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「VRおじさんの初恋」2021年度Sense of Gender賞 受賞について(note版)

ご無沙汰しております。暴力です。


『VRおじさんの初恋』が、先日行われたSF大会内において2021年度Sense of Gender賞を受賞しました。

選者のみなさま、運営のみなさまありがとうございました。

「SF」「ジェンダー」この二軸から編み出された賞を受賞できたことを大変光栄に思うとともに、自分ごとながら「なぜこの作品が…?」と思う向きも正直無いではありませんでした。ですが、この賞についての皆さんの意見を見ていて幾らかは言語化できそうな思いが生まれたので書き記します。

『VRおじさんの初恋』は「SF」なのか

大枠ではSFと言えるんじゃないかな、と思っています。
「VRSNS上で、現実とは性別も年齢も異なるアバターで出会った者同士が恋愛をする」という行い自体は何年も前から現実にある出来事で、これ自体はSFではない。「MMOでネカマ同士がゲーム上で結婚する」に置き換えれば20年以上前から存在する文化とも言えてしまうし。

それでも、そこはかとなくこの題材に未来の香りが漂うのは
・モニタ越しの交流をより一歩踏み越えて、現実の身体性に近い体験ができる(と思われている)VR文化に対する期待感
・MMOのような特定のゲーム、特定の世界観に紐づいたものではなく、個人が自由に制作した架空の世界があり、そこに没入するためのデバイスとソフトウェアがあること

主にこの2つではないかと思っています。

例えば、人類が宇宙に行く話そのものはもはやSFではないです。
でも、「大変な訓練をしなくても、たくさんのお金を使わなくても、普通の人が普通に宇宙に行ける話」はSFっぽく見えると思うんですよね。
「VRSNS」ってそういう位置づけのものなんだと思うんですよ。
VRSNSをある程度知っている人にとっては現実のことだとしても、じゃあ、世界中の人達のどれだけがVRSNSの本質を知っているかといえば、全体の1%もいないんじゃないでしょうか。お前たち未来に生きてるぜ。

あなたの学校のクラスの皆が、会社の同僚たちが、その電車に載っている乗客たちが、その中のどれほどの人がVRSNSの存在を理解できるか、という。

だから「『VRおじさんの初恋』はSFだ」と断言するのは難しいとしても、
「『VRおじさんの初恋』はSFのように見える」とは言えるんじゃないかな、と思います。

「椅子に座ってるのにフルトラッキングさながらの動きができる」とか「どうやらピンポイントで触覚を錯覚させるような仕組みがある」とか「上限が100人以上入れるワールドがあるっぽい」など、絶妙に今は存在しない技術を混ぜているところもあるので、そのあたりは漫画に都合が良いように意図して飛ばしています。いいんだよ、半年後にどんな技術が出てくるか予想できない時代なんだから。

『VRおじさんの初恋』は「ジェンダー」の話なのか

「それがテーマの中心ではないが、大きな要素としてはある」という風には言えると思っています。
「ロスジェネの話」であると同時に「ナオキとホナミという個人間で起きた話」ですが、そのナオキとホナミのパーソナリティを語る上で「男性であること」が彼らの性格に大きく作用しているのは間違いないからです。女性をファンタジーのように思っているナオキと、自分が触れてきた女性を自分なりに再現したいと思ったホナミの違いは、彼らが生きた時代の社会の男性規範がどうであったかも少なからず影響しています。
(ナオキはそこから脱落した側ですが、故に男性らしさに乗れず女性らしさを理解する機会もなかった…というあり方もまた「今風」と言えるんじゃないかな、ぐらいには思っています)

キャラクターの価値観の是非を問うのではなく、ただ客観的に描写する事でしか伝わらない温度感があると信じた作品なので、その点を汲んだ感想をつぶやいて下さる読者さんの存在をとても嬉しく思います。
『VRおじさんの初恋』はナオキとホナミの価値観に支配されたドラマだと言い切れるし、葵は基本的には観測役でドラマそのものの価値観を動かすことはしません。そうでなければ描けない話だと思ってました。ナオキや葵を正座させて「正しい人間のあり方とは…」って説教する漫画にすることも理論上は可能ですけど、私が描きたいのは正しいあり方でない(とされる)人の話でした。

問題提起をしているわけじゃないのに、なんかものすごく殴ってくる姿勢だけはある、そんな暴力的な作品ですが、作品が放ったパンチが読者の肌感覚にヒットした時、頬肉に滲んだ血の味に旨味がある…とは思っています。その旨味が「ジェンダー的な題材」側からポップしてくる事も人によってはあるだろうと。そういう意味で描き手としては今回の受賞を前向きに受け止めております。

というわけで、恐縮しつつもSense of Gender賞を拝受させていただいた次第です。改めて有難うございました。そしてこれを期に作品に改めてコメントを寄せてくださった皆様もありがとうございます。(noteで勝手引用いたしました。問題があればお知らせください)

目指したい、重版!

あとまあ何と言ってもこの作品がもっと世の話題になればそれだけ暴力とも子の作家活動の稼働率が上がるので、そういった意味でも受賞で話題になるのはただただ有り難いことです。

『VRおじさんの初恋』がバズる前から今に到るまで状況は一貫して変わらずです。私は日頃は勤労をしておりますので、基本的には創作にかける時間の確保の難易度がやや高いです。勤労せねば生活ができない。皆様の作品へのご支持次第で状況が結構変わります。
新作を次々出して実績を積んでゆくのが王道とは思いつつも、気軽にその判断ができるほどには余裕がないため、いまもって「VRおじさんがどれくらい売れたか」が私にとっては重要な要素です(一作目の発行部数が二作目に影響する、というシンプルな話もあります)。

なので皆様、引き続き折に触れて「VRおじさんの初恋」と暴力とも子という作家の評価拡散にご協力頂ければ幸いです。目指したい、重版!

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