『人鬼血盟RPG ブラッドパス』所感

🔷はじめに

 『人鬼血盟RPG ブラッドパス』(以下、『BLP』)について、リプレイパートを読んだ時点での所感を書いておきます。
 まだルールパートは読んでいないので、正確ではない箇所もあるかもしれません。
 (以下、参照の便宜のためにルールパート内のページ番号を記述していますが、内容は読んでいないと思ってください)

 なお、説明の分かりやすさのために、他のゲームを比較として挙げる箇所が多々あります。それらはあくまで、デザインの差を明確化する意図にもとづいており、良し悪しを論じる意図はありません。


🔷固定的な調査フェイズ
(参照:p218)

 『BLP』はF.E.A.R.方面[具体的に]で言うところの〝ミドルフェイズ〟が、[調査フェイズ]として定義されています。
 (語としては、『トーキョー・ナイトメア』の〝リサーチフェイズ〟が近いですね)

 そして、その[調査フェイズ]の構成が、厳格に規定されています。
 p218を見ると分かるように、やることも順番も尺も、完全に規定されているのです。

 これによって、まずシナリオを作成する際のコストが減ります。
 (たとえば『トーキョー・ナイトメア』でシナリオを作成しようとすると、リサーチフェイズ中に何をどの順番でどれだけやるかは、完全にライターの裁量にかかっている=ライターが決めなければならない事柄になります)

 同時に、セッション中に必要な説明も減ります。シナリオごと(セッションごと)に構成が違うと、直接的にせよ暗黙的にせよ、「今回はこういう構成ですよ」という説明&理解が現場で必要になるワケですが、すべてが固定的な『BLP』ではそれがありません。これは大きい(セッション全体で、5~15分くらいは短縮され得ると思います)。

 構成の見通しが立っていれば、プレイヤー側でのストーリーテリングの計画も立てやすいと言えます。実際、付属リプレイでは、ツヴェルフのプレイヤーが計画的な演出をしています。

 また、p218に明らかであるように、[調査フェイズ]には調査=情報収集以外のゲーム的障害はありません。
 言い換えると、〝中間戦闘〟の類が存在しません。
 中間戦闘を魅力的なものにするのはきわめて難しい(何せ戦闘ゲームの肝は最終戦闘に置くことになりますからね)ことですから、初めからキッパリ存在しないというのは非常に歓迎できるデザインです。
 もちろん「セッションの尺を圧縮できる」などの効用をはじめ、中間戦闘の可能性があるとないとではキャラクター・ビルドの手間も全然変わってきます。あまり重要でないものごとに余計なエネルギーを使わない、現代的なデザインですね。

 (デザインを見る限り、追い追い中間戦闘めいた要素を足せる設計にしてある気配があるので、そのうち追加されるとは思います)

直接の関連はない過去のツイート:


🔷インタールード
(参照:p222)

 [インタールード]という、[ターン](調査フェイズの前半分・後半分にほぼ同じ)を振り返るタイミングがセッション中に設けられています。一般的にセッション後の〝感想戦〟などで行なわれる、ふりかえりアクションの一部を簡易的にしたものです。

 これ自体が直接セッションに与える効用については、いろいろな人が既に言及しているのでさておき、〝直接的ではないが画期的な効用〟として、「リプレイ内にふりかえりを自然な形で含められる」点を挙げておきたいところです。

 もちろんシステムや著者やタイトルごとに事情は異なりますが、と前置きしつつ……一般的に、リプレイでは〝ふりかえり〟部分が取り扱われていない例が多い[要出典]ものです。
 人によっては「アフタープレイこそが醍醐味だ」と主張したり、あるいはプリプレイ部分はリプレイに入っていたり、という状況からするとこれは歪な状況でしょう。リプレイを共有のリファレンス・モデルとしても、ふりかえり部分については資料がない、などの問題を生みます。

 その点、調査フェイズ中のワンステップとして、ふりかえり要素が組み込まれているのは、画期的だと言えます。


🔷手札調整の機会が厳格

 『BLP』は、『トーキョーN◎VA』などにやや似た、トランプを用いた〝手札〟を主な乱数とするゲームです。

 この手のゲームは、戦闘などのゲーム的な山場に向けて「手札を入れ替えて整えていく」のが通例です。
 『BLP』も『トーキョーN◎VA』も、その工程を踏むのは同様ですが、『トーキョーN◎VA』が手札調整の機会をかなりの割合でRL(※進行役・いわゆるGMに相当)の裁量に委ねているのに比べて、『BLP』では機会が厳格に定められています。
 つまり、乱数を御せる度合いが下がり、代わりに、調整作業にかかる手間が減るワケです。些細かもしれませんが、手札調整はフレーバーに乏しい工程なので、削れるなら削るに越したことはありません。また、乱数が御しきれないというのも、ゲーム展開にゆらぎをもたせる意味では悪いことばかりではないと考えられます。


🔷プレイヤー間での手札の交換
(参照:p223)

 手札関連で、もうひとつ、言及すべき点があります。

 それは、「最終戦闘の前に、プレイヤー間で手札を交換する機会が用意されている」ことです。
 (フレイバーとしては、吸血行為をあらわしています)

 これは、手札制のゲームではシンプルながらストレスを大きく軽減できる仕掛けです。
 具体的には、「数字はよいが、自分は(効果的に)使えないスートの札」を握ってしまっていても、それが無駄にならないのです。
 ペアの人間側は黒の札(=スペード&クラブ)、吸血鬼側は赤の札(=ハート&ダイヤ)を使うルールですから、「自分が使えないスート」はまず間違いなく「パートナーが使えるスート」です。

 そうそう、『BLP』は手札を常にオープンにして遊ぶゲームです。なので交換を視野に入れて、計画的にプレイしていけるようになっています。


🔷最終血戦フェイズというネーミング
(参照:p223)

 いわゆる〝クライマックスフェイズ〟に相当するフェイズを、『BLP』では[最終血戦フェイズ]と呼びます。
 「最終血戦」ですよ「最終血戦」。戦闘をするというのがこれ以上なくよく分かって大変よろしい。


🔷行動順
(参照:p236~237)

 『BLP』には行動順を決定するための[先制値]がありますが、これはよくある単純ソートではなく、「先手PC」「ボス」「後手PC」「モブ」の4つに分割する役割にとどまっています。言い換えると、同じ区分内では、当人たちの任意の順番で動けます。

 これも、地味ながらストレスを減らす効果のある工夫と言えます。
 敵に対してのイニシアティブを争うのはともかく、味方同士で順序を気にしないといけないのは、(特にゲームゲームした思考が得意でない人にとって)ストレスになりますからね。いやホントこれはすごい。

 これに伴い、『BLP』では〝イニシアチブプロセス〟が存在しません。とどのつまりイニシアチブプロセス割り込みがない。スゴイ!


🔷手札融通をきっかけとする会話

 すでに述べた手札交換のほか、[血威]という大技の代償に手札が要求される場合など、パートナーからその札を融通することもできます。

 手札の枚数と消費のペース、しかも合致スートが全体の半分……というデザインから、いきおい手元の札のみでは手が回らない状況が生み出されやすくなっており、つまりパートナーとの融通を前提としているワケです。

 融通したりされたりには、もちろんプレイヤーレベルでの会話が必要となります。つまり、会話のきっかけになるのです。しかも「助ける or 助けられる」という文脈の。
 「協力してゲームを遊んでいる感」が自然に形成される、上手い仕掛けだと思います。


🔷情報収集に関するルール

 現時点の私の認識としては、『BLP』で最も鋭く洗練されているのは、情報収集に関するルールです。

 まず、『BLP』では判定と情報が1:1で対応していません。
 判定によって得られるのは[調査進行度]という抽象的なポイントであり、これが既定値に達することで初めて(フレイバー面でもゲーム面でも)具体的な情報が獲得できる、という仕立てなのです。
 これの何がすばらしいかと言うと、「情報の総数・総量が少なくて済む」点です。シナリオライティングのコストが下がるのはもちろん、セッション中に(特にプレイヤーが)情報の把握にかかるコストも下がります。具体的には、たとえば付属リプレイでは、情報はたったふたつです。素晴らしい。ライトウェイト。

 そして、[調査進行度]も情報も、PC個人ではなく、全体で共有される要素であり、また[調査進行度]はすべての情報で共有される値でもあります(たとえば、情報Aは進行度4で開示、情報Bは6で開示、などのように)。
 このように「全体での共有」と「進行度という中間的な値」が揃うことで、「情報収集に長けたPC」が活躍する余地が生まれます。
 判定:情報=1:1形式のゲームでも、情報収集系のデータを取得することで「情報収集に長けたPC」を作ること自体はできますが、長けていようがいまいが、ひとつの判定で得られる情報は1個を超えない——つまり、難易度に対して過剰な分の性能は、現実的な意味を持ちません。
 しかし、中間的な値を経由するデザインは、性能があればある分だけ(いやまぁ限度はありますが、それでも1:1対応よりは遥かに)素直に結果に還元されるのです。これなら、情報収集系データの取得にも前向きになりやすいと言えます。

 また、[ターン]内では、[調査シーン](※情報収集の判定をするシーンです)のあとで[交流シーン]があると規定されています。
 [交流シーン]は、読んで字のごとくPC間の交流、いわゆる〝ロールプレイ〟をする機会です。この機会があらかじめ用意されているので、[調査シーン]では特に演出をしなくても、ターン全体ではイイ感じにまとまるようになっています。情報収集の手続に演出を添えるのは、場合によっては難しい(あるいは面倒)なコトもありますが、そういうときにはさっさと先に進めてしまっていいワケです。喋る機会が用意されているので!
 もちろん、[調査シーン]で何か演出をしてもよく(※付属リプレイでもかなり演出されていますね)、それを助けるチャート類が充実してもいます。その時々に応じて、「さくっと進める」でも「演出を添える」でも、より都合のよい方法を採れるワケですね。


🔷おわりに

 以上、とりあえずリプレイパートを読んだ時点での感想でした。これぞ現代のゲーム……!

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