マクラーレン・シッパイダー

オーダーマクラサービスとそのビジネスモデルといわゆるバリュープロポジション(顧客価値)について。一連の体験から、学びがあるかもしれないので記録しておこう。

8月の中頃くらいだったか。テキトーにAmazonでレビューだけを見てポチって購入してしまった枕のおかげで、オレは首が曲がらないほどの寝違えに悩まされていた。

よくよく考えてみれば寝具に限らず衣服や靴を購入するときでも同じで至極当然のことなのだが、人間の体は各々で個人差があるので こういったレビューで良いと言っている人が多いからといってオレにも必ずしもバッチリくるかと言うと、どうやらそうではないらしい。

正直、買って1日目から”おや?”という感覚はあったのだが、これまで人生30余年 寝具なんぞ寝れさえすればなんでも良いというタイプの人間だったし、特にそれでいて困ることもなかったこと、元来出不精であることから “1日寝違えれば寝違えだが、100日寝違え殺せば慣れてなんともなくなる!英雄だ!” というような殺人狂時代的に間違ったマインドセットになってしまい、ガマンしつづけた結果 とうとうまともに寝れないくらいストレスフルな痛みが首に蓄積してしまったのである。

オレは、”まんをじして、ここはオーダーマクラしかない” と思った。

というのも、妻が寝具店で頸椎のカーブを測定してもらいオーダー枕を買ってからスヤスヤと寝ているのを目の当たりにしていたからだ。

なにをかくそう、オレは自己肯定感がものすごく強く、”オレ専用”という響きにめっぽう弱い。ザ・シンプソンズのチャールズ・モンゴメリ・バーンズ社長が金持ちすぎて世間の常識から離れていることをあらわすワンシーンで、「スーパーマーケットでシリアルを買おうとしたけど、キャラクターの顔ばかりで自分の顔が印刷されたやつがないんだ!ワシのはどこだ!」とか言って困るようなシーンがあったが、子供のころまさしくアレと同じことを思っていた。サルやトラじゃなくて、オレ専用のコーンフレークはどこにあるんだろう、と。あとは、ホビージャパンの”キャスバル専用ガンダム ついにプラモデル化!”の記事を呼んでキャスバルはいいからそんなのよりオレ専用ガンダムを商品化してくれよ、などとわけのわからないことを考えていたものだ。

(ちなみに、妻に一晩でいいから枕を貸してほしいと軽く頼んだのだが、
汚いしクサくなるからとイヤそうにしていたので借りることができなかった。)

とにかく、自分専用の頸椎の湾曲ぐあいにばっちりくる理想の枕が手にはいるのだと思い、嬉々として一番近いオーダー枕ができる専門店に車を走らせたわけだ。

結果的にこれはオレにとっては失敗だった。
現在、2回の来店とメンテナンスを経ているのに、オレはいまだに毎日軽く寝違えている。

断じて店のサービスや枕の製品性に問題があったからではなく、単にオレが寝具に求めているものと サービス側が提供する顧客価値がマッチしていなかったからに他ならない。

ざっくり言うと、企業側はウリを

 “調整のレンジは無限!何回でも無料メンテナンス!!理想のマクラがつくれます” 
というようなものに設定しているが、

オレは
”値段が高くてもいいから、一回細かく調整さえすれば首が痛くならない枕、できればメンテいらず”
というものを求めていたというわけだ。

1回目の来店時、応答してくれた店員さんが、「もともと首の形状が高いマクラにあわないので低くしましょう」と提案をしてくださった。それでも寝違えるので、やがてなれるだろうとおもって1カ月ほど我慢してがんばってはいたが、やはり痛くて我慢できなくなってこの土日に再度メンテナンスにいき、相談に乗ってもらった。今度は「前回低くしすぎたみたいですね。今度は高くしてみましょう」と提案を受けた。翌朝目が覚めると、やはり痛くて首が回らなくなっていた。

もちろん再度この話をしにいき、数回か、あるいは納得のいくまでトライアンドエラーを繰り返せば 世界にひとつの最高の一生モノのマクラができるだろう。

だがオレはもうメンテナンスにはいかないだろう。
なぜなら、飽きてしまったからだ。

とにかくごちゃごちゃした付加価値はいらないから、てっとりばやく首がいたくなくなるマクラをくれよな。
ハイクオリティじゃなくていいからさ。


さて、”枕”の顧客価値はなんだろうか?

マイニューギア!さながらオリジナリティや自分に完全にフィットし、最高の体験を手に入れる製品群だろうか?
少なくとも、オレはそうは思わない。
枕にとって最高の顧客価値は枕のことをいちいちケアしなくて良い”メンテナンスフリー”だろう。
人間は忙しい。朝起きたり夜寝るたびに枕のことを頭に浮かべたりしている時間はないのだ。要は多くの人々にとって、枕によって悩まされなければ、なんでもいいのだ。
値段にかかわらず、買って不満なく使えることが至高なのだ。

しかしながら、寝具や枕は飽和している。この死ぬほど多いなんでもいい、の中で自分たちの枕はどうやって勝ち取るんですか、という問いにメーカーは答えなくてはならない。
メーカーが見出した答えが
”枕”に新しい顧客価値を定義するサービスなのであれば、調整方法・提供価値が資産化されておらず、成熟していないのだろうな、と思う。マジョリティーの固定概念を覆すほどの顧客価値を提供できていない。

需要がないわけではないと思うが、現状の価値観を壊すような魅力のないビジネスモデルなので、欲張って事業拡大するといまのところ先のない崖っぷちがうっすら見えているような気がしてならない。





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