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オプションの思想

一意専心というのは、何があっても脇目を振らず、この道一筋に邁進しますということを表している。

成功するために、一時期、ほんとうにひとつのことに集中し、他は一切合切を切り捨ててがんばる姿勢は、あるべき理想の姿に思える。しかし、これは、行き詰まったときに逃げ場がなくなってしまうコンセプトでもある。

じつは、その道で成功を収めている多くのプロたちが、これと逆の発想をもっていることは意外に知られていない。

「オプションの思想」

私は、そう呼んでいる。

目指すものをしっかりともって自分の中心に据え、エネルギーを燃やし、切磋琢磨し、努力を惜しまないが、それでも、「これがダメなら、あれをやろう、行き詰まったらこうしよう」というコンセプトだ。

それはある意味で、逃げ道を用意しておくことでもある。つらくなったときに息抜きを自分に与えるリラックス方法でもある。

今や世界的なモデルでもある川原亜矢子さんも、いつもモデルとしてやっていけなくなったら何をやろうかというオプションを一つか二つもっていたという。サッカーの中田英寿さんは、ほんとうになるかは別として、税理士に興味をもっていると、以前いっていた。これもオプションだ。

私が知っているかぎり、成功しているプロフェッショナルでオプションを持っている人は非常に多い。

オプションの話を聞くことは、とてもおもしろい。みんな、マジでオプションを考えている。オプションの中身も、趣味と実益が結びついていたりして、けっこう魅力的なのだ。

ぎりぎりの世界で勝負するプロたちが、いつも絶好調を持続することは難しい。長くプロであり続けるためには、ダメなときに自分をうまく処する方法をもてるといい。自分の落ち込んでしまいそうな気持ちを救う方法が必要だ。

そうしないと、一回ダメになったら終わりになってしまう。オプションをもっていると、気持ちのキャパシティがほんとうに大きくなる。それに、楽だ。成功するためにはこうじゃなきゃいけない、と私は思う。

オプションも、できるだけ自分の気が向く好きなことをやったほうがいい。本業と一見関係ないオプションが結びついてしまうこともある。趣味の社交ダンスに本格的に入れ込んでしまい、次第にダメ社員の烙印を押されてしまった人がいる。彼にとって、ダンスをすることはほんとうにアミューズメント(息抜き的な要素の強いお楽しみ)の域を超えて、エンターテインメント(わくわくどきどきしながら真剣に打ち込むもの)になってしまった。

ところが、ダンス人脈というのはバカにならない。日本の産業界を動かす重要人物の中には、ダンスに入れ込んでいる人たちがけっこういるのである。

ある日、彼は、社長に呼ばれた。

君に取締役をやってもらいたい、と社長からいわれた。本人が驚いた。いままでは、窓際社員として気楽に勤めてダンスをやっていたのだから。

しかし、その会社の社長がつきあう日本の錚々たる企業のトップたちから、彼の人柄とダンスのうまさに対する賞賛のことばが次々と出てくるのである。さらに「なんで彼が窓際なんですか?オタクはそんなにダンスをやる社員に冷たいんですか。彼がきてくれれば、いつでもうちは取引するのに」という他社の社長まであらわれた。

オプションもここまでくるとオプションを超える。意外にも、こうした例はけっこうある。

いざとなったら別の道がある。この想いが、逆にやりたいことをやり切る道になる。​

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