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【ラ・トラヴィアータ 誕生の秘密/その②】

 下記の書簡は、1852年5月11日にフェニーチェ劇場の理事会から、ヴェルディの新作オペラに出演することに内定していたソプラノ歌手のファニー・サルヴィーニ=ドナテッリの夫、ガエターノ・ドナテッリに宛てたものです。
 この時点で、まだヴェルディは新作オペラの題材を《ラ・トラヴィアータ》には決めていませんでしたが、既にサルヴィーニ=ドナテッリの代わりに、若手のソプラノ歌手エミーリア・スコッタが検討されていたのではないか?といった噂が劇場関係者の間に広まっていて、その噂を聞いたガエターノが、妻の出演が取り消されるのではないか?と不安に駆られてフェニーチェ劇場に事の真相を問いただしていました。


「ガエターノ・ドナテッリ氏へ
 マエストロ・ヴェルディは、1853年の四旬節にこの劇場のために新作オペラを書くという契約上の義務を保証する際に、あなたの妻であるファニー夫人にプリマドンナ役を与える義務を明白に引き受けることはしませんでしたが、ファニー夫人もその一員である自分の配置する芸術家の数から除外することもしなかったのです。
 スコッタについては、請負業者側からも理事会側からも一度も考えられたことはなく、四旬節のために契約されることになるという主張は、特に劇場事業において多くの夢の一つであり、夜になると無精者が作り、昼間は正真正銘の真実として広まるものだ。
 ファニー夫人の卓越した才能は、まだ彼女を知らないマエストロ・ヴェルディを喜ばせることを私は疑っていませんし、知ったときには彼女のために作曲することをとても喜んでくれることでしょう。
 それゆえあなたはお機嫌を悪くせず、くだらないお喋りを気に留めないで下さい。ファニー夫人は可能な限り有利な状態でデビューしますので、理事会と請負業者を疑わないで下さい。」


 「ヴェルディは[…]ファニー夫人にプリマドンナ役を与える義務を明白に引き受けることはしませんでしたが、ファニー夫人もその一員である自分の配置する芸術家の数から除外することもしなかった」という表現から、ヴェルディとフェニーチェ劇場との間で、サルヴィーニ=ドナテッリに関してどのような約束が交わされたのでしょうか?
 またこの噂は、同じくヴェルディの新作オペラに出演することが決定していたバリトン歌手のフェリーチェ・ヴァレージのもとにも届いており、ヴァレージはフェニーチェ劇場の内部の人間に宛て次のように書きました。


「親愛なる友人へ
 私があなたにスコッタがフェニーチェの四旬節に考えられたことが本当かどうかを聞いたのは、私が尊敬するサルヴィーニに不信感を抱いたからではなく、ヴェルディに非常に近い人物が出演契約を結ぶつもりで約束を引き受けたことを知ることができたので、頃合いを見計らって情報を得たいと思ったからです。
 私は以前からスコッタに興味を持っていましたが、もちろん決して他のアーティスト、特に才能のあるドナテッリを傷つけてまで彼女を利用することはしたくはありません。
 しかし、全ての人が同じように考えるわけではありませんが、きっとこのことを知らないヴェルディには決してこのことが悟られないようにし、そして私はこのような厄介事に巻き込まれるのが好きではありません。それゆえこれは私たちの間だけの話です。
 ドナテッリが良いデビューを果たせば好かれると思っています。」
(両書簡とも「Marcello Conati著『Verdi e La Fenice』/1983年」より)


 同業の歌手達からは高い評価を受けていたサルヴィーニ=ドナテッリはこの後、どのような処遇を受けることになるのでしょうか?
「ラ・トラヴィアータ 誕生の秘密」
https://www.verdi-project-japan.com/pubblicazione-traviata/

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