コント『動くな！』

東京で考え中さん主催のネタ帳グランプリにて佳作をいただいたコントです。

舞台は画廊。
A：画家。シンプルな服にベージュのエプロン。
B：強盗。黒の上下に覆面。刃物を握っている。

Aのみ板付き
上手側を向いて、キャンバスを置いたイーゼルの前に座っている。
モデルが上手側奥にいて(いる体で)、デッサンをしている。

明転

A：腕を伸ばして鉛筆を目の高さに持ち、対象のバランスを見ている

A「ちょっと！動かないで。そうそう。いいね。動かないでよ……あぁもう！ちょっと！動かないで。」

SE：カランコロンカラン

A「いらっしゃいませ〜」

B：ドタバタと走って出てくる

B「おい、動くな。強盗だ。」

A：Bを見て静止

B「よし。この画廊で一番価値の高い絵を寄越せ……おい、奥のお前！動くな」

A：素早く上手側を振り返る

A「あ！ちょっとモデルさん？動かないで！」

B「おい！動くな画家！」

A「動かないでモデルさん！」

B「お前も動いちゃダメな側なんだよ」

A「あーさっきとポーズ違うって！もっとこういう感じで」

A：上手側に向かって煽っているファイティングポーズをやってみせる

B「動くな！動いてモデルのポーズを直すな。」

A「違うの。左手がこう。」

A：モデルから見て同じ向きになるように下手側を向いてファイティングポーズ。Bと対峙する形になる。

B「おい！動くな！すごい挑発してるみたいになってるぞ。」

A：Bを見たあとゆっくり元の位置に座る

B「なんで？今目合ってたよね？え、こっち刃物持った強盗だよ？」

A「うるさいな！」

A：立ち上がり、床に置いていたスケッチブックを拾って開いて抱える

A「そこ座って。動かないで。」

B「いや、お前が動くな。なんで俺のこと描こうとしてんだよ。」

A「動かないで！」

B「動くな！」

A「ちょっと……」B「おい……」

A「動かないでいただいても大丈夫ですよ、全然」

B「そんなとんでもない。そちらこそ動かないでいただいて結構ですので」

AB：睨み合う

A「動かないでください！」(深い礼)

B「動かないでください！」(より深い礼)

AB：礼の深さを競い合って土下座になる

AB：息切れしながら睨み合う

AB：背中合わせになって3歩数えて振り返り、素早く「動くな！」と言う。Aの方がわずかに速い。

B「クソッ…」

A：椅子を示して着席を促す

B：座る

A「そんな余計なモチーフ握りしめてないで」

B「いやあの包丁……」

A「そんな反射する物体、描きづらいでしょ」

B「物体としてしか見てないの！？」

A「いいから」

A：Bから刃物を奪う

B「普通に強い！」

A「覆面も」

B「あ、はい」

B：覆面をとる

A：Bから奪った刃物を片手に、立ったままでBの似顔絵を描き始める

A「強盗ねぇ」

B「はい、すいません」

A「なんでうちで強盗しようって決めたの？」

B「はい、あの、銀行も考えたんですけど、やっぱり対策が強化されてるんで、意外なところをと思いましてこちらの画廊を…」(徐々に身振り手振りがつく)

A「動かないで！」

B「すみません」

A「これ邪魔だな」

A：刃物を床に置く

B：刃物を拾って取り返そうと立ち上がりかける

A「ちょっと。まだ動かないでよ。」

B「クソ…！動くな同士の主張がぶつかったらこんなヒエラルキーが生まれるとはな……」

A「よし！できた！」

B：すぐに床に落ちていた刃物を拾ってAに向ける

B「おい、動くな。立場は変わった。要求は聞いてもらうぞ。」

A「何だっけ。あ、高く売れる絵か。」

B「そうだ」

A「奥の部屋に、未発表の超大作があるけど」

A：スケッチブックを眺める

A「どうする？長年かけて描いた高く売れる大作と今描いたあんたの似顔絵、どっち持って帰るの？」

B「え…それは……」

A：スケッチブックを開き、Bに似顔絵を見せる

B「似顔絵で」

A「2000 円になります」

B「金とんのかよ！」

暗転

※字数はセリフ部分のみをカウントしています