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絵が完成したので解説します

昨日、この絵を音声解説したのですが、なにかの不具合でアーカイブが残せず、noteに改めて書くことにしました。楽しみにしてくださっていた方々、ごめんなさい。

ほんとごめんね


ある方が自身の似顔絵を募集するという企画を立ち上げていました。私はそれに、真面目枠で参加させていただきました。その方(以下、モデル)にはお会いしたことはなく、だからこそ想像上の彼を描くという新しい挑戦に胸がわくわくしました。


出来上がったのはこんな感じ。



油彩、F 3



イメージは、モデルの学生時代のお写真と、お部屋のインテリアの写真から膨らませました。


絵を解説するというのは一種、邪道と言われるところがあります。絵を見ればすべてわかるでしょ、というのが正しいというわけです。もちろんそれも、「考えるな、感じろ」的な感じでかっこいいのですが、私は考えることも時には必要と思うのですね。


もし、絵の見方が知りたい、という方は画家がどの様に考えて描いたのか、という軌跡を追ってみるのも楽しいと思います。しかし今回解説する内容はあくまで、私の主観で決して「正解」というわけではありません。絵には正解はありません。強いて言えば、みなさんが感じた第一印象が正解です。


だから、この解説を読んで、「私は間違っていたんだ」と感じないでほしいです。あなたがはじめに受けたイメージや気持ちよさ(あるいは気持ち悪ささえも)のようなものを大切にしてください。


それでは解説していきます。




口は自分のものを外へ出す、あるいはもの出すのではなく脳みそのなかの情報を出す、発信源となるような器官です。今回の絵では、この口が主人公になるよう、ビビットな色を用いて、残りは引っ込むようにグレージュにしました。というのも、モデルはとても発信力のある方で、世の中や境遇に対する意見を書かれていることが多いからです。

見ると、2色に分かれていますね。これはモデルの二面性を表しています。1つ目の二面性は立場です。サラリーマンとして働く彼は、ときに言いたいことが言えない状況に置かれることもあるでしょう。それは黄土色で示されています。いわば「閉ざされた口」です。一方ビビットな赤で示されるのは「許された口」。彼が本音、根本、意地を表すことが許された、情熱の色です。

彼の記事を読むと、ときに世間に対等に扱われなかったという悔しさが滲んだものもあれば、世界を良くしたいという希望に満ちたものもあります。いずれの情報にしても、自由であるときと自由がないときの両方を持ち合わせているという現実を示しています。

2つ目の二面性としては、ダンディズムとフェミニズムです。モデルは自身が男性でありながら、非常に女性的なものの感じ方をもっていることを自覚しています。同時に、女性の立場に立つよう心がけている一面もあって、フェミニズムの色が強いです。黄土色の唇は、彼自身、つまり男性としての唇。赤い唇は、彼が女性の心も持ちあわせていることを示します。


(これは音声解説するのを忘れていました)
目が1つしかないのが気になりますよね。これはモデルだけでなく誰にでも言えると思うのだけど、人はみな片目を瞑って生きているようなところがあると思います。つまり、「まだ可能性を半分秘めている」と言いたいのです。情報の80%は目から、なんて言われるように、世界を知りたいときには視覚を使うことが有効なシーンが多い気がします。


それを半分、まだ使ってないのですから、この先は一体どんな面白いことが起るかわかりません。これは、彼の人生が神秘性を秘めていて可能性に満ちていることを示しています。


また、一つ目というのは、守り神のシンボルとして使われる国が多いです。代表的なのがトルコのナザールボンジュウ。青い目のツルツルした石みたいなの、ご存知ないですか。あれは、人の代わりに邪視を受け止めてくれる、魔除けなんですよね。もし、モデルがこの絵を気に入って家に飾ることがあれば、そういう魔除けの意味も込めたいと思いました。





モデルはとても泣き虫です。私も泣き虫なのでとても共感します。涙は年をとればとるほど人前では流しにくくなると思うのですが、彼は、アラフィフになっても人前で涙を流すことを厭いません。それは、悔し涙だったり嬉し涙だったり、達成感による安心の涙だったりします。こういう涙が、彼や彼のファンを支えてくれてるんじゃないかな、と思うので描きました。


まぶた

ピンク色の2本の棒は何かな、と思う方もいらっしゃると思うのですが、これは、涙を流して腫れ上がったまぶたと涙袋です。ポイントは、位置です。なんだかズレているように見えますよね。


この絵は、左右上下対称のシンメトリ性が強いですが、まぶたをずらすことで「あそび」ができます。例えば、真っ白で1点の曇りもない肌を持つ美女がいたとしたら、それは素敵なのですが、一方でそばかすがあったり、ほくろが多い女性も個性的で可愛らしいなんて思いますよね。ぱっちり二重もいいけれど一重で独自のメイクを楽しんでいる人もかっこいいです。


いわゆる「王道」を走るような人もいれば、でもこのモデルはおそらく、王道ではなくて少し横道にそれた個性豊かな人生のルートを選ぶのではないか、と想像し、全体のシンメトリ性をあえて崩しました。あそびがある人生
っていうのもいいですよね。



ひとみと髭


龍の眼を入れたら、絵から飛び出した、なんていう話があるように、瞳を入れるのはとても慎重になる作業です。私も、この瞳を何色にするか、というところで結構悩みました。ただ、黒にしたくなかったのは、先程も言った「口」を主役にしたかったからでした。黒はグレージュと合わせると前に出てきます。瞳と口の両方が物を言えば、とてもうるさい画面になるかもしれないと思いました。


主役である口は赤色です。では、その補色はどうか、と思いつきました。補色というのは対局にある色で、混ぜると黒になる、というものです。混ぜずに、隣同士に置くと、お互いを引き立てる働きをします。赤の補色は緑。口の彩度が高いので、今度は彩度の低い緑色はどうか、と考えました。


私は個人的にサップグリーンという色がとても好きです。少しくすんだ、他と馴染みやすい緑、なのですが、単体になると常緑樹のような健康的な輝きを放ちます。多少、他の色と混ぜて色調を整えましたが、ベースはサップグリーンです。


瞳と同じくらい大切なのが、モデルの髭。髭にとてもこだわりがあるということで、同色にしました。ラジオで話していても、この緑を気に入ってくれる方がいらっしゃって、色の深みがわかる方がnoteには多いんだな、という印象でした。まぶたのピンク色とも邪魔しあわずによく馴染んでいると思います。


長くなりましたが、ざっとこんな感じでした。皆さんの第一印象も是非お聞きしたいですね。よかったら、コメント欄に何でも書いてみてください。


この絵は、無事、モデルの彼に落札され、12月に彼のもとに引っ越す予定です。私は、いままで自分の絵を乱雑に扱ってきました。たくさん捨てましたし、押し入れにしまい込んでいるものもあります。おそらく酸化してしまっていると思います。自分の絵を大切にできないのです。


だから、こうして、完成したものが誰かのもとに行き、壁にかかって愛でられながら生きるというのは、涙が出るほど嬉しいです。多分、育てた娘が上京するために高速バスに乗る、そのバス停まで見送って、バスが去っていくのをいつまでも見ている、そんなときの親の気持ちでしょうか。


最後に、絵の講評会(スタエフ)に駆けつけてくださった皆さん、この記事を読んでくださった皆さん、素敵な機会をくれたぷる兄さん、そして、人のために描くことの可能性を提案してくれたおとうふさんに感謝いたします。




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