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素人がM-1の一回戦に出場した結果...
初めてビクトリアンというコンビでM-1にエントリーをしたのは2019年。
この年のM-1は神回と呼ばれており、決勝を見ていた当時はミルクボーイさんの史上最高得点に熱狂し、ぺこぱさんの下克上に震え、優勝の瞬間にはつい自分も感極まり泣いてしまった。
そんな大会に参加出来たことが誇りに思う。
テレビの決勝戦は年末だが一回戦は夏から始まる。
この日を迎えるまで舞台に立った数が、指で数えられるほどだった自分達は必ず2回戦に通過してやるといった野心はなく、持てる力の限りを尽くそうと相方の春樹と決めていた。
M-1はそんなに甘くないはずだ。
とはいえ舞台袖では相当緊張していた。
たかがアマチュア、誰も期待してないはずなのに。
プロは人生がかかっている勝負なのだから、きっとこの何十倍も張り詰めているのだろう。芸人という職業はとんでもないな。
ネタ披露中にやはり緊張でツッコミを噛んでしまった。あの瞬間、客席から「あ、噛んじゃった」という空気感がフワッと漂っていく心地の悪さは未だに覚えている。プロでもないのにカッコつけてマイクの高さを調節してる場合じゃなかった。
でもあれをやるために漫才師を目指す人も少なくはないと自分は確信している。
ネタを終え舞台からはけていくとM-1のカメラが前のコンビにインタビューをしているのを見かけた。順番的に次は自分達なので二人でそわそわしていたが、全く見向きもされなかったので
「俺ら落ちたんだな」
ふとそんな思いが横切ってしまった。だがそれでもいい。全力を尽くしたし、まだ始めて一年も経っていないのだ、当然の結果であり良い経験になった。
結果発表になると芸人達は、ネタの時とまるで別人で真剣な面持ちをしていた。最後まで見届ける観客も共に熱が入っている。そして続々とコンビ名が呼ばれていく中で
「エントリーナンバー1861 ビクトリアン」
呼ばれてしまった...
期待してなかった分、その喜びは何倍にも膨れ上がる。春樹も動揺していた。
ステージに上がる時、自分達だけもう帰る用意をしていたので私服だったが堂々と誇らしげに立つことができた。
アマチュア仲間の方にも祝福され、結果発表が終わると、お客さんに話しかけてもらったりして、一回戦通過しただけなのにまるでスターになれた気分がした。
帰り道に浮かれすぎて、信号無視して、警察に注意を受けたけど。
この日は人生の中でも一二を争う達成感に満ちた日だった。
2回戦では大火傷を負うことになる事は知らずに。
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