【詳細解説】青汁王子こと三崎優太氏VS.日刊ゲンダイ裁判【ほぼ全文】

当記事の読み方の説明

このようなグレー背景の枠内は基本的に判決文の原文に基づき、原文の意味を損なわないように、おおよそ改変していない文章である。

(=このグレー枠外の括弧内説明は、筆者がグレー枠内の文章を更に端的に要約し、読みやすく改変し、場合によっては私見含む解説を付け足したものである)

経緯を含めた浅く広い概要は前回記事参照

 

令和2年(ワ) 第24162号 損害賠償等請求事件
東京地裁一審判決
令和4年7月14日

原告・ 三崎優太
被告・㈱日刊現代・代表取締役T&記者Y
裁判長・金澤秀樹

【主文】
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。

【事案の概要のまとめ】
 原告が、日刊現代が発行する紙面及びウェブサイトにて原告を名誉毀損する記事が掲載されたとして、被告会社の従業員の被告記者Yを共同不法行為に基づき、被告会社代表Tに対して共同不法行為及び使用者責任、会社法350条に基づき、連帯して1540万円及び遅延損害金を求め、名誉回復措置等として、被告会社及び記者Yに対して謝罪広告掲載を、被告会社に対して各記事の削除を求めた事案である。

【前提事実と訴えた経緯のまとめ】

原告は事業家であり、株式会社メディアハーツ(現在は株式会社ファビウス)を設立し、代表取締役であり、氏名又は通称である「青汁王子」にてツイッターのアカウントを開設し、情報発信活動を行っている。

被告会社は日刊雑誌「日刊ゲンダイ」を発行する会社であり、ウェブサイト「日刊ゲンダイDIGITAL」を管理運営している。

(略)

被告会社は日刊ゲンダイ及びウェブサイトに本件記事を掲載。本文で「反社とも関係があり、ライバル企業への嫌がらせのために右翼団体の街宣車を使うなどしていたことがわかりました」「だが、その“素顔”は青汁よりもはるかにマズい。」と記載し、原告がライバル企業への嫌がらせのために右翼団体の街宣車を使うなどしており、反社会的勢力と関係があるとの事実を摘示する内容の本件記事を掲載した。
(略)

以上が判決文記載の事案及び理由のまとめである。

【日刊ゲンダイの主張と争点】

※三崎氏の反社との関係を指摘する日刊ゲンダイ掲載記事(仮に「反社記事」と呼ぶ)
『ド派手実業家「青汁王子」のマズイ素顔…反社との関係発覚』
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/278063

☆重要ポイント「違法性阻却事由を主張する日刊ゲンダイ」
 公共性・公益目的・真実性または真実相当性が揃っていれば、日刊ゲンダイの反社記事は違法性が阻却される(=原告が敗訴し、被告が勝訴する)
 被告は、本件記事は有名人で会社経営する人物の犯罪になりかねない行為なので、市民の知る権利のために報道した、と主張した。よって、公共性と公益目的はあまり争いがない。
 今回、特に重要なのは真実性または真実相当性である。書いた記事が真実であると立証(街宣車を送った)、または真実であることは立証できなくても、真実と信じられるだけの根拠があって判断したことを立証(街宣車を送ったようにしか見えなかった)できれば、本件記事は違法ではないと判断される。各事由を述べ、日刊ゲンダイは記事に違法性がないことを主張していく。

(「違法性阻却事由」についてのより詳細な解説は以下ページなどを参照)
https://www.shinginza.com/db/01976.html#:~:text=%E3%81%9D%E3%81%97%E3%81%A6%EF%BC%8C%E2%91%A2%E5%90%8D%E8%AA%89%E6%A3%84%E6%90%8D%E3%81%A8,%E3%81%AE%EF%BC%92%E7%AC%AC%EF%BC%91%E9%A0%85%EF%BC%89%E3%80%82

①<日刊ゲンダイ「違法性はない」>

(真実性の裏付けについて)
 日刊ゲンダイは越山晃次から得た情報に基づき、動画の撮影の態様、投稿の態様、投稿者の属性等を緻密に分析し、街宣行為を行っている右翼団体が同一であること、原告及びメディアハーツと、株式会社C社及びその代表者Kc氏との間の和解契約書が存在し、それには原告及びメディアハーツが街宣車をC社に押し掛けさせた胸の記載があること等の事情を総合的に考慮し、原告が街宣車を押し掛けさせた、すなわち、原告が反社会的勢力との関係があるという自ら確信した事実のみを報じたものであり、本件記事の内容は真実である。

(=本件記事は真実である、という主張)

(真実相当性)
 これに加え、本件記事の掲載より前に、新潮社の記事において、原告が反社会的勢力と関係がある事実を否定している内容の記事が掲載されており、日刊ゲンダイが取材を行う必要がないと判断される状況にあった事情も考えれば、少なくとも真実と真実に足りる理由がある。

(=真実性が認められなかったとしても、真実と信じるに足る理由の真実相当性があった、という主張)

(公共性・公益目的)
 原告が反社会的勢力と関わりがあること、騒音などにより近隣に多大な迷惑を与える街宣車を送り込んだことは、市民が原告についてより深く知るための有意義な情報であるから、本件記事の内容は公共の利害に関する事実であり、被告らは、市民の知る権利に奉仕するという公益を図る目的で本件記事を掲載した。

(=公共性があり公益目的である、という主張)

(結論)
よって、本件記事を掲載したことは違法性がないか、故意または過失がない。

(=違法性阻却事由の「真実性または真実相当性」・「公共性」・「公益目的」が揃っているので名誉毀損にあたらない、という主張)

②<日刊ゲンダイ「街宣車事案について」>

(街宣車事案1について)
 メディアハーツはC社と激しい競争関係にあり、原告は、C社に強い敵対心を有していた。
 また2016年7月20日頃、実際に、C社に対し、△◇組系の金融機関と関係性のある、東京都内の右翼団体が街宣車を送って街宣活動を行う事案が発生したが、氏名不詳の人物が偶然を装ってその模様を撮影し、YouTubeに投稿している等、本件街宣車事案1は、C社の社会的評価を低下させる強い動機を有していた者又はその関係者によるものと強く推認される事情があった。
 さらに、原告及びメディアハーツと、C及びその代表Kc氏との間で、原告及びメディアハーツによるC社に対する迷惑行為に関し、C社及びKc氏が、原告及びメディアハーツの責任を一切問わないことを確約するとの内容を含む「和解契約書」が作成されているが、その中には、原告及びメディアハーツが行った行為として、街宣車をC社の入居するビル付近に押し掛けさせたことが記載されている。

(=街宣車がやってきた様子が偶然を装って撮影され、YouTubeに投稿された。C社に強い恨みを持つ人物がいるはず。C社との和解契約書を作成したメディアハーツか?と推認)

(街宣車事案2について)
 2015年4月頃、原告はKs氏が代表者を務めるS社との間でメディアハーツの支配権をめぐる紛争状態にあった。また、同月21日、福島県内にあるKsの自宅付近やその妻が関係する会社に、本件団体が街宣車を送って街宣活動を行う事案が発生したが、本件街宣車事案1と同様に、Ks氏ないしS社並びにその関係者の社会的評価を低下させる強い動機を有していた者又はその関係者によるものと強く推認される事情があった。

※補足→S社に来た街宣車動画もYouTubeにアップロードされた。撮影手法や字幕等、非常に似ていた。
※追加補足→日付について、2015年ではなく2017年の間違いだと思われる。

(=原告はメディアハーツ支配権でKs氏と争っていた。Ks氏のところにも街宣車がやってきた。)

(街宣車に関する越山証言)
 原告は、その知人である越山に対し、本件街宣車事案1及び2が原告の依頼に基づくものである旨を話した。
 越山は、被告Y記者からの取材に対し、上記内容や、これを客観的に裏付ける事情についても具体的に説明し、本件和解契約書の写しを交付した。

(=記事を書いたY記者の情報源は越山氏からの証言と証拠に基づく、という主張)

(取材の方法について)
 本件記事の掲載より前に新潮社が発行した週刊誌「週刊新潮」において、原告が反社会的勢力と関係がある事実を否定している内容の記事が掲載されており、被告らが取材を行う必要がないと判断される状況があった。

(=三崎氏や右翼団体、各社などには取材していないが、新潮社が同じネタで先に記事を掲載していて三崎氏への取材も含まれるため、更に取材する必要はないと判断した。もし日刊ゲンダイの記事の真実性が認められなくても、取材してないとはいえ取材に相当する事情があったので、真実相当性はあったと主張するため、こうした主張をしている。)

以上が被告の日刊ゲンダイ側の主張の要約である。

【三崎氏の主張と争点】

☆重要ポイント「違法性阻却事由を崩す」
 三崎氏が日刊ゲンダイの「真実である、または真実と信じる根拠の存在=真実相当性があるから違法ではない」との主張へ反論。まず真実ではないし、真実と信じても仕方がないような理由もなかったのだから、日刊ゲンダイに違法性阻却事由はなく、記事は違法であるという反論。

①<三崎氏「違法性阻却事由なし」>

(反社会的勢力について)
 原告は反社会的勢力との関わり合いがなく、右翼団体に街宣活動を依頼した事実はない。原告がそのような依頼をしたとの話を越山氏に伝えたとの事実もない。右翼団体は政治団体であり、反社会的勢力に該当しないし、被告らがいう△◇組系の金融機関は存在しないものであり、右翼団体が反社会的勢力という事情はない。

(=三崎氏は反社らしきものとの関係はまったくないのだから、記事で「反社との関係」と記載されるのは真実性も真実相当性もないから違法である、という主張。)

(C社との関係性について)
 街宣車事案1の当時、原告とC社は紛争状態になかった。また本件和解契約書は、原告が、専ら国税局からの追及を免れるために、C社と通謀して作成したものであって、真実と異なる内容のものであった。

(=C社と争っていないので街宣車を送る動機はなかったし、和解契約書は捏造したもので、架空である、という主張)

(街宣車事案1・2の動画について)
 本件街宣車事案1及び2についての動画が存在することは、原告が右翼団体に要請したと推認する理由となるものではない。また、越山氏の説明は不自然な内容であり、客観的裏付けもないものであること、越山氏は原告と係争中の人物であり、その説明の信用性は慎重に判断すべき状況にあった。

(=動画から三崎氏側が右翼団体に依頼したとは推認できないし、また係争中の越山氏の発言をうのみにするべきでないから、日刊ゲンダイには真実相当性もない、という主張)

②<三崎氏「見解記事で更に名誉毀損」>

※見解記事とは、反社記事に続いて掲載された記事を指す。
『“青汁王子”こと三崎優太氏のYouTubeでの主張に対する弊社の見解』
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/info/278876

(見解記事の違法性)
 本件見解記事は、意見の表明ではなく、本件記事の内容が正しい、すなわち、原告が反社会的勢力と関係を有するとの事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させるものである。
 また、上記の事実を摘示する本件見解記事の掲載が、必要かつ相当な反論ということはできない。

(=反社記事に続いて更に名誉毀損にあたる見解記事が掲載されたが、これにも違法性阻却自由はない)

【その他細かな主張と争点】

 判決文記載の本筋ではない部分について、一部省略し、簡単にだけ紹介する。

①上の【三崎氏主張と争点①】に対して、日刊ゲンダイ側は「見解記事も違法性はない」と反論。

②被告代表T氏の善管注意義務違反について、原告は義務があったと主張し、被告は任務懈怠ないし善管注意義務もないと主張。

③原告が反社記事のせいで賃貸物件の取引を打ち切られるなどの不利益を被り、更に見解記事で社会的評価を一層低下させたため、慰謝料1400万円が相当と主張。被告は争うと主張。

④原告は記事の削除は不可欠であり、名誉回復のためには謝罪広告が必要と主張。被告は争うと主張。


【裁判所の見解 ①主張の整理】

 裁判所はまず原告と被告の両者が証拠を出し合って主張していること(以下、主張の整理(1)~(12))を整理し、それからそれら主張の整合性や合理性を判断し、証拠として採用した主張を並べて法律に照らしてどのように判断するか(以下、争点(1)~(3))を検証していく。
 特に本件について裁判所は、街宣車事案の真実性または真実相当性を重要視している。要するに裁判所は「原告の三崎優太氏が街宣車を押しかけさせたか否か」で、「押しかけさせたor押しかけさせたと考えることも妥当」ならば真実性または真実相当性があるため名誉毀損にあたらず原告敗訴(=請求棄却)、「押しかけさせていなさそう」ならば真実性または真実相当性がないため、名誉毀損にあたるため原告勝訴(=被告は賠償金〇〇万円)、という判断を行う構図である。

(1)「原告の当時の周辺事情」

 メディアハーツは、2014年頃から、「すっきりフルーツ青汁」との名称の商品の販売し、代表の三崎氏は青汁王子と通称されるようになった。
 また原告は、同年頃、アスクレピオス製薬株式会社の経営者であった越山と知り合い、2016年8月、越山から、アスクレビオスの株式の60%を譲り受け、同社の株主となった。
 C社は、2015年4月頃、上記商品と同様の商品の販売を開始し、2016年当時、原告の商品とC社の商品は市場で競合する状態であった。

※補足→三崎氏のメディアハーツは「すっきりフルーツ青汁」という商品名に対して、C社は「めっちゃたっぷり フルーツ青汁」という商品名のよく似た商品を販売し、三崎氏の独占状態だった青汁通販市場を崩しにかかっていた。

(=2016年8月、越山氏のアスクレピオス社のオーナーになった三崎氏は、当時メディアハーツのライバル企業C社の商品に市場のシェアを一部食われていた)

(2)「C社の街宣車事案1と妨害工作」

 2016年7月20日頃、C社の所在する建物の前に街宣車が停車し、街宣を行った(街宣車事案1)。この街宣活動は3日間行われた。
 その頃、本件街宣事案1の様子を提影した動画が、匿名アカウントによってYouTubeに投稿された。動画は、撮影者が偶然、街宣車に出くわしたかのような印象を与えるものであるが、C社前に侵入してくる様子を定点から待ち構えるように撮影していることや、街宣行為の内容を字幕で書き起こし、C社の商品画像を差し込むなどしている映像である。またこの匿名アカウントは他に動画を何も投稿しておらず、街宣車動画が唯一であった。
 その頃C社は、街宣行為以外にも、C社の管理するドメインでスパムメールが送られる、C社のinfoメールを多数の情報サイトにメールマガジン登録して大量のメールマガジンがC社のサイトに送付される、なりすましメールが送られる、C社のサーバーが攻撃を受けてダウンするなどの彼害を受けてた。C社は、これらの妨害行為について警祭に相談したが、実行行為者を特定できなかった。

(=C社は街宣車の妨害を受け、その様子を撮影し、C社が街宣車から狙われるような企業であるという事実を拡散しようとしているような動画がYouTubeにアップロードされた。またスパムメール等のサイバー攻撃の被害を受けていた。これらの妨害工作について警察に相談したが、警察は犯人を特定できなかった。)

(3)「越山証言、街宣車事案1」

 原告は、2016年8月6日、越山に電話をかけて「C社に街宣車を送り込んだ、『C社 街宣車』で検索すれば見られる」などと話した。越山は、原告から聞いた方法で検索したところ、街宣車事案1の動画の存在を確認することができた。

(=越山は三崎氏から街宣車について自慢され、実際に言われた通りの方法で街宣車の動画を見つけることができた、と主張している。原告は全面否定。)

(4)「S社について」

 原告とS社は、2016年9月27日頃、原告の保有するメディアハーツの株式に係る条件付きの譲渡契約を締結したが、同年12月上旬頃までに同契約及びメディアハーツの支配権をめぐって紛争状態になった。

(=街宣車事案2の被害者、S社と原告はメディアハーツ社の経営権で争っていた。なお、越山氏はメディアハーツ社の事情までは把握してなかったと主張している。)

(5)「S社で発生した街宣車事案2」

 2017年4月21日頃、S社代表のKs氏の自宅付近やその妻が関係する会社に対する街宣行為が行われた(街宣車事案2)。その頃、匿名アカウントによりこの街宣車事案2の様子を撮影した動画が、YouTubeに投稿された。本件動画2は、本件右翼団体の街宣車が茨城県内から福島県内に向かって移動し、上記の場所で街宣活動を行う様子が撮影されており、街宣車が来る先で待ち受けて撮影していることや、街宣行為の内容を動画内に字幕で書き起こしているなど、本件の街宣車事案1と類似する動画となっている。またこの匿名アカウントも同様に、この動画以外には何も投稿していない。
 原告は、その頃、越山に対し、「Ks氏とトラブルになり、Ksの下に街宣車を送り込んだ。『(Ks氏の会社名) 街宣車』で検索すれば見られる」などと話した。越山は、原告から聞いた方法で検索したところ、街宣車の動画を確認することができた。

(=越山氏は三崎氏からまた街宣車について自慢され、実際に言われた通りの方法で、また街宣車の動画を見つけることができた、と主張している。原告は全面否定。)

(6)「原告、C社への恨み」

 原告は、2017年2月頃、メディアハーツの関係者に対し、「どうでもいいけど、とにかくどんな手段を使ってもC社に地獄を味あわせたい!」、「どこまでもやるしかないねくそC社」、「くそC社は我々を甘くみているようです身の程わからせてやりましょう」、「これでもかってくらい正当化して、立場も正当化して、それでえげつないやり方でC社を殺したいです」、「C社は叩き潰すしかないね、ほんとうにより一層、排除していきたい」などとC社に対する感情を吐露し、これに打撃を与えたい旨を伝えていた。また、原告は、2019年9月頃、日本ネット経済新聞のインタビューにおいて、「すっきりフルーツ青汁」について、類似商品が多く出回ったことが失敗であったなどと述べた。

(=被告は、原告はC社を恨んでいた証拠があり動機があった、と主張している。原告は険悪ではなかったと反論している。)

(7)「和解契約書」

 原告は、メディアハーツの確定申告に際し、架空の外注費を計上して脱税を図ったとして、2018年1月頃税務当局から調査を受けた。
 原告は、税務当局の調査に対し、ステルスマーケティングやスパムメールの送信、街宣車による営業妨害等の工作を外部業者に委託して外注費を支払ったなどと説明していた。原告は、同年5月、成川弘樹弁護士らに依頼して本件和解契約書の文案を作成してもらい、C社及び代表Kc氏との間で、原告及びメディアハーツが、C社の業務上の信用を低下させるためにステルスマーケティングを行ったこと、C社に成りすましたメールアカウントを作成してスパムメールを送信したこと、街宣車をC社の入居するピル付近に押しかけさせたこと(ただし、原告自身は、当街宣車の所属等を一切覚知していない。)、その他、C社らの業務上の信用を低下させるために種々の不正な行為を行ったこと等を認め、これらの行為についての責任をC社及び、代表Kc氏が一切問わないことなどを内容とする、本件和解契約書を作成し、税務署に提出した。その際、原告は、C社のオーナーであるTなる人物と面会したが、T氏に対し、本件和解契約書は税務調査の関係で締結する旨を明確には伝えなかった。また、Kc氏は、仲介者から、原告が謝って和解したいとの意向を持っていることを聞き、既に終わったことと考えていたので積極的に和解をする意向はなかったが、仲介者の顔を立てて和解に応じることにした。
 また、原告は、同年の2018年6月頃、税務調査の件で齋藤健一郎弁護士に相談した際、メディアハーツから複数の会社に流れている資金は、ステルスマーケティングやスパムメールの送信、街宣車による営業妨害等の競合会社に対する様々な妨害工作をしてもらうための費用であると説明した。
 その後、原告は、2019年2月12日の前頃、齋藤弁護士に対し、従前の説明と異なり、実際には工作を委託した事実はなく、計上した外注費は架空であり、本人和解約書は実態と異なる旨の説明をするに至った。
 その後、原告は、法人税法違反の事実で逮捕・起訴され、2019年9月5
日、執行猶予付きの有罪判決を受けた。

※補足→和解契約書では街宣車について「(ただし、原告自身は、当街宣車の所属等を一切覚知していない。)」と注意書きが付されているが、これは要するに「三崎氏は仲介者に依頼したので、三崎氏自身はどこの右翼団体が車を出したかまでは把握していない」という意味かと思われる。

(=原告は弁護士に依頼してC社と和解契約書を結んだ。内容は街宣車とその他妨害工作を認めるものだった。税務署にこの和解契約書を提出したが、C社のもう一人のオーナーT氏には脱税逃れのためとは言わなかった。その後、税務調査で和解契約書の「表に出せない経費」を言い訳に「架空の経費をそのままポケットに入れたのではない、領収書を出せない経費だった」と言い逃れようとした。しかし最終的には「言い逃れしようとしただけで、和解契約書は架空の事件、C社Kc氏と協力して捏造したもの」と主張を変更、そのまま執行猶予判決へ。……などと、原告は主張している。)

(8)「原告と越山の関係」

 越山は、原告が逮捕されて以降、それによってアスクレピオスの経営に影響が生じるのを嫌って原告を同社の経営から排除しようとして原告との関係が悪化し、2019年頃以降はアスクレピオスの株主権等を巡って原告と紛争となり、東京地方裁判所に対し、アスクレピオスの株主総会おける原告の議決権行使を禁止する旨の仮処分命令を申し立てるなどした。(ただし仮処分では越山敗訴:令和2年(ヨ)第20033号 2020年4月3日判決)
 越山は、2020年1月10日、C社のKc氏と面会し、街宣活動を含む妨害行為を受けた旨の説明を受け、本件和解契約書のコピーを渡された。
 越山は、上記議決権行使禁止の仮処分命令申立ての裁判において、原告が街宣車を送り出すなどの反社会的行為を行った人物である旨を主張した。

(=原告と被告に情報提供した越山はアスクレピオス社の株主権等をめぐって係争中である。原告は、この点から越山証言の信ぴょう性を批判している。なお越山氏とKc氏の間で、和解契約書と引き換えに金銭含むやりとりを行う合意書が作成されている。)

(9)「被告Y記者の取材方法」

 被告Y記者は、2020年7月8日、原告が他者との訴訟を抱えている旨の情報を得て、同年8月、越山に対して取材を行った。
 越山は、被告Y記者に対し、原告との関係性や裁判の状況、原告から街宣車を押し掛けさせたと電話で聞いたこと、原告が本件街宣車事案1及び本件街宣車事案2を依頼した暴力団組織及びこれに所属する人物名を話したほか、原告から聞いた方法で街宣車動画を確認できること等を説明し、また、本件和解契約書の写し等の資料を渡した。
 被告Y記者は、越山から得た情報や資料のほか、これに関係すると思われる詳般の事情を検討した結果、原告の依頼の結果、本件右翼団体によって本件街宣車事案1及び本件街宣車事案2が行われたものであり、原告は反社会的勢力と関係があると判断した。また、被告Y記者は、原告が暴力団関係者に依頼した事実についてさらに取材活動を行ったが、裏付けを得ることができなかった。
 他方、被告Y記者は、原告、C社、S社代表Ks氏、本件右翼団体及びその関係者に対し、特に取材の申入れを行わなかった。

(=日刊ゲンダイのY記者は、越山氏の提出した証言証拠等によってのみ記事を書いた。なおこれは日刊ゲンダイが仮に真実性を立証できなかった場合、真実相当性を争うために必要な論点。真実性が立証できていれば、取材方法は問われない。)

(10)「新潮社記事」
 2020年8月27日、新潮社が原告に「街宣車を送り込むなどの反社会的行為を行ったかどうか」について取材を行ったところ、原告がこれを否定したという内容の新潮社記事が公表された。

(=日刊ゲンダイより前に新潮社が取材し、その結果を記事で公表していた。なおこれも、日刊ゲンダイが仮に真実性を立証できなかった場合、真実相当性を争うために必要な論点。日刊ゲンダイ自体は取材していないが、新潮社が取材していて、それを参照したのだから取材活動したようなもの、よって、真実相当性は認められるべきという主張に影響。)

(11)「日刊ゲンダイのチェック体制」

 被告の日刊ゲンダイにおいては、部長が作成した記事を掲載するに当たり、担当のデスクが事実関係等を審査し、さらに、校閲部における事実関係を含めた審査を経る体制となっていた。
 被告会社は、上記体制の下、所定の審査を行い、本件新潮記事の公表から5日後の2020年9月1日、日刊ゲンダイ及び日刊ゲンダイDIGITALに本件記事を掲載した。

(=日刊ゲンダイは社内でしっかり精査して記事を出しているので、善管注意義務違反などはない、という主張。なおこれは被告Y記者の責任をどこまで問うべきか、という原告側の争点に影響。)

(12)「見解記事」

 原告は、本件記事の掲載後、被告会社や被告Y記者を非難する内容の動画を作成し、YouTubeに投稿した。これを受けて、被告会社は、日刊ゲンダイDIGITALに本件見解記事を掲載した。

(=青汁王子が自分のチャンネルで日刊ゲンダイのでっち上げ反社記事を非難し、それを受けて、日刊ゲンダイでは「反社記事は正当なものである」と見解記事を掲載した。なお原告はこれが更に名誉毀損だと主張し、被告は名誉毀損にあたらないと主張。)

【裁判所の見解 ②争点(1)】

a.「違法性阻却事由等の有無」

 本件記事は、原告が、ライバル企業への嫌がらせのために右翼団体の街宣車を使うなどしたもので、原告が反社会的勢力と関係があるとの事実を摘示するものである。このような内容は、原告の社会的評価を低下させるものであることが明らかである。
 もっとも、事実を摘示して他人の名誉を毀損する行為が民事上の不法行為に該当するか否かについては、その行為が公共の利害に関する事実に係り(公共性)、専ら公益を図る目的に出た場合において(公益目的)、摘示された事実が真実であることが証明されたとき(真実性)は、その行為には違法性がなく、不法行為が成立しないものと解するのが相当であり、仮に当該事実が真実であることが証明されなくても、その行為者において当該事実を真実と信じるについて相当の理由があるとき(真実相当性)には、当該行為には故意又は過失がなく、不法行為は成立しないと解するのが相当である。

(=つまり、反社記事は明らかに三崎氏の評価を低下させるが、もしこの記事に公共性・公益目的・真実性または真実相当性が揃っているならば名誉毀損にはあたらない、と裁判所の見解。)

【裁判所 ②争点(2)】

a.「和解契約書のリスク」

 本件和契約書は、原告が、税務当局の調査の対象となった後に、メディアハーツの支出が経費として実体を伴うものであることを示すための後付けの証拠として作成されたものであり、その作成の経緯からすれば、類型的に信用性の高い文書であるとはいえない。

(=原告が主張する「税務調査の言い訳のために作られた」という作成の経緯を考えれば、和解契約書の信憑性は高くない。)

 しかし、前記認定事実のとおり、本件街宣車事案1の当時、メディアハーツはその主力商品についてC社と競争関係にあり、原告もそのように認識していたこと、C社は、本件街宣車事案1以外にも、様々な業務妨害を現実に受けていたことからすると、原告及びメディアハーツが、C社の業務上の信用を低下させるためにステルスマーケティングを行ったこと、C社に成りすましたメールアカウントを作成してスパムメールを送信したこと、原告自身が当該街宣車の所属等を一切覚知していないとの留保付きで街宣車をC社の入居するビル付近に押しかけさせたこと等、C社らの業務上の信用を低下させるために種々の不正な行為を行ったことを認める内容の本件和解契約書を作成し、これを第三者である税務当局に提出する行為は、原告及びメディアハーツが、犯罪に問われかねないような自己の社会的評価を著しく低下させる行為を自認するものとして、極めてリスクの高い行為でもあるということができる。

(=①三崎氏とC社はライバル関係だった ②C社は実際に妨害工作を受けていた ③以上の状況証拠が揃っている事案で和解契約書を作成し、税務当局に提出するなんてリスクが高すぎる → 原告は怪しい)

 また、本件和解契約書の記載内容が実体とは全く異なる架空のものであれば、本件和解契約書の作成は証拠の偽造に該当する行為であり、リスクを伴う行為でもあるといえるが、そのような本件和解契約書の文書作成を弁護士に依頼したとの経過や、経費として支払ったことの後付けの資料として架空の文書を作成するのであれば、経費の支出により直接的に関係する文書を作成する方が合理的であって、本件和解約者を作成する必要は乏しいことからすると、本件和解契約書に書かれている事実関係については、裏付けとなる事実があるものと考える方が合理的であって、本件和解契約書が後付けの証拠として作成されたという経緯のみで、信用性が全くないものということができない。

(=①もし架空の事案なら証拠偽造でリスクあり ②弁護士が証拠偽造に加担するか? ③経費の資料なら領収書とかでもいいのになぜ回りくどいし危険な和解契約書なのか? → 原告は怪しい。和解契約書に記載の内容に実態があったものと考える方が合理的。脱税逃れのために作った、という原告の主張する経緯の説明だけでは、内容の信用性が全くないとはいえない。 )

 原告は、本人尋問と陳述書において、本件和解約書の内容を思いついた経緯として、ジャーナリストを名乗る人物から、シエルに対する妨害工作を原告又はメディアハーツが行ったと思われとのことで取材を受けたことがあることから、これを利用したとの趣旨を述べているが、本件和解契約書の作成が、上記のようにリスクの高い行為であることを踏まえると、上記原告の供述を容易に信用することはできない。

※補足→「2016年にC社で起きた街宣車事案1の犯人として元から疑われていてとあるジャーナリストから取材され、当時は否定したが、2018年5月に脱税調査から逃れられると思って当時の取材等を思い出し、架空経費として和解契約書をC社の協力を得て作成した」という主張が原告の陳述書に記載。

(=原告は思いついた経緯を説明するが、上記のように①状況証拠が揃っていて疑われているリスク ②弁護士監修で証拠捏造するリスク などを考えるとあまりにもリスクが高すぎるので合理的ではない。裁判所としては容易に原告を信用することはできない。)

b.「越山証言は信用できるかどうか」

 越山は、その尋問において、街宣車事案1及び街宣車事案2のいずれについても、原告が街宣車を送り込んだと聞き、特定のキーワードでインターネットで検索をすればその動画を確認できると教えられた旨を供述し、また、前記の整理した主張のとおり、越山は被告Y記者にも同様の説明をしており、越山の供述は一貫したものということができる。

(=越山氏は被告Y記者への説明でも尋問でも主張は一貫している。)

 そして、前記認定事実のとおり、街宣車事案2の当時、原告とS社Ks氏はメディアハーツの支配権をめぐって紛争状態にあったこと、街宣車事案1と街宣車事案2の行為者は同じ団体であること、それぞれの街宣行為を撮影した動画は、いずれも偶然に撮影されたものである風を装いながら、街宣行為が行われる場所で不自然に待ち構えられているなど、街宣行為を行う者と示し合わせて撮影され、特定の目的をもってインターネット上にアップされたものと認められる。

(=街宣車事案は2つとも同一の右翼団体で、それぞれ無関係の第三者が撮影したとは思えないような動画がアップロードされている。特定の目的の関係者が悪評を拡散するために行ったのではないか、と裁判所は判断。)

 越山は、アスクレピオスの経営に関しては原告と協力して経営を行うべき立場にあったものの、メディアハーツの経営には関わっていないものと考えられ、原告又はメディアハーツとの対立関係や、メディアハーツの経営権をめぐる原告とS社Ks氏との対立関係の詳細を知る立場にはないと考えられること、このような状況の中、越山がたまたま、インターネット上で、原告と利害が対立する開係にある相手方(C社及びS社Ks氏)に対して、同一の右翼団体が街宣活動を行っている動画を発見することはおよそ考えられないことからすると、越山の上記供述は信用することができる。原告は、越山に本街宣車事案1及び本件街宣車事案2について話したことはない旨を供述するが、上記認定判断に照らし、採用できない。

(=越山氏はアスクレピオス社については把握していても、三崎氏の別の保有会社であるメディアハーツの紛争までは把握していない。それなのにたまたま見つけた街宣車動画2つが、2つともたまたま三崎氏との利害関係者であり、しかもよく見たら同じ街宣車だったなどと、偶然にしてはできすぎている。よって、原告は越山氏に街宣車の話をしたことがないと主張するが、それは採用しない。)

c.「原告と反社の繋がり」

 以上の認定判断及び前記の整理した主張を総合すれば、原告は、何らかの方法で、第三者に対し、C社及びS社Ksに対して街宣活動が行われるように依頼したこと、原告が、本件団体による街宣車事案1及び街宣車事案2について、上記依頼の結果と認識していたことがそれぞれ認められる。これらの事実からすれば、原告は、特定の相手方に対し、本件団体による街宣活動を実現するよう求めることが可能な人脈を有しており、原告が依頼した結果、街宣事案1及び街宣事案2が行われるに至ったということができる。

(=三崎氏は仲介者を通して街宣車を押し掛けさせた。そして自分の依頼で実現したことを把握している、と裁判所は判断。)

 また、原告の依頼内容は不正不当なものであり、威力業務妨害罪等に該当する可能性もあるところ、こうした依頼を受け、これを実現させる者は、反社会的集団の関係者であるなど、反社会的な存在であるということができる。原告は、本件右翼団体は政治団体であって反社会的勢力でない、反社会的勢力とは、暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人を指し、本件右翼団体が街宣行為を行って経済的利益を得た形跡がないことからしても反社会的勢力ではない旨を主張する。しかし、反社会的勢力との用語は法律上決まった定義があるものではなく、広く一般に用いられている用語であって、上記のとおり、第三者からの依頼を受けて、その第三者の利益を図るために街宣行為を行う団体について、反社会的勢力と表現することが不当であるということはできず、原告の主張は採用できない。
 これらによれば、本件記事の内容は、その重要部分において真実であると認められる。

(=三崎氏の依頼は犯罪的。犯罪的な依頼を受け実現させる者は、反社会的な存在である。ただの右翼団体ではない。金銭目的でないから反社ではない、などとは言えない。よって「三崎氏は反社と繋がりがあり、街宣車を押し掛けさせた」とする日刊ゲンダイの記事は重要部分において真実、と裁判所は判断。)

【裁判所の見解 ②争点(3)】

a.「違法性の判断」

 そして、上記のとおり、本件記事の内容は、メディアハーツの経営者であり、自らも知名度を有する原告が、メディアハーツの運営に関し、犯罪に該当する可能性がある行為をしたというものであり、公共の利害に関するものといえる。

(=実業家で有名人の三崎氏の犯罪になりえる行為に関する話題は、公共性がある。)

 そして、被告Y記者の話、及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、専ら公益を図る目的で本件記事を掲載したと認められる。

(=公益目的と認められる。)

 そうすると、被告会社が本件記事を掲載したことについて、違法性があるとは認められない。

したがって、被告会社が本件記事を掲載したことは不法行為を構成しない。

(=違法性阻却事由、公共性・公益目的・真実性、すべて条件を満たしているので、日刊ゲンダイの反社記事は違法ではない。)

【裁判所の見解 ③④争点】

重要でない部分なので省略する。

・「本件見解記事が原告の名誉を毀損するものとして違法であるか」
→見解記事はただの意見表明なので違法ではない。原告の主張は採用しない。

・「善管注意義務違反ではないか」「その他争点」
→上記のとおり、そもそも反社記事も見解記事も違法性がないので、善管注意義務違反はないし、その他の争点も判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。

【裁判所の見解 ⑤結論】

 よって、原告の請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第31部
裁判長裁判官・金澤秀樹
裁判官・俣木泰治
裁判官・若山哲朗

【質問コーナー】

※注意→以下は筆者と読者の間で交わされた一問一答式の質疑応答である。本件判決文とは直接的には関係なく、あくまで新潮社判決文と日刊ゲンダイ判決文を読み込み、いくつかの証拠資料を収集した筆者が独自に質問に対して私見を示す。よって誤りを含む場合、今後訂正される場合がある。また当事者にとっては見解の相違も含まれる場合がある。

Q.和解契約書の存在がなぜポイントだったの?

A.「唯一の直接的な証拠だから」

 週刊誌と越山氏が「三崎氏が街宣車を送った」ことを立証する直接的な物的証拠はこれが唯一であるため。他の証拠は、街宣車を撮影した動画、越山氏の証言、関係者の証言、などあくまで状況証拠に過ぎない。なので和解契約書が超重要。
 なお、本件裁判の結果とは無関係に、三崎氏は以前から「脱税は国策捜査だ、陰謀だ、悪質性はない」などと主張してきたが、これはいわば嘘だったと自ら認めたようなものではある。「証拠を捏造して国税庁を欺こうとした悪質な脱税事件だった」と自ら裁判で言ってしまっているので、そうなると証言の価値も低くなりそうな気がするが……。もちろん当然ながら、あの脱税で逮捕は妥当でしょうね、と私見。

Q.和解契約書の作成された経緯は?C社の主張は?

A.脱税逃れのためで間違いないが、経緯が複雑すぎる

 原告三崎氏側は「国税庁を騙すため架空の内容を捏造した」と主張し、被告側は「実際に街宣車を送って揉めて和解した内容」と主張。
 新潮社判決文では「捏造っぽい」、日刊ゲンダイ判決文では「経緯は怪しいしそこまで判断しないが、信用なくはない」と判断。つまり両判決とも脱税逃れのために作成した経緯は認めていて、その上で中身の信用性があるかで判断が別れている。
 またC社側登場人物は二人いる。一人は内容を本当と認めていて越山氏に売ったC社Kc氏。もう一人、C社オーナーのT氏がいる。
 ある日、Kc氏は急にやっぱり捏造だったと翻意。裁判では「陳述書」と「確認書」で念押しで架空の内容という主張を強調した。
 また、C社もサイバー攻撃の実行犯などは特定できていない。警察にも犯人は不明で話は通している。しかし越山氏とKc氏の会話録音データによれば「三崎氏がやったと思う、確証はないけど」という温度感がうかがえる。つまり、必ず三崎氏がやったというほどC社側は証拠をもっていなかったが、三崎氏から頼まれて和解契約書を作成するにあたり「やっぱりね、まぁもう過去のことだし、和解契約書を作ることでこっちにメリットあるなら和解ってことで書類にハンコ押すよ」という気持ちだったのかもしれない。逆に、本当に架空だけど何かしらの利益のために捏造の協力をしたのか、真意は裁判では不明。またオーナーT氏とKc氏の意志が同じとも限らない。もしかしたら越山氏と接触したKc氏は三崎氏をよく思ってなかったのかもしれないし、T氏は三崎氏と懇意だったからKc氏に指示を出して和解契約書を作成させたのかもしれないなど、様々なパターンは考えられるが真実は不明。
 新潮社判決文ではこのKc氏の翻意をそのまま受け入れ「和解相手のC社も架空の捏造と言ってる」という説を採用し、和解契約書は架空捏造説に傾く。日刊ゲンダイ判決文ではそもそもC社のごちゃごちゃした見解を採用していない。なぜなら日刊ゲンダイ判決文では「そもそもリスク高い架空の文書を捏造する合理性がない」と判断しているのであって、もしC社協力で架空の捏造をするにしても街宣車とは書くわけないだろ、と判断したのではないかと私見。つまり裁判所は、C社の意向は和解契約書に影響していない、と判断してそう。そもそもC社を「三崎氏や越山氏の説得で動く信用ならない証言者」と思っている可能性もある、と私見。
 あくまで個人的な仮説であるが、実際に三崎氏は街宣車は送っていて、後に脱税事件で調査され焦って相談した三崎氏相談役X氏が奇策「実際に三崎氏がやった妨害工作の件だったら、警察も特定できなかったわけだし、税務当局も裏取りできなそうだし、時効だし、弁護士に書類作らせても真実だから証拠偽造にならないし信用度も増すし、和解契約書って体裁で間接的に経費を証明すれば、あれ、これってもしかして完璧なんじゃね?」と非常にまわりくどい素人騙し的な脱税誤魔化しプランを思いつき、三崎氏は藁にもすがる思いでX氏のプランを実行、しかしまともな刑事弁護人の齋藤弁護士や税務当局と検察からはX氏の奇策の杜撰さを看破されて諦め、街宣車を自白するゲキヤバな書類だけが残って脱税も失敗、そこを越山氏が見逃さずC社に交渉して物的証拠として和解契約書を入手し会社の経営権争いに突入し、慌てた三崎氏はC社や新田龍氏と協力して和解契約書の信用性を崩す反対の証拠作りに励み、本件裁判に至ったのではないかなと思った。裁判所の判決の行間を埋めてストーリーに仕立てるとこのようになり得る、という個人的な感想であるが。(仮にdjaa仮説と呼ぶ)


Q.街宣車は誰が呼んだ?本人も認めている?

A.新潮社裁判「不明」 日刊ゲンダイ裁判「第三者の反社」

 和解契約書には「(三崎氏とメディアハーツ社が)街宣車を押しかけさせた」と記載。ただし「(なお、三崎氏は、街宣車の所属等を一切覚知していない)」という注意書きも記載されている。つまり和解契約書の内容だけでは、誰がどうやって送ったかまでは明らかではない。

 この依頼プロセスを補足する説明が越山証言であり、△◇組舎弟の反社会的勢力の仲介者がいたと主張。なので、三崎氏はあくまで仲介者に「なんか妨害しておいて」というような相談を行い、仲介者が右翼団体に「街宣車いってきて」と依頼したのかもしれない。このような依頼プロセスであれば、三崎氏はどこの右翼団体の街宣車かなどと所属を覚知せず押しかけさせることが可能であり、また街宣車についてよくわかってないけど迷惑かけてしまった依頼者としての責任として和解契約を結んだ、と解釈することは可能である。 だが判決では判断が分かれる。
 新潮社判決文では「和解契約書は架空の内容である可能性がある」「依頼プロセスは真実と認められない」、日刊ゲンダイ判決文では「和解契約書は経緯は怪しいが信憑性なしとは言えない」「越山証言は信用できるので、恐らく何かの仲介者に依頼し、街宣車を押し掛けさせた」と判断。
 なお、ここでまた注意すべきことは、日刊ゲンダイ判決文でも「△◇組の仲介者」までは事実認定しておらず、あくまで「何かしらの第三者」となっている。たしかに日刊ゲンダイ記事でも「反社とも関係」と、特定の暴力団の具体名は出していない。裁判所からすると仲介者の本当の所属が住●でも稲●でも●●連合でもどうでもいい話で、日刊ゲンダイ記事の違法性判断に関わってこないため、「何かしらの第三者」とぼかしたものと私見。
 対して新潮社記事は暴力団「△◇組」の具体名を記載。特定人物が特定の組に所属しているという事実を証明することは大変であり、実は新潮社は組の名前と人名を間違えてしまっていた(後に訂正)。つまり、新潮社の反社記事は街宣車依頼プロセスにおいて部分的に正しくない。(といっても△◇組か、または他の組か、などという細かな情報をどこまで裁判所が重要視したかは不明)
 この差が判決の差であるかもしれない、とも若干思わなくもないと私見。


Q.誰が何の目的で街宣車の動画をアップロードしたの?

A.新潮社裁判「不明」 日刊ゲンダイ裁判「依頼プロセスの関係者」

 新潮社判決文では判断していない。日刊ゲンダイ判決文では「いやがらせしていた人間の誰かが対象企業への風評被害を拡大させるために字幕を付けて見やすいカメラアングルでアップロードした」というように読めるような解釈が示されている。恐らく他に示唆されるスパムメール等と並び、「俺がC社に対してなりすましメール、サーバーへの攻撃、あと現地に街宣車送付して、更に街宣車から発せられる暴言の様子をアップロードして拡散してやる!」などと画策し実行した人間がいたのではないか、と判断されている、と私見。


Q.三崎優太氏にあった反社との人脈って具体的にどのようなもの?

A.判決文で採用されていないが、複数の証拠が提出されている。例えば△◇組など。

・越山氏の証言
・メッセージ履歴
・動画3つ

以上から、少なくとも暴力団の構成員、特殊詐欺グループ首謀者、薬物使用で逮捕された吉澤和真など、反社性を有する人物らといくらかの交際関係が複数回あったことにはほとんど疑いの余地はない。ただしどこの組であるかなどは完璧に特定できていなかった部分があり、実際に新潮社は部分的に間違っていたため、三崎氏側は「越山氏が証言する反社会的勢力は存在しない」などと当初は反論している。(後に訂正され、どこの組か判明したようである。)
 直接的に「三崎氏が反社の人物に街宣車を依頼した場面、文面、支払い契約書」など、一発アウトとなる証拠までは存在しないが、反社会的勢力に繋がることのできる「人脈」はあったのだろうと思われる。ただし、提出された証拠によって三崎氏の周辺事情は考慮された可能性はあるが、判決文においては明確に事実認定されてはいない。


Q.越山氏が街宣車の状況証拠を捏造した可能性もあるのでは?

A.ゼロではないが、その可能性は非常に低い。

 三崎氏側も、越山氏が証拠を捏造できた可能性から信憑性を崩そうとはしていない。ある意味、完全に空想ではあるが越山氏が街宣車を手配した人物であれば、当然ながら2つの街宣車事案について深く知り得、うまく三崎氏に疑いが向くようにしかけることも不可能ではないだろう。だがこれは空想でしかない。
 現実的に考えて、2016年、街宣車事案1の発生当時は越山氏と三崎氏は蜜月の時だった。またC社の青汁商品と競合する商品は三崎氏のメディアハーツには存在していても、越山氏のアスクレピオス社には存在しない。越山氏はC社と直接的な競合関係にない。
 また2017年、街宣車事案2の当時も同様に越山氏と三崎氏は蜜月の時期と言える。しかもメディアハーツ内部の経営権争いという公表もされていないような事情を、いくら三崎氏の近くにいたとはいえ別会社の越山氏が深い事情を把握し、忖度または罪をなすりつけるために三崎氏と敵対する人物にまで犯罪行為を行うとは考えづらい。
 威力業務妨害罪になりえる犯罪的行為を、2017年当時の経営者として順調だった越山氏が、独自に三崎氏の敵対者を攻撃するために実行する可能性はとても低いだろう。
 またC社との和解契約書についても、越山氏とC社Kc氏との間で引き渡しに関する録音データが証拠として提出されている上に、秘密保持を破って和解契約書を流出させたKc氏は処分されているとのことなので、経緯に関して個々の人物の法的また道義的な責任はありえるが、少なくとも越山氏が証拠を捏造できるような可能性はほとんどないだろう。
 仮にありえるとすれば、越山氏または周辺人物に街宣車情報マニアがいて、YouTubeの街宣車動画を収集していたらたまたま三崎氏と争っている2社でたまたま同じ街宣車がたまたま似たような撮影手法で動画を撮影し、たまたま匿名アカウントでアップロードしていることを発見し、この奇跡的偶然を活かして会社乗っ取りをしようとした、というストーリーを想定する必要がある。しかしこのような空想を認める人間はほとんどいないだろう。

Q.日刊ゲンダイは新潮社よりも取材方法がおかしいのになぜ勝てたのか?

A.取材方法は主に真実相当性の問題

 新潮社側また日刊ゲンダイ側の両被告側は、裁判上、体裁として「取材は適切に行った」ことを主張している。なぜならもし真実性を立証できれば当然勝訴するが、仮に立証できなかった場合、取材方法が適切であれば「真実相当性(=誤認相当性)」が認められ、真実かどうかはわからないが違法ではない、という勝ち方も狙えるため。そのため一般的には、実際問題は取材したところで大して情報を得られるわけではないとわかっていても、一応は何らかの取材をしたという体裁を主張しようとするものである。
 日刊ゲンダイは、三崎氏が疑惑を否定する主張を併記する新潮社記事を参照した上で、そこから何も取材せずとも今ある証拠資料だけで真実性を立証できると踏んで記事を掲載したのだろうと思われる。
 新潮社側は当初、三崎氏と越山氏の主張を両論併記したのでそもそも三崎氏の社会的評価が低下する内容ではなく、単に裁判の過程を紹介しただけであって名誉毀損にはあたらない、と主張していた。対して日刊ゲンダイ側は「社会的評価の低下」について特に争っている形跡がない。
 また新潮社側は真実相当性による勝ち筋も主張するために、取材方法についてもしっかり行った旨を主張している。(ただし判決では、全然足りないと判断された)。対して日刊ゲンダイ側はあまり熱心に真実相当性を主張するつもりはなかったようで、「新潮社の記事を読んだら新潮社が取材しているようだったので、改めて取材する必要はない」という旨を主張している。やや苦しい言い訳であるが、何も言わないよりは、という考えでとりあえず形式上だけの主張をしたのかもしれない。
 もっとも本件において日刊ゲンダイは、「真実相当性(=誤認相当性)」という言い訳をせず、真実性一本で立証することができたため勝訴した。言い切ると表現に問題はあるが「どのような取材方法を行ったか、という議論は、真実相当性による違法性阻却を狙う時にだけ意味がある」という風に本件ではわかりやすく考えていいかもしれない。そして恐らく新潮社裁判ではそもそも越山証言と和解契約書の評価が芳しくなかったため、まるで真実性の立証を認められておらず、仮に取材方法をより厳密に行ったとしても違法性阻却(=請求棄却)とはならなかった可能性がある。


Q.他裁判で三崎氏が勝訴しているのだから、総合的には勝ってるのでは?

A.裁判はそれぞれ別々に見るべき

 週刊誌と越山氏側が現在敗訴している訴訟は、議決権行使停止の仮処分、アスクレピオス社の経営権をめぐる訴訟、新潮社裁判などあるが、三崎氏の反社との関係、特に街宣車事案を中心とした裁判は新潮社裁判と日刊ゲンダイ裁判だけである。他はアスクレピオス社の会社の資産や権限なども含まれる更に複雑な事件であり、仮に三崎氏の反社との関係が立証できたとしてもそれだけで越山氏側が全体的に勝てるようなものではない。
 よって、「青汁王子こと三崎優太氏は反社と通じ、ライバル企業に街宣車を押し掛けさせた」という事件の真実性は、新潮社と日刊ゲンダイの裁判が特に専門的に扱うものである。
 この数々の裁判の中で、新潮社裁判他は「三崎氏が反社と通じて街宣車を送った」ことを立証できなかったが、日刊ゲンダイの裁判ではこれを立証できた。「新潮社他では立証できなかった=真実でない」というわけではない。あくまで新潮社他が立証できなかっただけである。日刊ゲンダイ裁判とほぼ同じ証拠とはいえ、弁護士の立証の仕方や、尋問の心証、記事の若干の表現の差なども考慮されたことだろう。
 よって、より正確には「新潮社は立証に失敗した」「日刊ゲンダイは立証に成功した」と表現すべきである。繰り返し述べるが「新潮社に勝って日刊ゲンダイに負けた三崎氏は、一勝一敗なので反社とのつながりは立証されていない」という解釈は誤りである。「新潮社は立証に失敗したが、日刊ゲンダイは成功したので、結果的に、三崎氏と反社とのつながりは立証された」と解釈する方が普通だろう。
 三崎氏にできる限り擁護的な見方をするとしても「裁判所でも判決がわかれるほどギリギリの難しい裁判だったが、惜しくも日刊ゲンダイでは敗訴し、反社とのつながりが真実であると認定されてしまった」と言うべきだと思われる。ただし、今後もし控訴され高裁判決で逆転した場合はこの限りではない。

※(個人的な)時系列まとめ※

 ここまでの主張を簡易にまとめる。なおあくまで双方の主張を考慮してまとめただけであり、個別事案の正しさは保障しない。

2014年?頃 三崎氏、越山氏と知り合う
2016年7月 C社で街宣車事案1発生(越山氏が知ったのは8月6日)
2016年8月 三崎氏、アスクレピオス社株式60%取得(越山氏は街宣車既知?)
2016年11月 三崎氏が街宣車事案について新田龍氏から取材受け、否定
2017年4月 S社Ks氏の周辺で街宣車事案2発生
2018年1月 三崎氏、税務署から狙われる
2018年5月 和解契約書を作成する(成川弁護士)
2018年6月 和解契約書について相談する(齋藤弁護士)
2019年2月 和解契約書は捏造だったと説明(齋藤弁護士)
2019年4月 三崎氏、暴力団関係者と複数回会食?
2019年9月 三崎氏、脱税で執行猶予付きの有罪判決
2020年1月 越山氏がC社のKc氏から和解契約書コピーを入手
2020年1月 C社Kc氏が見解180度変更



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