逮捕状の請求についての違法性が問題となった事例

1 名古屋地判(認容)→名古屋高判(棄却)

名古屋地判H22.2.5(認容)→名古屋高判H23.4.14(棄却)

規範は同じ。

まず地裁。

 逮捕については,刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直
ちに違法になるというものではなく,逮捕状請求及び逮捕状による逮捕の各
時点において,犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必要性が認め
られる限りは適法である(最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決・
民集32巻7号1367頁)。
 したがって,逮捕状請求及び逮捕状による逮捕については,警察官が現に
収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料
を総合勘案して,その各時点で,警察官が,犯罪の嫌疑についての相当な理
由及び逮捕の必要性を判断する過程において,合理的根拠が客観的に欠如し
ているにもかかわらず,逮捕状を請求しあるいは逮捕状により逮捕した場合

には違法になると解するのが相当である。
 なお,捜査機関は,裁判官のあらかじめ発する逮捕状により,被疑者を逮
捕することができる(刑事訴訟法199条1項)が,逮捕状は,裁判官が捜
査機関に逮捕する権限を付与する裁判書であり,逮捕を命ずるものではない
から,逮捕状発付後も,捜査機関は,必ず逮捕しなければならないわけでは
なく,自らの判断と責任において逮捕するか否かの自由を有するため,逮捕
状請求行為だけでなく,逮捕状による逮捕自体の違法性も別に問題となる。

高裁も引用して踏襲。

 標記については、原判決25頁から26頁までの(1)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 すなわち、逮捕状請求及び逮捕は、刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに違法になるものではなく、逮捕状請求及び逮捕状による逮捕の各時点において、犯罪の嫌疑について相当な理由があり、かつ、必要性が認められる限りは適法であり、反対に警察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して、その各時点で、犯罪の嫌疑についての相当な理由及び逮捕の必要性に関する合理的根拠が客観的に欠如している場合には、違法になると解するのが相当である。

つまり、件の名古屋地判R3.1.28の規範である、「合理的な判断過程により明らかに逮捕の必要性がないと認められるにもかかわらず逮捕状の請求をした場合には」という規範は採用していない。この規範はどこから持って来たんだ。。。

なお、この事案では、犯罪の嫌疑についての相当な理由についての合理的根拠が客観的に欠如していたと第1審で判断された。そして、容易に明らかにできる事実についての捜査を行ったと認定がされているので、裁判官は証拠資料不足により結果として誤った判断をしてしまったということで、事実上免責(実際には、そもそも裁判官の違法は問われていない。)されている。

控訴審で違法性を否定した判示は、以下のとおり。

 (ア) 犯罪の嫌疑の有無
 前記(2)によれば、被控訴人には妻があるから、被控訴人とA子との性行為は、単に成人と18歳未満の青少年との性行為というにとどまらず、被控訴人の妻に対する関係で民事上不法行為を構成する違法行為であり、このような関係を継続すれば、A子において被控訴人の妻から損害賠償を請求され得るのであり、双方独身(あるいは婚姻関係が破綻している場合)の恋人同士の関係とは質的に明らかに異なっているところ、31歳の社会人で妻子のある被控訴人は、被控訴人とA子とがこのような関係であることを理解していたばかりか、妻と離婚してA子との婚姻に発展することは望んでいなかったと認められる。そして、被控訴人は、A子がアルバイトとして働く店舗の副店長という立場でA子を管理監督する立場にあり、その職務上もA子との関係が一定範囲から逸脱しないようにすべき立場にあった。他方で、A子は高校生であり、前記(2)のとおり、被控訴人と婚姻に発展することは望まないが、被控訴人が真剣に付き合うというのであれば妻子があっても性的関係にも同意するというのであり、被控訴人との交際の社会的・法的意味の理解は十分でなく、被控訴人の真剣度に関心があったと認められる。したがって、被控訴人は、上記のとおりその身分的・雇用関係上の立場を顧みることなく、被控訴人との性行為が法的にいかなる意味を持つかを十分に理解していない18歳未満のA子との間で本件性行為に至ったということができる。殊に本件においては、被控訴人がA子と初めてのデートをしてからわずか1か月余り(本件警察官らの認識。実際には約2週間程度)で性行為に至っており、本件性行為までの2か月弱の間で少なくとも4ないし5回(本件警察官らの認識。実際には8回)の性行為を持っている。このような場合、本件規定にいう「いん行」のうち、昭和60年大法廷判決がいう第2形態の性行為に当たる蓋然性が高いということができる。
 (イ) 本件警察官らの認識・判断と相当性の有無
 前記(2)の事実及び上記(ア)の判断を踏まえると、被控訴人がA子を専ら性行為のための一時の遊び友達として扱っているとの判断を本件警察官らがすることは無理からぬということができ、そのように判断するのが合理性を欠くということはできず、本件警察官らが、本件性行為について、被控訴人において青少年(A子)を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような場合(第2形態の性行為)に当たると判断したこと(犯罪の嫌疑の相当な理由)に合理的根拠が欠如しているとは認められない。
 (ウ) 逮捕の必要性の有無
 被控訴人には勤務先や妻子があるものの、妻子のもとを出奔するおそれもあるから、逮捕の必要性に合理的根拠が欠如しているとも認められない。

以上のとおり、控訴審では、まず客観的な犯罪の嫌疑の有無(及び程度)を明らかにした上で、逮捕状を請求した警察官らの認識・判断と相当性の有無について検討し、その判断に合理的根拠が欠如しているとは認められないとし、違法性を否定した。(なお、逮捕の必要性の有無についての判示があまりにもアレなのは、実際上はあまり争点となっていなかったことによるのであろう。)

翻って、名古屋地判R3.1.28をみると、逮捕の必要性についての担当検察官の判断は、果たして「無理からぬ」ものであり、「合理性を欠くということはでき〔ない〕」ものであり、その判断に「合理的根拠が欠如しているとは認められない」といえるものだったのであろうか。そうはいえないからこそ、規範をいじってきたのであろうか。。。


2 福井地判R3.1.20(棄却)

規範は上と同じ。

 司法警察職員等は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由及び逮捕の必要の有無について裁判官が審査した上で発付した逮捕状によって、被疑者を逮捕することができる(刑事訴訟法199条1項本文、同条2項)。逮捕状の請求を受けた裁判官は、提出された資料等を取り調べた結果(刑事訴訟規則143条、同143条の2)、逮捕の理由(逮捕の必要を除く逮捕状発付の要件)が存することを認定できないにもかかわらず逮捕状を発付することは許されないし(同法199条2項本文)、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡するおそれがなく、かつ罪証を隠滅するおそれがない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならないのである(同項ただし書、同規則143条の3)。なお、上記の罪証隠滅のおそれについては、被疑事実そのものに関する証拠に限られず、検察官の公訴を提起するかどうかの判断及び裁判官の刑の量定に際して参酌される事情に関する証拠も含めて審査されるべきものである。
 そして、逮捕状を請求された裁判官に求められる審査、判断の義務に対応して考えると、司法警察員等においても、逮捕の理由がないか、又は明らかに逮捕の必要がないと判断しながら逮捕状を請求することは許されないというべきであり(最高裁平成7年(オ)第527号、同第528号平成10年9月7日第2小法廷判決・集民189号613頁)、司法警察員等が逮捕状請求時において、現に捜査により収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案し、犯罪の嫌疑及び逮捕の必要性を認めることができる合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらず、あえて逮捕状を請求したと認め得るような事情がある場合には、上記逮捕状の請求について、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものと解するのが相当である(最高裁平成4年(オ)第77号同8年3月8日第2小法廷判決・民集50巻3号408頁参照)。


3 大阪地判H10.3.26(判時1652-3)

島村典男裁判官の判タ1036-145の評釈において、「逮捕の必要性を否定した裁判例」として紹介されていたものであるが、これも指紋押捺拒否・不出頭での逮捕がなされた事案であり、控訴審(大阪高判H13.4.18)では、最判H10.9.7をまるっと引っ張ってきて違法性が否定されている。

 同一審原告らの生活は比較的安定したものであったし、本件各逮捕状の請求時までに、関係警察署においては、既に同人らが指紋押なつを拒否した事実についてある程度捜査を進めていたから、逃亡のおそれや、指紋押なつの拒否それ自体に関する罪証隠滅のおそれが、それ程強いものであったということはできない。しかし、同一審原告らは、関係警察署の署員から多数回(三ないし九回)にわたって任意出頭を求められながら、正当な理由なく出頭せず、また、同人らの行動にはそれぞれ組織的な背景が存することが窺われたこと等に鑑みると、明らかに逮捕の必要がなかったとまでいうことはできず、同一審原告らの逮捕は適法になされたものであるから、国家賠償法一条一項の適用上、これが違法であるとする余地はないといわねばならない(最高裁判所平成一〇年九月七日第二小法廷判決・裁判集民事一八九号六一三頁参照)。


逮捕の必要性を否定した裁判例が確定した事例って、あるのかな。。。

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