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【四季を生きる vol.3】

私は元々歩くのが好きで、永遠に歩くことができるという特技があるのですが、つい最近も気付いたら10km歩いていた日がありました。
その日、空き地にたんぽぽの綿毛を見つけました。昔はタンポポがあちこちに咲いていて、綿毛を見つけては吹いていたと思うのですが、随分久しぶりに目にした気がしました。
そうか、今年2020年のタンポポの咲き誇る頃は緊急事態宣言による自粛要請が出ていたしなあ。
思わず幼心に戻り思いっきり吹いてみましたが、ふと辺りを見渡してみると洗濯物をベランダに干ししている居住地が目に入り、あのお家に住む方にとって迷惑なことをしてしまったかなあ、なんて、思いました。
大人になるとはある意味ではこういったことなのでしょうか。

さっそく、『ことばの歳時記』でタンポポに関する記述がないか見てみると、4月4日にありました。
タンポポという名前は、

蕾の形が鼓に似ているところから、「つづみ草」と呼ばれ、その鼓の音を昔の人はタン、ポン、タン、ポンと聞きなしたところから、子どもたちがタンポポと呼んだのが語源

だそうです。いわゆる都心部に住んでいるからか、鼓の音を見聞きする機会があまりなく、ましてやそれをタンポポに当ててみるなどという発想は全くなかったので、真新しい物事の見方につい目を見張りました。
日本に生まれ育った人々は身近な自然を日常生活の一コマに写し見ることに長けているなあと再認識した瞬間でした。
あるいは日本に生まれ育った人と限定するのはごく狭い見方かもしれません。自然に囲まれながら生まれ育った人と表現した方が適切で誤解も少ないかもしれません。

それはさておき、「タンポポ」の記述を読み進めてみると、西行が津の国へ行った際、「鼓の滝」という美しい滝のふもとに、タンポポが滝のしぶきに濡れて咲いている可憐な風情をいとしんで、一句詠んだそうです。

津の国の 鼓の滝を 来て見れば 
岸辺に咲ける タンポポの花

そこに山間から草刈りの少年がやってきて、上の句を以下のように変えたようです。

津の国の 鼓の滝を 打ち見れば 
岸辺に咲ける タンポポの花

『ことばの歳時記』では、これを、歌の上手を草刈りに教えられたという逸話として紹介されたあとに、タンポポの語源を知って初めて面白みの味わえる話として締めくくられています。

実は、2年ほど前の夏休み、大学の友人と共に兵庫県を観光したことがありました。2泊3日の短い旅でしたが、神戸や姫路城や竹田城跡へ行った後に有馬温泉の湯に浸かるなどそれはそれは満喫した旅でした。
有馬温泉の近くに鼓ヶ滝公園というものがあり、やはりそこには「鼓ヶ滝」と呼ばれる滝がありました。昔、鼓を打つ音に似ているからこう呼ばれたというような記述がありましたが、私には滝の音はザーーーというものに聞こえ、その記述に首をかしげた記憶があります。

2年が経ち『ことばの歳時記』を片手に旅を振り返ってみると、あの頃の私はまだ滝の音を描写するオノマトペを十分に持ち合わせていなかったのかもしれないという重大な事実に気付きました。
2年の間に色々な授業を履修し、色々な場所へ旅行へ行き、音を聞き分ける耳も以前よりは精度が増したような気持ちになっています。
やはり、もう一度行ってみたいです。

お気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、トップの写真は「鼓ヶ滝」で撮ったものです。滝の全体像を写したものはInstagramにあげることに致しますので、気になる方は是非、お気軽に覗いてみてくださったら幸いです。@verba_pictura

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