ふかめ

仕事を休んだ二日目の朝。清々しい気持ちで9時前に起床した。昨日昼間に二度寝してしまったため浅眠ではあるけれど、仕事にいかなくて良いと思うと気分が晴れ晴れとする。

まだ猫が私の布団で寝ている。目が合うと薄目を開けてゴロゴロと喉を鳴らしている。私が家に居て喜んでいるようだった。そう思い込みたい。

それだけで休職など屁でもないという気持ちになる。猫は偉大だ。起きてから、目星をつけていた心療内科に片っ端から電話をした。

コロナ禍以降、心療内科にかかる患者が増えたという。そのためか初診はほとんど1〜3ヶ月待ちのようだった。

申し訳無さそうに「お大事になさってください」と言ってくれた受付の方は、一日何件も同じような電話に対応するのだろう。2件目くらいで早くも心折れる。私よりも辛い思いをしていて、一刻も早く通院を必要としている人がいるのだろう。そう思うことにした。

4件ほど電話したところで、最短で診察してくれる所を見つけた。

通院先が決まったところで、早速職場に連絡をする。直接上司と会話したくなかったので、たまたまいた部長が出てくれた。

部長は私の申し出にうん、うんと淡々と相槌を打つ。最後に「具体的な理由とかあったら教えてくれる?」と聞いてくれたので、少し息を整えて答えた。ああ、おかしい、まともに話せない。

勝手に涙が流れる。声がしゃくれてしまい、うまく伝えられない。

言葉にした途端、ようやく私は私のしんどさを誤魔化し続けてきたのだと自覚する。

「ごめんね、任せきりにしていて」

部長はすまなそうに言った。部長は私の上司より数倍マシなのでなんとも思わない。

環境を変えてもらったとて、私はもうあの席に戻れないと思っている。電話を切った後、泣いた顔をティッシュで拭いた。


夕方になり、上司から不在着信が入っていたことに気が付いた。スマホに表示された名前を見てぎょっとする。同時に軽い動悸もした。

これは駄目だ。そう思って一度閉じた画面を読み返し、最低限の返事をした。


今はまだ靄のかかった中で、私は私の進路を邪魔するすべてを憎んでいると自覚する。

情も後悔も、残された仕事を現場に任せてしまったことに対する罪悪感など微塵もない。

私の選択は正しかったと思っている。謝罪などするものか。どっぶりつかれたその夜、私は早々と布団についた。