療養型病院での日々

前回は誤嚥してためであろう熱が続いた為、選択肢のひとつとして「胃ろう」の提案を受けたというところまででした。
ここで、病状以外で実際に困ったことがありました。それは突然にしての脳梗塞での発作で脳の大部分が損傷を受けた為、本人が話すことができなくなってしまった故の困りごと。

それは「本人の銀行口座から現金を引き出せない」ことでした。 人は「話せないんだったら紙に書いてもらう事できないの?」と訊かれたこともありましたが、「話す」という行為は脳からの指令が正常な故、できることで この話せないということは脳の言語中枢が分断された為不可能なのです。

治療費はこれから嵩むだろうし今後のことも考えると現金を用意しておかないと…と思った矢先、時代はもはや個人情報保護法のため、家族でも、本人の通帳、届出印、本人との続柄の証明を提示しても不可能でした。銀行に事情(本人の入院費、治療費用の為)を話して交渉してもダメでした。
つまり、キャッシュカードがあれば引き出せますが、暗証番号までは知らなかったのです。
急に病に襲われると、こういうこともあるので、ある程度の年齢になったらリスク管理として全部を明かさないまでも、「もしも」に備えて、いざとなった場合のメモを記しておくなり、を家族間にて周知しておくことを強くお勧めします。

さて、「胃ろう」とは簡単に言えば胃に穴を開け管を通し栄養を入れることです。
この「胃ろう」設置のおかげで日本では沢山の高齢者が命をながらえることができています。
一方で賛否両論ありますが、ここでは省きます。
医師から説明を受けたてから、しばらく考えどうすることが最善なのだろう、と悩みました。本人の意思も聞けない、で私は胃ろうは選択しないことにしました。
なので、本人の生命力にかけあと少し経口摂食のリハビリを希望し、それから必ず 院内での飲込みリハビリに同席しました。

言語聴覚士(S T)さんの誘導で、口内にリハビリ用のゼリーを口に入れ、注意深く喉周りを観察されながらしてくださいました。少しづつ進み今度は、父の場合は「言葉」を自ら選んでは言えませんでしたが、「あー」とだけなら音が出るようになってきました。この「あー」を言うことは喉の筋肉、つまり声帯を震わせていることなので飲みこむ時に、練習になるんですよ、とのお話しがあり、それでは私が面会の時にはどんどん話しかけ、「あー」「いー」でも言わせればいいんだ! と 病院通いを決めました。

療養型病院というのは、ほとんどが高齢の方が入院されていました。はじめに入院したところは総合病院で、病気の積極的な治療のみを行います。重篤な父の症状でもこちらにいたのは90日くらい…でしたか。2007年当時でも病院に入院してられる日数制限があり、応急的な治療をしたら転院しなくてはなりませんでした。今は確か、もっと期間が短くなっています。が、療養型病院は3ヶ月は入院できるようでした(連続しての意味、)

その他、動かなくなった手のマッサージや左手は動くので、なるべく左手で動作を行う訓練のほか、理学療法士さんと起き上がる練習などを行う毎日。

微熱を繰り返しながらも少しづつ回復が見えてきました。ある日、いつものように父に話しかけ(理解はしてないだうけど) 私のいう言葉を父に模倣してもらうことを試しました。

「あーー」から、「あーりーがーとーう」と。言えた!! これだけでも感動でした。

こうして繰り返すことにより、人間は機能が一つ失われたとしても、何かを再生できることもあるのだと、見せてもらいました。いまになって理解を深めた事ですが、声を出すことは人間の生命の維持に深く関わっているのです。むせる事も少なくなり、口から食事もとれるようになりました。
転院して1ヶ月位から、体も安定してきて私にも少しだけ明るい兆しを感じることが増えてきました。

次は、ついに私の精神的な疲れと、療養型病院の「次」の選択について。



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