートシティはなぜ必要なのだろうか?課題がなければ今の都市だって問題ないはずだ。ご存知の方も多いが、世界の都市はこんな課題を抱えている。

課題①:急速な都市化  世界の人口の50% が都市に居住し、2050年には2010年の1.7倍の人口が都市に居住するとも予測されている

東京に住む方はわかると思うが、朝の満員電車、どこにいっても人だらけ、人・人・人である。都市は人が多いからこそ仕事もそれに伴うサービスもあるが、人が多いからこその問題も多いのである。


課題②:環境への負荷 都市は世界のエネルギーの60-70%を消費し、温室効果ガスの60-70%を排出しているため、持続可能な社会になっていない

不夜城という言葉は古いかもしれないが、都市化すればするほど夜も明かりが煌々と焚かれ、都市は眠らない。またヒートアイランド現象などもあり、冷房もフル稼働。車も多い。単純にこのままいくと地球大丈夫ですか?という話だ。


課題③:経済成長の鈍化  人口・労働力減少で先進国の多くは2013年の経済成長率は0-2%代となる。経済回復が雇用創出に結びつかない。

都市であるのに仕事を生み出し価値を創出できないのだ。そういう意味で新しい価値を提供し仕事を生み出さなければならない。


日本でこんなにあるスマートシティ構想

ではこのスマートシティに対して日本の中で取り組みはどう進んでいるのか?経産省のホームページも覗いてみたがスマートシティと名の付くプロジェクトこんなにあるのかと驚きを隠せない。

ゆうに100を超えるプロジェクトがいたる都市で存在しているのだ。その取り組み内容も

交通・モビリティ・エネルギー・防災・インフラ維持管理・観光/地域活性化・健康と医療・農林水産業・環境・セキュリティ/見守り・物流・都市計画/整備

と多岐にわたる。

もう少し具体例を見ていこう。

ネットでスマートシティと打つとよく出てくる会津若松市のスマートシティの動画があったので参考までに張り付けておく。具体的な課題に踏み込んでいると感じる。

ホームページの中で語られている会津若松市の3つの目指す姿は下記の通り。

1.地域活力の向上:地域経済の活性化
会津大学等と連携した人材育成や、産学官が連携して先進的な取組を行うことにより、地元企業の「しごと」の拡大や技術の高度化、関連産業の集積を図り、地域産業の成長や雇用の維持拡大などの経済効果を創出。また、近隣自治体と連携してインバウンド向けの観光サイトを設置することにより、外国人観光客による交流人口を増加させ、併せて地域経済の活性化を目指す。

2.市民生活の利便性向上:安心して快適に生活できるまちづくり
地域の情報の入手や各種証明書に関する手続き、出産・子育てのための情報収集等、普段の暮らしの中でICTを活用して生活を便利にする様々なサービスを提供。市民がより安心して快適に生活できる環境づくりの推進。

3.市民との情報共有の促進:「まちの見える化」の実現
スマートメーターを用いた消費電力のエネルギーマネジメントや、住民情報等を地図上に表示するGIS(地理情報システム)を空き家対策やバス路線の最適化に役立てるなど、「まちの見える化」への取組み。
また、データの蓄積・利活用(オープンデータ化)のための情報基盤を構築し、公共データをウェブサイト上で公開することで、多方面での情報の活用を推進し、地域の活性化に寄与することを目指す。

上述の課題を見事に捉えている。

また別のスマートシティの取り組みとして、LINE Fukuokaの福岡市でのスマートシティについてリンクを掲載しておく。

HPの冒頭では、

LINE Fukuokaは福岡市との包括連携協定に基づき、LINEの技術をつかったスマートシティの実現を目指しています。行政サービスや消費活動、今後はモビリティやヘルスケアなど、暮らしのあらゆるシーンをReDesignしていきます。合言葉は、「福岡市を世界に誇れるスマートシティに」。福岡市に根差して6年目を迎えたLINE Fukuokaの新しいチャレンジがはじまっています。

といった記述があり、その後、具体的な活動が並んでいる。

例えば「お席で注文・決済」を開発し、ピーク時のフードコートなどでは人が集中してしまい「長蛇の列で商品の注文までに時間がかかる」、「商品を受け取った後に席を確保する必要がある」など不便なシーンに対して、人が集中しても、列に並ぶことなく商品を注文・決済し、スムーズに食事を楽しめる方法を提供ている。

ANAホールディングス株式会社と協業し、LINEの「お席で注文・決済」機能を応用し、BBQ会場から新鮮な魚介類を注文、決済~ドローンによるデリバリー依頼までを「LINE」で完結といった「離島にいる生産者(以下「生産者」)「店舗」「ユーザー」をLINEでつなぐ新しい体験を提供するための検証などを行っている。

こちらも非常に興味深い検証や仕組化による問題解決を図っている。

それぞれの活動は実に興味深いし有意義だと思う。一方で筆者はスマートシティとしての世界観、この街をどうしていきたいのかの訴求の部分が弱いと感じる。このホームページや文字情報を見て、この2つの都市がどうなっていくのかのイメージが非常に掴みにくい。

誤解をしないでいただきたいのは筆者はこうした社会課題に対応する各方面でのスマートシティの取り組みそのものを否定しているわけではない。むしろこれ自体はとても素晴らしくこうした取り組みはどんどん進めるべきだと考えている。またAIやIoT活用の専門家でもないため、個々の活動の成否について判断する立場にない。

しかしブランディングを探求しマーケティングを専門とする立場として、はっきりわかることがある。

こうしたスマートシティ構想を考えるときに必要なのは、世界観の提示なのだ。このスマートシティという世界観を提示し、それを新技術で下支えすることで、今課題になっている世の中の問題にどのように光を指し、どんな夢を見せるのか、そういう戦いなのだと考えている。


世界のスマートシティの状況

日本国内だけでなく、海外の動きも押さえておきたい。例えばタイのスマートシティ開発構想は、2017年10月の「国家スマートシティ委員会の設立にかかる首相府令 」を機に立ち上がった。タイスマートシティ基本計画と同計画に基づく目標が合意された。2022年までに100都市のスマート化を目指すという。

中国ではBAT(Baidu(百度、バイドゥ)、Alibaba(阿里巴巴集団、アリババ)、Tencent(騰訊、テンセント))がスマートシティに参画しているという。この内容について下記note記事が参考になるため、興味がある方はご一読願いたい。

中国はご存知の方もいると思うが都市によっては日本の都市機能をはるかに凌駕したハイテクなつくりになっている。また市民の行動も日本人がようやく現金から電子マネーに切り替えている頃、中国のほとんどのスマホユーザーはwe chatと呼ばれるアプリ(LINEに近い機能)でキャッシュレスで決済をしている。このBATの暗躍?は凄まじい勢いがある。スマートシティ化に向けて自動運転の実証実験も開始中だ。

もちろんGAFAもこのスマートシティに関して、IoTやモビリティの分野で自動運転での参画を進めている。これは言わずもがな、なので、詳細は割愛する。

しかしここでも筆者が感じるのは、都市計画や技術の話が中心で世界観を示せている企業は少ないのではないかということ。


トヨタはトップランナーになれるのか?

私がいま最も注目しているスマートシティに関わる会社として、トヨタ自動車を挙げたい。

え?トヨタって自動車会社でしょ?何を言っているのと思ったあなたはこちらの動画を見ていただきたい。

これはトヨタ自動車が米国の電子機器の見本市であるCESで「Woven City」=「網の目のように道が織り込まれ合う街」なる概念を発表の動画だ。

敷地内には、3種の道路がひかれる。完全自動運転かつゼロエミッション(排出物がないこと)の乗り物が高速走行する道と、歩行者とスピードの遅い乗り物が共存する道、そして歩行者専用の道。これらが網目のように織り込まれる(英語でwoven)ことから名付けられた。

先ほどから何度も述べているが、これが私の言いたいスマートシティの「世界観」なのだ。もちろんこれはまだ動画とコンセプトなのだが、この世界観の作りこみが凄い。

日系企業にはこうした発想がなかなか難しいと考えていたが、このコンセプトづくりにはデンマークの建築家 ビャルケ・インゲルス(Bjarke Ingels)が担当したとのこと。気になって彼の建築や建築物を作る際の考え方の動画を確認したが、やはり地球との共生など世界観づくりから始まり、そのコンセプトに合う建築物を作っていく。

このWoven cityのコンセプトの凄さは、この街に住んでみたいと思わせる魅力的な仕掛けと世界観なのだ。都市の抱える問題を解決し、環境にもよく、人に優しい、それでいて便利という明るい未来を示しているのである。そこにはバラバラの技術の繋ぎ合わせがない。

また、数年前のCESでトヨタのe-Paletteを見た際は正直これは使えるのかなと半信半疑だったが、この都市空間とこの編み込まれた道というコンセプトではe-Paletteの自動運転技術が最大限の力を発揮する。今の自動運転技術の限界値も理解して設計に織り込まれている。

そしてこの都市はトヨタだけでは作りえないといい、世界中の企業に呼びかけ仲間を募っているのである。これもまさに雇用の創出。スマートシティがあるところに仕事ありとなるわけだ。

ここからは完全に筆者の予想だが、今後はこうしたスマートシティの世界観を作り、それをベースに都市開発パッケージを各都市に売り込むかという戦いになるのではと考えている。そういう意味で、この都市がプラットフォームなのだ。プラットフォームとはビジネスの基盤。簡単な例でいうとアップルストア。アップルストアというプラットフォームがあるから様々な人がそこにアプリを出しビジネスができる。これの都市版だと思ってもらえばよい。ただし、排他的プラットフォームでなく、ビジネスも含め開かれたプラットフォームになる可能性も示唆している。

このWoven cityはまだまだ情報が開示されきっていないのだが、今後も動向を把握していきたい。世界観という観点で様々な日系のビジネスにインパクトを与え続けるだろう。


私たちにできることを一歩ずつ









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