好きの感情

「アイドルを苦しめるのは、いつだって好きの感情なんだよ」

これは「アイドリッシュセブン(以下、アイナナ)」というスマホゲームの中でも5本の指に入ると言っても過言ではない名言であると思う。

主人公がマネジメントする新人アイドルユニット「IDOLiSH7(アイドリッシュセブン)」の人気が上昇し、メディアにも取り上げられる機会が多くなったのを境に、ベテランアイドルデュオの「Re:vale(リヴァーレ)」の百(モモ)が、マネージャーである主人公に「好いてくれる人が増えた分、アイドルたちに向けられる感情が、少しずつ変化していく。そのことが彼らを苦しめることもある。」とアドバイスをする。

人気が出て多くの人の目に触れることが増えればその分IDOLiSH7を嫌う人も出てくるから、と主人公は解釈しかけるが、百はそうではないと答えた。その答えが、冒頭に書いた言葉だ。

以下はその続きである。

「ファンが増えれば増えるほど、好きの種類が増える。人も好みもそれぞれ。かっこいいところを見たい人、可愛いところを見たい人。ライブを望む人、バラエティを望む人…。どのファンもアイドルのことを思ってる。でもアイドルは1人しかいない。みんなの期待には応えられない。アイドルは人を幸せにすること、人に愛されることが好きだから、ファンにがっかりされると人一倍食らってしまう。何が悪かったのか、もっと頑張らなきゃ、と思い詰める人もいれば、お前らの言うことなんて聞いてられるか!とピリピリしてしまう人もいる。ファンもピリピリしてくる。期待があるから不満が生まれて、好きがあるから嫌いが生まれる。誰も悪くない、解決方法もない。でも本人たちは苦しくてしょうがない。」

初めてゲーム内のストーリーで読んだ時は「なるほどね」と軽く感じた程度で流してしまったが、つい最近アニメで放映されたことをきっかけに、このセリフについて何日も考えていた。

そして、これはアイドルだけではなく、アニメやゲーム、また関係者だけでなくファンにも当てはまる、と感じた。

私は今、「ツイステッドワンダーランド(以下、ツイステ)」というスマホゲームにどっぷりハマっている。

ネットで連日話題になったり、街の雑貨店やコンビニなどでもグッズやお菓子が売られたりしているので、作品の存在自体は多くの人に知られているだろう。ディズニー作品からインスパイアされていることもあり、リリースされるずっと前から期待していた、という人も少なくない(私自身はリリース直前に知ったが)。

昨今の状況から一目瞭然だが、このゲームはたくさんのプレイヤーを魅了した。新情報が出ればツイッターでは即トレンド入り、グッズ展開も早ければ完売も早い。

また、イラストや小説などの二次創作品がネット上アップロードされているのを見ない日もない。

ツイステの勢いはとどまることを知らない。

だが、これだけ多くの人から愛されていると、その人の数だけ様々な形の「好き」が生まれてくる。

メインストーリーが楽しいからどんどん読み進めたい!

どんなイベントが実装されるのか気になる!色んなイベントカードが見たい!

ゲーム内でこういうことができたらいいな!

グッズが可愛い!こういうグッズも出たら嬉しい!

私自身も、少なからず上記全ての思いを抱いたことがある。

だが、運営会社は1つだけ。全ての期待に応えることは難しいだろう。

最近では、運営が新情報を出すたびに、「期待とは違った」「もっとこうしてくれればいいのに」「そんなことより○○をやって下さい」といった厳しいリプライがつけられたり、トレンド入りしているツイステ関連のワードを調べると同じくこういった呟きがトップに表示されたりする。

新作グッズの情報に対しても、「こんなのダサい。普段使いできるようなデザインならよかったのに」「同じ絵ばっかり使われてるじゃん」というネガティブな意見を見かける。

私は、こういう状況を見るのが辛い。

「どうしてこんなにきついことを言うの?」「運営だって色々考えてくれてると思う」「新情報、嬉しいよ」「奇抜なデザインだし既存絵だけど何か惹かれるからこのグッズ欲しいな」

私はこう叫びたい。だが、そうすると「お前は運営の回し者か?」「頭の中お花畑かよ」「信者うざい」などと言われてしまうだろう。

私は直接言われたことはないが、私のようにこのような状況に対して苦言を呈している人たちの呟きを引用して厳しく咎めている光景を何度も見た。

また、こういう女性向けスマホゲーム界隈には、いわゆる「愚痴垢」も多く存在する。

いちプレイヤーや元プレイヤーを名乗るツイッターユーザーが、そのゲーム作品に対する愚痴だけを言うために作られたアカウントだ。

作品名やキャラクター名を検索した時にヒットしてしまうこともあれば、絵文字や崩し字?(1つの漢字を部首ごとに分けて表現する、昔で言うところのギャル文字のような書き方)を利用して検索避けをしているが、運営によるツイートや一般人のバズったツイートを引用リツイートしているために目に入ってしまうこともある。

こういった愚痴専用アカウントで呟かれているのも、概ね上記のツイートと同内容である。

私はこの愚痴垢も大の苦手で、わざわざ専用のアカウントを作ってそんなに愚痴ばかり言うならさっさと界隈から足を洗えばいいのに、と思うのだが、彼ら彼女ら曰く「好きだからこそ愚痴りたいこともある」とのことだ。

あぁ、これが「好きの感情」の一つなんだな。

そしてその感情が他人を傷つけている。

まさに、アイナナで語られた百のセリフそのものだ。

一見、厳しい批判や憎悪に見える呟きでも、元を辿れば「好きの感情」なのである。

好きだからこそ、こうしてほしい。

全てこの気持ちの表れなのだ。

それが人によって、純粋なプラスの言葉だったり、一方では毒のあるマイナスの言葉だったりして表現されてしまう。

私が向こうの「好き」に対して「本当に好きならそういうきついこと言うなよ」と思うのと同様に、向こうも私の「好き」に対して「本当に好きならそんな甘やかしたようなこと言うなよ」と感じているだろう。

お互いの「好き」がお互いを苦しめ合ってしまっている状態なのだ、と思う。

実際、アイナナのストーリーの中でも、「好き」がぶつかり合った結果ファン同士の喧嘩に発展してしまう描写がされている。

きっと運営も苦しいだろう…。


私は相変わらず、こういったきつい意見や愚痴垢は苦手だ。

できればこのように言う人がいなくなり、愚痴垢もみんななくなればいいとさえ思う。この苦手意識は一生克服できない気がする。

だが、それらも「好きの感情」の一つなのだ。

誰も悪くない。でも解決方法もない。

せめて自分にできることは、自分の「好き」を誇りに思い、大事にすることしかないと思う。


私と同じように考えていてこのブログに辿り着いた、読んでスッキリした、という方がいれば御の字ですが、私は文章力もボキャブラリーも乏しいので、それは叶わないと思います。

ですが、「自分の『好き』が誰かを苦しめることがある」ということだけでも知ってくれる人がいたら、私はそれで充分です。






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