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スターズオンアースの規制薬物違反の一報について

どうも初めまして、獣医学部落単王で名を馳せている(?)さかくーでございます
今回が初めてのnoteなので、いろいろ不慣れではありますが、どうか温かい目で見ていただけると嬉しいです。

さて、今回の話題ですが、私の愛馬であり私を競馬界に引き込んでくれたきっかけであるスターズオンアースから、有馬記念後に規制薬物である「フルニキシン」が検出され管理する調教師に過怠金10万円が科されたというニュースが流れました。
最近だとディープインパクトが凱旋門賞で禁止薬物検出による失格処分が記憶に新しく、「ドーピングか?」という疑う人も少なくなかったと思います。
というわけで今回は、具体的に何が問題なのか、そしてどうして失格や降着ではなく過怠金止まりだったのか、そして今後への影響について書いていきたいと思います。

1.まず、フルニキシンってなんや?

フルニキシンはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の1つで、疝痛やエンドトキシン(内毒素)の症状に対してよく使われ、他にも細菌性肺炎や角膜潰瘍に対しても有効、 手術後の疼痛管理でも使用されるお薬です。

…と難しいことを書きましたが、要するに「ウマの臨床で最も大切な薬剤の1つ」であり、現場で治療薬として広く使われております。
そんな薬がドーピング、つまり競走能力に影響するような薬であるわけがありません。ただそういう薬を使ったということは、「病気やけがなど、馬の健康に何らかの異変があった」ということを示しています。

2.規制薬物って何?禁止薬物じゃないの?

規制薬物とは、「馬の福祉及び事故防止の観点から使用を規制する薬品または薬剤」のことで、「影響下にある馬を出馬投票し、又は規制薬物の影響下にある馬を競走に出走させてはならない」と「日本中央競馬会の競馬施行規約」(競馬法ではない)にあります。
簡単に言うと、「規制薬物が体に入ってる馬をレースに出させないでね」ってことで、競馬法に基づいて規程され、違反すると犯罪として処罰される「禁止薬物」とは別物です。
禁止薬物はざっくり言えば競走能力に影響するもので、アナボリックステロイドや興奮剤、鎮静剤が含まれております。
鎮静剤は競走能力を「減退させる」という理由で禁止薬物にしているものが多いです。またアナボリックステロイドは「筋肉増強剤」として、人ではボディビルダーがムッキムキにするために使用することでも知られているのではないでしょうか。

一方、規制薬物には治療薬として使用されているものが多く、前のチャプターでも述べた通り、立ち位置としては「競走能力に影響することはないけど、使ったということは何か体に異変があったってことだから、薬が抜けて体が万全な状態になってからレースに戻ってきてね、レースで何かあるとまずいから」ということだと思います。
ちなみに、禁止薬物や規制薬物として具体的に何が指定されているかは日本中央競馬会(JRA)の競馬施行規約に書かれていますので、気になった人は下のリンクをご覧ください!
https://company.jra.jp/0000/law/law08/law08.pdf

3.違反したらどーなるの

禁止薬物は「競馬法」という法律に基づいて設定されております。したがってこれを使ってレースに出走させてしまうと中央、地方関係なく犯罪として国から処罰されます(ちなみに競馬の禁止薬物違反が法で取り締まられるのは日本だけです)。
一方で規制薬物については法で取り締まられているのではなくJRAが独自に規定しているもので、違反した際は「裁決委員は」「必要な措置を執ることができる」とあります。 つまり裁決委員の裁量によって処罰が決定されるということですね。今回の「過怠金10万」という処分も、裁決委員によって決定されたものと考えられます。
ではなぜ失格や降着とならなかったのか。先に述べた通り、フルニキシンは疝痛に対してむちゃくちゃ強いだけでなく幅広い疾患に使えるため、ウマ臨床の現場では広く流通しています。もちろんJRAも例外ではなく、それだけ信頼されている薬である…そんな薬が「馬の競走能力に影響しちゃうわる~いクスリ」

…なわけないですよね
おそらく裁決委員は
「馬の競走能力を高めたりはしないからレースの着順は別にそのままでいいとして…でもそんな薬使うような状態で出走させたのまずいよね。レースで何事もなかったからよかったけど。今後はこんなことにならないようにもっと厳重に管理しなさい(怒)」
と考えた結果の処罰だったんでしょうね。(※これは完全に私の妄想です)

4.海外遠征への影響は?

これが個人的に一番問題だと思ってるところです。
というのも、「禁止薬物」「規制薬物」のくくりはJRA独自のものであり、では海外ではどうなのかというと、動物愛護に厳しい(厳しすぎる?)面もあって、「禁止」薬物(=違反時には失格)がかなりたくさん指定されています…
特に欧州や香港、ドバイでは「パリ協約」と呼ばれる国際的な条約に基づいてかなり厳しく制限が設けられております。日本もこれを無視しているわけではないのですが、そこからさらに独自に、科学的根拠に基づいて種類分けをしているという形をとっています。
しかし裏を返せば(?)、日本での「規制薬物」も海外では「禁止薬物」や「検出されたら失格の薬物」として指定されているということであり、もし遠征先で同じようなことがあったら、レースで頑張っていい成績残しても「失格」という非常に残念な結果になってしまいます…。

実はディープインパクトにも似たようなことが起こっていました。
凱旋門賞の時問題になったのはイプラトロピウムという薬剤で、こちらは呼吸器疾患の治療薬として使われるものです。当時日本では禁止薬物はおろか規制薬物にすら指定されていませんでした。しかし海外(フランス)では禁止薬物に指定されており、レース後の検査で検出されてしまった結果、本番で3着と大健闘したのに失格となってしまいました。
「現地で治療薬として使用していたが、治療中にディープが暴れた際に寝藁などの周囲に飛散してしまい、こうして残った薬がそれが体内に入ってしまった」とされていますが…いずれにせよあまりにも残念な結果であり、それだけでなく「凱旋門賞史上、初の薬物による失格」として、日本を代表する名馬の名誉に傷をつけることになってしまいました。
ちなみにイプラトロピウムはその後、一時期日本で禁止薬物に指定されましたが、今では規制薬物として規程に記載されています。おそらく「競走能力に影響するものではない」という確認が取れたからなのでしょうね。

5.結局、何が問題なの?

ここからは自分の思うところを言っていきます。

厩舎サイドには、全力でこの問題に対して取り組んでほしいと思っています
どうしてこうなったのか、そしてどういう対策をとっていくのか、 しっかりと再発防止に努めてほしいと願っています。
日本ではそこまで重大な違反ではないですし、だから失格や降着ではなく「過怠金10万」の処分に留まっているのだと思います。でも、海外ではそうはいきません。
禁止薬物が検出されたという理由で、本当は競走能力には影響ないはずなのに「失格」なんて見たくないじゃないですか。
ディープインパクトで終わりにしたいじゃないですか。そんな悲劇。

 「知らなかった」「間違えちゃった」では済まされません。
あとで後悔しても、もう遅いのです。

さらに、スターズオンアースが所属している社台TCさんは「投与記録がなく、どうして検出されたかわからない(https://x.com/netkeiba/status/1758033008727347266?s=20より引用)」とコメントしていますが、それなら尚更、徹底的に原因を洗い出す必要があると思います 。
「誰が悪い」とか、「誰の責任」の問題ではなく、チームとして、総力を上げて二度とこういう事態は起こらないようにしてほしいと思います。
クラシック期には両脚の骨折、そして天皇賞(秋)前に挫跖で回避、有馬記念では疲れからかはわかりませんがレース中に内側にヨレてラチに接触するというアクシデントもありました。実力はとんでもないですが、体そのものはそんなに強くないのでしょう。
これから初の海外遠征。リバティアイランドやジャスティンパレス、海外からはオーギュストロダンと強敵ぞろいのレースに挑むうえ、さらに弱い体、遠征による疲労、慣れない環境と不安な点もいっぱいあります。
でも、本来の実力を出せれば、そういった難敵を跳ね返せる実力を持っているのは確かです。だからこそ、陣営には今回の不祥事含め、そういった点を跳ね返してもらって、スターズオンアースを「日本代表」として、万全な状態で胸を張ってレースに送り出してほしいです。
高柳調教師も牝馬二冠、複勝率100%(2024/2/16現在)、そして2022年度最優秀3歳牝馬の名牝を育て上げている立派なJRAの調教師です。二度とこのような失態は犯さないと、私は信じています。

そしてなんてったって、私が最初に惚れ、私の人生を変えた馬ですからね。
応援しますよ、最後まで。
がんばれ、スターズオンアース!
次こそ念願の勝利を!!


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