接見国賠(整理)

いわゆる接見国賠において、違法性が認められた最高裁の判例を整理。

目的は、金岡先生の下記記事にある、「接見交通系の国賠で、法令解釈が最高裁まで争われた末に賠償が命じられているような事案と本件とで、何が違うのかとも思う。」という点について、「賠償が命じられているような事案」を整理・確認するためである。

なので、違法と判断され、(当然過失があることを前提に)賠償が命じられているような事案を中心に整理する。

1.最判H3.5.10

国賠請求を(一部)認容した原判決に対し、国が上告。上告を棄却した(すなわち、国賠法上の違法・過失の責任を認めた)。

判旨は以下のとおり。

1 刑訴法39条3項の規定にいう「捜査のため必要があるとき」には、捜査機関が弁護人から被疑者との接見の申出を受けた時に、間近い時に被疑者を取り調べたり、実況見分、検証等に立ち会わせたりするなどの確実な予定があつて、弁護人の必要とする接見を認めたのでは右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合が含まれる。
2 捜査機関が弁護人と被疑者との接見の日時等を指定する方法は、その合理的裁量にゆだねられているが、それが著しく合理性を欠き、弁護人と被疑者との迅速かつ円滑な接見交通が害される結果になるようなときは、違法なものとして許されない。
3 検察官が、弁護人から被疑者との接見等の申出を受けた警察官から電話によりその措置について指示を求められた際に、弁護人と協議する姿勢を示すことなく、一方的に往復約二時間を要するほど離れている勤務庁に接見指定書を取りに来させてほしい旨を伝言したのみで接見の日時等を指定しようとせず、かつ、被疑者に対する物の授受につき裁判所の接見禁止決定の解除決定を得ない限り認められないとした措置は、その指定の方法等において著しく合理性を欠き、違法である。

いろいろ言いたくなることはさて措き、過失判断にかかわる部分については、以下のとおり。

 右事実によると、被上告人が午後零時四〇分ころ接見等の申出をした際、既に午後一時すぎころから当該被疑者の取調べが予定されていたところ、結果的に当日は終日右取調べが行われなかったが、その主な理由は被上告人の接見に伴う取調べの中断を避けることにあったというのであるから、右接見等の申出時において、それから間近い時に取調べが確実に予定されていたものと評価することができ、したがって、被上告人の接見等を認めると右の取調べに影響し、捜査の中断による支障が顕著な場合に当たるといえないわけでなく、【書上検察官が接見等の日時等を指定する要件が存在するものとして被上告人に対し右の日時等を指定しようとした点】はそれ自体違法と断定することができない。
 しかしながら、書上検察官は、魚津警察署の警察官から電話による指示を求められた際、同警察官に被上告人側の希望する接見等の日時等を聴取させるなどして同人との時間調整の必要を判断し、また必要と判断したときでも弁護人等の迅速かつ円滑な接見交通を害しないような方法により接見等の日時等を指定する義務があるところ、こうした点で被上告人と協議する姿勢を示すことなく、ただ一方的に、当時往復に約二時間を要するほど離れている富山地方検察庁に接見指定書を取りに来させてほしい旨を伝言して右接見等の日時等を指定しようとせず、かつ、刑訴法三九条一項により弁護人等に認められている被疑者に対する物の授受について裁判所の接見禁止決定の解除決定を得ない限り認められないとしたものであるから、【同検察官の措置】は、その指定の方法等において著しく合理性を欠く違法なものであり、これが捜査機関として遵守すべき注意義務に違反するものとして、同検察官に過失があることは明らかである。もっとも、原審の確定した事実によれば、被上告人は、本件接見等の申出前に担当検察官に連絡をとったわけではなく、同検察官の勤務場所から遠く離れた警察署に直接出向いて接見等を申し出たものであり、しかも同警察署において、警察電話による担当検察官との折衝の機会を与えられながらこれに応じなかった等の事情があるというのであるから、こうした諸事情をも考慮すると、被上告人にも弁護人としての対応にいささか欠けるところがあったのではないかと考えられるので、そのことが弁護人の接見等を求める権利の実現を遅れさせる一因であったことも否定し得ないのであるが、これが被上告人の被侵害利益に対する慰謝料算定の際の一事情になり得るのは格別、右の検察官の過失責任を免ずる事由にはなり得ないというべきである。
 そうすると、書上検察官の被上告人に対する被疑者との接見等申出拒否の処分はその職務を行うについてされた違法行為であるとして、上告人が国家賠償法一条一項により被上告人の被った損害を賠償すべき責任があるとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

検察官上告、すなわち原判決も違法・過失判断をしているということなので、当然検察官の上告理由書には、刑訴法39条3項について、かく解すべきである(原判決は法令の解釈を誤ったものである)という主張に続けて、当然例の主張が出てくる。

 第二点 原判決は、検察官には、違法な処分をしたことにつき過失がある旨判示するが、これは、国家賠償法一条の解釈適用を誤り、採証法則及び経験則違背並びに審理不尽、理由不備の違法を犯したものであり、これが判決の結果に影響を及ぼすことは明らかである。
一1 まず、原判決は、~と判示する。
 2 しかし、検察官は、~について検討したものであって、このことは、<証拠略>によって明らかなところである。〔後略〕
 3 次に、原判決としては、検察官が本件においてとった解釈を誤りと判断した場合においても、検察官がそのような解釈をしたことについて過失があったか否かを判断すべきであるのに、この点について何らの判断を示していないのであるから、この点は審理不尽、理由不備というべきである。すなわち、昭和48年当時、「捜査のため必要があるとき」の要件について、罪証隠滅の防止を含む捜査全般の必要性をいうものと解する見解も有力に主張されていたものであって~。また、仮に、本件当時、「捜査のため必要があるとき」を、被疑者を取調べ中ないしそれに準ずる場合と解する立場を採るべきであったとしても、本件のように「これから被疑者の取調べを開始使用としているとき」が取調ベ中に準ずる場合として右の要件に該当するということは十分に考えられるところである(論拠・略)。
 ところで、「ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員がその一方の見解を正当と解し、これに立脚して公務を執行したときは、後にその執行が違法と判断されたからといって、直ちに右公務員に過失があったものとすることは相当でない」(判例摘示・略)とされているのであるから、原判決が検察官の法律解釈を誤りであるとする場合には、原判決としては、当然、検察官が法律解釈を誤ったことについて過失があったか否かを判断すべきであったのである。しかるに、原判決は、この点について全く判断を示さず、直ちに検察官には過失があったと速断したものであって、原判決は、この点において、国家賠償法一条の解釈適用を誤り、かつ、審理不尽、理由不備の違法を犯したものである。

最高裁は、上記上告理由第二については、文字どおり一蹴している(というか、判文上に全く現れていないので、「一顧だにしていない」というべきか)。

当然調査官解説が気になるところであるが、調査官解説には、かろうじて上告理由について、上記上告理由「第二」を掲記するのみで、これを排斥した判断については「全く」(脚柱ですら)触れていない。このことが後に影響してくるのだが、それは追って。。。

2.最三判H12.6.13

今度は、原々判決において国賠請求を(一部)認容したが、原判決がこれを破棄し、国賠請求を棄却したのに対し、弁護人が上告。原判決を破棄し、被上告人(国)の控訴を棄却した(すなわち、国賠法上の違法・過失の責任を認めた)。

判旨は以下のとおり。

1 弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者から被疑者の逮捕直後に初回の接見の申出を受けた捜査機関は、即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能なときは、留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情のない限り、被疑者の引致後直ちに行うべきものとされている手続及びそれに引き続く指紋採取、写真撮影等所要の手続を終えた後、たとい比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時又は近接した時点での接見を認める措置を採るべきである。
2 接見の日時等の指定をする権限を有する司法警察職員が、逮捕された被疑者の依頼により弁護人となろうとする者として逮捕直後に警察署に赴いた弁護士から初回の接見の申出を受けたのに対し、接見申出があってから約一時間一〇分が経過した時点に至って、警察署前に待機していた弁護士に対して接見の日時を翌日に指定した措置は、即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能であるにもかかわらず、犯罪事実の要旨の告知等引致後直ちに行うべきものとされている手続及びそれに引き続く写真撮影等所要の手続が終了した後も弁護士と協議することなく取調べを継続し、その後被疑者の夕食のために取調べが中断されたのに、夕食前の取調べの終了を早めたり、夕食後の取調べの開始を遅らせたりして接見させることをしなかったなど判示の事情の下においては、国家賠償法一条一項にいう違法な行為に当たる。

過失判断にかかわる部分については、以下のとおり。

 ~そうすると、D課長は、上告人A2が午後四時三五分ころから午後五時四五分ころまでの間継続して接見の申出をしていたのであるから、午後五時ころ以降、同上告人と協議して希望する接見の時間を聴取するなどし、必要に応じて時間を指定した上、即時に上告人A2を上告人A1に接見させるか、又は、取調べが事実上中断する夕食時間の開始と終了の時刻を見計らい(午後五時四五分ころまでには、上告人A1の夕食時間が始まって相当時間が経過していたのであるから、その終了時刻を予測することは可能であったと考えられる。)、夕食前若しくは遅くとも夕食後に接見させるべき義務があったというのが相当である。
 ところが、D課長は、上告人A2と協議する姿勢を示すことなく、午後五時ころ以降も接見指定をしないまま同上告人を待機させた上、午後五時四五分ころに至って一方的に接見の日時を翌日に指定したものであり、他に特段の事情のうかがわれない本件においては、右の措置は、上告人A1が防御の準備をする権利を不当に制限したものであって、刑訴法三九条三項に違反するものというべきである。そして、右の措置は、上告人A1の速やかに弁護人による援助を受ける権利を侵害し、同時に、上告人A2の弁護人としての円滑な職務の遂行を妨害したものとして、刑訴法上違法であるのみならず、国家賠償法一条一項にいう違法な行為にも当たるといわざるを得ず、これが捜査機関として遵守すべき注意義務に違反するものとして、同課長に過失があることは明らかである。

この事件は、国(検察官)が上告したわけではないので、上告理由書はなく、答弁書があるのみである。答弁書は公開されていないので、国(検察官)の答弁内容は不明である。

とはいえ、例の主張があったことは間違いないと思われるので、これも、過失を否定する国の主張については一蹴した(一顧だにしなかった)といえよう。

なお、調査官解説にも、「過失」を認めた点について、全く言及が見当たらない。

3.最三判H17.4.19

転機はこれである。
先ほどと同じ第三小法廷であり、金谷利廣裁判官は両方に名を連ねている(先ほどの事件では裁判長)。

判旨は以下のとおり。

1 弁護人から検察庁の庁舎内に居る被疑者との接見の申出を受けた検察官は,同庁舎内に,その本来の用途,設備内容等からみて,検察官が,その部屋等を接見のためにも用い得ることを容易に想到することができ,また,その部屋等を接見のために用いても,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの問題が生じないことを容易に判断し得るような部屋等が存しない場合には,接見の申出を拒否することができる。
2 検察官が検察庁の庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として同庁舎内に居る被疑者との接見の申出を拒否したにもかかわらず,弁護人がなお同庁舎内における即時の接見を求め,即時に接見をする必要性が認められる場合には,検察官には,捜査に顕著な支障が生ずる場合でない限り,秘密交通権が十分に保障されないような態様の短時間の「接見」(面会接見)であってもよいかどうかという点につき,弁護人の意向を確かめ,弁護人がそのような面会接見であっても差し支えないとの意向を示したときは,面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務がある。
3 弁護人が,検察官から,検察庁の庁舎内には接見のための設備が無いことを理由に同庁舎内に居る被疑者との接見の申出を拒否されたのに対し,接見の場所は被疑者が現在待機中の部屋でもよいし,検察官の執務室でもよいなどと述べて,即時の接見を求めたこと,弁護人は,勾留場所が代用監獄から少年鑑別所に変更されたことをできる限り早く被疑者に伝えて元気づけようと考え,接見を急いでいたこと,ごく短時間の接見であれば,これを認めても捜査に顕著な支障が生ずるおそれがあったとまではいえないことなど判示の事情の下においては,検察官が,立会人の居る部屋でのごく短時間の「接見」(面会接見)であっても差し支えないかどうかなどの点についての弁護人の意向を確かめることをせず,上記申出に対して何らの配慮もしなかったことは,違法である。

そして、上記判旨には出てこないが、重要なのは、過失を否定し、国賠請求を認めた原判決を破棄しているということである。

上告人は国なので、当然例の主張が上告理由書に登場する。また、原々判決は、「接見設備がないことを理由に右各接見を拒否した青山検事の措置は、違法であり、捜査機関として遵守すべき注意義務に違反するものとして青山検事に過失があったものといわなければならない」として直ちに過失を認めた(国の過失を否定する主張をあえてしないという訴訟戦略があったことは容易に推察される)のに対し、原審においては、この点について別途争点になっていたようで、原判決は担当検事が「検察庁内に接見室がない場合には接見を拒否できると考えたことについて「相当の理由」があったと認めることはできないと判示しており、この点について上告理由書で具体的に反駁している。

最高裁は、違法としつつ、担当検事の過失を否定したものであるが、その判示は以下のとおり。

 以上のとおり,D検事が,被上告人の上記各接見の申出に対し,面会接見に関する配慮義務を怠ったことは違法というべきであるが,
①本件接見の拒否(1),(2)は,それ自体直ちに違法とはいえない上,
②これらの接見の申出がされた平成4年当時,検察庁の庁舎内における接見の申出に対し,検察官が,その庁舎内に,弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても,被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ,戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等が存在しないことを理由に拒否することができるかという点については,参考となる裁判例や学説は乏しく,もとより,前記説示したような見解が検察官の職務行為の基準として確立されていたものではなかったこと,かえって,前記の事実関係によれば,広島地検では,接見のための専用の設備の無い検察庁の庁舎内においては弁護人等と被疑者との接見はできないとの立場を採っており,そのことを第1審強化方策広島地方協議会等において説明してきていること
等に照らすと,D検事が上記の配慮義務を怠ったことには,当時の状況の下において,無理からぬ面があることを否定することはできず,結局,同検事に過失があったとまではいえないというべきである。

広島地検では,接見のための専用の設備の無い検察庁の庁舎内においては弁護人等と被疑者との接見はできないとの立場を採っており,そのことを第1審強化方策広島地方協議会等において説明してきていること」を理由として挙げることは全く蛇足であり、かえって、相当ではないと考えるが、どういう趣旨で挙げているのだろう。「加害者の依拠した見解は、加害者の属する組織における公式見解と同じであり、加害者個人の判断に何ら過失はない」という考慮なのだろうか。そんなことで国家賠償請求が否定されるなんてことがあってよいのだろうか。

なお、調査官解説では、個々の要素については言及せず、以下のとおり丸っと言及されているにとどまる。

面会接見は、本判決において初めて認められた概念であって、本判決が判示する諸事情が存することからすると、A検事に過失があったとは言い難いものと考えられる。

従来から、最高裁は、被疑者と弁護人との接見については、刑訴法上接見を拒否することができるかどうかを判断し、拒否できない場合は、弁護人の円滑な職務の遂行を妨げたとして国家賠償法上も違法であると判断し、過失の有無の判断に進んでいるものと解される(前掲最三小判平成3年5月10日、前掲最三小判平成12年6月13日)。

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