第99回全国高校サッカー選手権準決勝 山梨学院vs帝京長岡

準々決勝でJリーグ内定選手4人を擁する昌平を下し、11年ぶり2回目の準決勝進出を決めた山梨学院。
4試合で失点1の堅守を武器に決勝進出を目指す。

一方の帝京長岡は2大会連続の準決勝の舞台となる。
主なOBとしては川崎フロンターレの小塚和季選手やサガン鳥栖の酒井宣福選手などがいる。
昨年度はJリーグ内定選手3人を擁するタレント力も備えたチームであったが、今年度は圧倒的なタレントはいないが組織力は上回るチームである。
8度目の選手権で初の決勝進出を目指す。

これまでは部員や保護者の観戦は認められていたが、緊急事態宣言を受け無観客となることが決まった。
新型コロナウイルス感染拡大が止まらない現状では致し方ない判断ではあると思うが、高校3年間あるいはサッカー人生の集大成となる舞台が無観客となってしまったことは残念に思う。
1人でも多くの人に選手たちの頑張りが伝わるよう書かせていただきます。

1.セカンドボール

スタメンはこちら。

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お互いに準々決勝と同じスタメンとなった。
山梨学院はベンチに1回戦で負傷した板倉選手、準々決勝を出場停止で欠場した茂木選手が戻ってきた。
準決勝の舞台でベストメンバーが揃った。

帝京長岡は3回戦で負傷交代となった石原選手がベンチに入った。
川上選手と酒匂選手は前回大会の準決勝に出場していた。
帝京長岡は守備陣を中心に下級生が多くいるのが特徴のチームとなる。
佐々木選手、松村選手、三宅選手は2年生。
佐藤選手、笠井選手、桑原選手、廣井選手は1年生となる。
松村選手はU17日本代表、廣井選手はU15日本代表に選ばれている。

立ち上がりいきなり試合が動く。

野田選手が思い切りの良いミドルを放つとポストに当たり、こぼれ球に久保選手が詰める。
佐藤選手が防ぐも石川選手が詰めて開始21秒で先制する。

試合後の山梨学院石川選手のコメントより。

『帝京長岡は(山梨学院の)自陣で守備の切り替えが速いので、シンプルに相手の裏をロングボールで突くという狙いでやっていた。それで立ち上がりに狙って得点することができたので良かったです』

石川選手のコメントにあるように一瀬選手がシンプルに前線へ蹴り込んだところが起点となった。
そこからセカンドボールを回収し、野田選手のシュートへと繋げた。
立ち上がりいきなり狙いがハマり先制点へと繋げた。

先制点の場面も含め、球際の勝負やセカンドボールの争いで圧倒し押し込んでいく山梨学院。
球際、セカンドボールの争いで勝り、ボールを奪うと野田選手を経由し帝京長岡DFラインの背後を突いていく。

一方の帝京長岡は後方からパスを繋ぎ前進を図り、山梨学院の左SB中根選手の背後へ酒匂選手や佐々木選手が走り込む。

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だが、飲水タイムまで山梨学院の44のブロックを崩せずシュートが打てない展開となる。

試合後の山梨学院長谷川監督のコメントより。

『チームとして、帝京長岡さんは昌平さんとスタイルが似ているところがありました。ドリブルとパスで侵入してくる違いはあったので、距離感をコンパクトに縦パスを入れてくるところで、守備をコントロールすることがテーマでした。』

ドリブルで侵入する昌平とパスで侵入する帝京長岡。
昌平との試合ではドリブルを仕掛けて来る選手に対し、複数人で囲いこみに行っていたが帝京長岡に対しては縦パスを狙いその勢いでカウンターへと繋げていくことを狙いとした。

飲水タイムを経て、帝京長岡はシステムを変更する。

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システムを変更したことで中盤での数的不利を解消し、サイドの選手が張ることで山梨学院の守備陣を開かせ、セカンドボールを帝京長岡が拾える場面が増えていく。
セカンドボールを拾えるようになったことで徐々に押し込んでいく帝京長岡。
中でも廣井選手が起点となる。
だが、熊倉選手を脅かすまでは至らず。

前半の終盤になり後方からのショートパスで前進を図っていた展開からロングボールで山梨学院DFラインを押し下げ、押し込む場面やCKでは大外でフリーとなる場面も見られゴールを奪うための道筋は示した。

耐える展開となる山梨学院だが、帝京長岡のDFラインを突き、幾度もチャンスを作るも追加点を挙げられず。
セカンドボールの争いで優位に立つチームが時間ごとにペースを掴む前半となった。

2.キャプテン

後半から両チーム共に選手交代を行う。
山梨学院は久保選手に代えて茂木選手を投入する。
ここまで笹沼選手とペアで投入されていたが、初めて一人での起用となった。
一方の帝京長岡は上野選手に代えて鉾選手を投入する。
共にそのままのポジションに入った。

立ち上がり大きな展開からゴールに迫る帝京長岡。
前半は狭いエリアでの局地戦で後手を踏み、山梨学院に押し込まれたが前半途中から徐々にピッチを広く使うことでチャンスを増やしていく。

だが、山梨学院が強みを生かし、追加点を挙げる。

右サイドから新井選手のロングスローに一瀬選手が合わせる。
山梨学院もロングスローに対し、一瀬選手がすらしセカンドボールを狙う形をここまで見せてきたが一瀬選手に合わせる形で得点を奪った。
見ていただきたいのはゴール前の2人。
ゴール前の2人が相手DFとGKが前に出られないようにブロックすることで一瀬選手が飛び込むスペースを作っている。
ただ、ロングスローの飛距離やスピードで得点を奪っているわけではない。
緻密に用意している「セットプレー」である。

52分にはお互いに選手交代を行う。
山梨学院は野田選手に代えて笹沼選手を、帝京長岡は笠井選手に代えて佐竹選手を投入する。
笹沼選手はそのままのポジションに入ったが、帝京長岡はポジションを変更する。
佐々木選手がCBに入り、酒匂選手が右SBに下がる。
佐竹選手は右サイドに入った。

57分には山梨学院に決定機。
谷口選手からのクロスに廣澤選手がフリーで合わせるも帝京長岡が防ぐ。
完全に山梨学院の試合という流れが直後に変わる。

59分に背後に抜け出した川上選手がニアサイドを抜き、1点を返す。
廣井選手のダイレクトでの浮き球のパス、葛岡選手のすらし、川上選手のシュートといずれも山梨学院の目先を変えるプレーとなった。
帝京長岡としては初めて熊倉選手を脅かす場面を作り、一発で仕留めた。
この得点を機にまた帝京長岡が押せ押せとなる。
直後には鉾選手がミドルシュートを放つとポストに当たる。
徐々に帝京長岡がゴールに迫っていく。

試合後の山梨学院長谷川監督のコメントより。

『そういう状況(無観客)でサッカーをすると、我々や選手の声が聞こえる。観客がいるときにはかき消される声も聞こえるので、お互いにそうですが、修正やコントロールをし合えるかが今年のポイント。意識して、ゲームプランも作っていました』

1点返されたことで山梨学院も慌てていたかと思いきや、長谷川監督としてはこの状況も想定内だったようである。

攻め続ける帝京長岡、守ってカウンターから追加点が取りたい山梨学院。
78分に帝京長岡が同点に追いつく。

山梨学院の左SB中根選手の背後、2ライン間と徹底して狙っていたのが形となったPK。

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キッカーはキャプテン川上選手。
真ん中に浮かせたチップキックを決める。
この場面での落ち着きは見事である。
山梨学院は前半から決めきれなかったツケが回ってきた。

試合後の山梨学院長谷川監督のコメントより。

『選手は(前半)3-0にできたな、という雰囲気でベンチに戻ってきた。2、3点取れる流れの中でシュートミスを繰り返して疲弊した。外すと疲れが倍増しフィジカルが低下するもの。後半にパスを回されるのは分かっていたので、(押し込まれた)残り15~20分のような戦いは避けたかった。(同点にされ)前半のツケが回ってきたと思いました』

同点に追いついた後も帝京長岡が押し込み、山梨学院がカウンターからチャンスを伺う展開は変わらず。

87分には帝京長岡に決定機。
ペナルティエリアを崩し、最後は鉾選手がシュートを放つも枠の外へ。

88分に廣澤選手に代えて山口選手を投入する。
90+2分には新井選手に代えて浦田選手を投入する。

だが、試合は動かずPK戦へと突入する。
先行は山梨学院。
笹沼選手が決め、先手を取る。
帝京長岡の一人目は川上選手。
PKで同点ゴールを決めたが、今度は山梨学院のキャプテンが立ちはだかる。
熊倉選手が止め、山梨学院がリードする。
続く山梨学院は山口選手が決める。
帝京長岡の二人目、葛岡選手のキックはクロスバーの上へと外れてしまう。
山梨学院が2−0とリードをするもここから流れが変わる。
一瀬選手のキックを佐藤選手が止め、三宅選手が決めて2−1とする。
山梨学院四人目の浦田選手のキックも佐藤選手が止め、流れは帝京長岡に傾いたかと思われた。
だが、またも熊倉選手が立ちはだかる。
鉾選手のキックを止め、流れを打ち切る。
五人目は谷口選手。
佐藤選手の逆を突き、山梨学院が決勝進出を決めた。

試合後の山梨学院熊倉選手のコメントより。

『本当に今日、正直自分は何もやっていなくて何とかしたいとPK戦に臨んで止められて良かった』

本人は謙遜しているが、熊倉選手がいる安心感や安定したプレーを見せていなければ90分で負けていても不思議ではなかった。
彼の存在があったからこそ逆転まではいかなかった。

試合後の帝京長岡川上選手のコメントより。

『自分たちの実力不足で負けてしまった印象です』

決して帝京長岡の力が劣っていたとは思わない。
特に川上選手の存在は90分の試合の中で見れば最も輝いていたと思う。
昨年度の大会でも出場しており、エースナンバーの14を背負い、キャプテンとして再び埼玉スタジアムまでチームを導いたことは見事であった。

試合後の熊倉選手のコメントより。

『本当に中学の時、最後決勝で自分がやらかしてしまって準優勝。悔しい思いをしているので、山梨に全国優勝をするために来たので、最後自分の最大限のプレーをして『自分のおかげで勝てた』と言ってもらえるようにしていけたらなと思います』

頂点まであと一つ。
間違いなく熊倉選手の活躍が無ければここまで来られていなかった。
決勝戦での活躍も期待したい。

帝京長岡の川上選手が劣勢の帝京長岡を立て直したが、最後は山梨学院の熊倉選手が試合を決めた。
両チームのキャプテンの執念が試合を面白くした。

3.あとがき

またも素晴らしい試合となった。
どちらも決勝進出に値するチームであった。
山梨学院としては初出場初優勝を達成した88大会以来11年ぶりの決勝戦となる。
インターハイ含め、3度目の日本一へあと一つ。
決勝の相手は11年前と同じ青森山田となった。
帝京長岡は2年続けて準決勝での敗退。
新潟県勢悲願の決勝はまたもならず。
下級生が多く、長岡JYFCからも優れた選手はたくさん入学してくるだろう。
素晴らしいサッカーであった。
全国の頂点に立つ日もそう遠く無いのではないかと思う。
今後も帝京長岡の活躍に注目していきたい。

MOM 熊倉匠
チーム全員で戦うのが山梨学院のサッカー。
その中でPK戦だけは個の力が大きく影響を及ぼす。
止めた2本は共に素晴らしいPKストップであった。
川上選手には試合中に一度PKを決められており、鉾選手のPKは2−0から山梨学院が2本止められ、決められれば追いつかれる上に流れは完全に帝京長岡となるような場面でのPKストップ。
90分での活躍も見せたが、この2本のPKストップは90分の出来関係なく、MOMに値する活躍であった。

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