島田仁郎元最高裁長官の有り難いお話

島田仁郎元最高裁長官のお名前を判タで検索すると、15本の論稿が出てきます。そのうち14本は「海外通信 ロンドン大学遊学便り」ですが、残る1本は「逮捕((1)一般) 被疑者が呼出に応じない場合と逮捕の可否」という真っ当な論稿(判タ296号78頁)です(当時の肩書は、最高裁刑事局付・判事補)。

どうやら、最近の裁判官の中には、この論稿を読んでいないと思われる方がいるのではないか、というお話です。


逮捕の必要性に関連する問題として、罪を犯したことを疑うに足りる被疑者が正当な理由なく捜査官の出頭要求に応じない場合に、それを理由として逮捕状を発付することができるかという問題は、従来から議論の多いところである。〔中略〕
この場合、具体的な事情を考慮し、出頭に応じないことから逃亡の虞、あるいは罪証隠滅の虞がないとはいえないということ、即ち逮捕の必要性が推定されるならば問題ない。ただし、無実の者であれば喜んで捜査に協力するとは限らないし、警察等へ出頭することを迷惑に思うのはむしろ人情であろう。従って一回や二回の不出頭からそれだけで直ちに逃亡乃至罪証隠滅の虞がないとはいえないとすることはできない。単に一、二回捜査官の呼出に応じなかったというだけでは、果して「正当な理由のない」不出頭であるかどうかということ自体疑わしいことも多いであろう。

「具体的な事情を考慮し」、出頭に応じないことから逮捕の必要性が推定されるならば、とされている点、果たして今の裁判官の方々にも共有されているのでしょうか。。。


続き。

もっとも、正当な理由のない不出頭は≪一般的には≫逃亡乃至罪証隠滅の虞の一つの徴憑であると考えられるので、それが一、二回程度に止まらず数回に及ぶならば、それは右徴憑とみられる事実の反復を意味し、そのこと自体から、≪または他の事情と相俟って≫、逮捕の必要性が推定されること≪≫あるであろう。

一、二回ならともかく、何回も正当な理由のない不出頭が続く場合に、逃亡ないし罪証隠滅のおそれが高まる場合があること自体は、否定できないと思うんですよね。問題は、常に逃亡ないし罪証隠滅のおそれが高まるといえるのか、ということであり、島田仁郎氏は、「逮捕の必要性が推定されることもある」としか言ってないんですよね。そりゃ、逮捕の必要性が推定されることがあること自体は否定できないと思うんですが、「特段の事情がない限り逮捕の必要性が推定される」と思い込んでいる裁判官は、いないですかね。。。


続き。

具体的事情にもよるが、一般には、右推定をするには、通常五、六回、少なくとも三回以上の不出頭を要するものと解され、実務上もそのように運用されているようであるが、単に機会的にその程度の回数から安易に右推定をすることは慎むべきである

ここ。

単に機会的にその程度の回数から安易に右推定をすることは慎むべきである

大事なのでもう一度。

単に機会的にその程度の回数から安易に右推定をすることは慎むべきである

当たり前のことだと思いますが、現状、機会的に推定していません??


続き。

被疑者が捜査機関の再三の呼出にどうしても応じない場合でも、住居が安定していて逃亡の虞がなく、軽微な事件である等の理由から罪証隠滅の虞も推定されないというような事案では、あくまで任意捜査でいくよりほかない。被疑者の供述が聴きたければ、捜査官の方から出向いていくべきであり、それでも被疑者が会ってくれないという場合には、その供述を聴くことを断念しなければならない。

現状、こんな考えの裁判官、いるんですかね。。。


翻って、先日の名古屋地判R3.1.28。

このような弁護人立会権に関する解釈が確立していない状況や本件逮捕状請求時における事情を総合勘案すれば、担当検察官において、取調べにおける弁護人の立会いの可否を巡って原告らと捜査機関が対立する状況が継続する中で、原告X1が有罪判決を恐れて罪証を隠滅し、又は逃亡するおそれが高まってきており、明らかに逮捕の必要性がないという状況ではないと判断することが、検察官として根拠の欠如した不合理な判断であるとまではいえない。

果たして上記判断は、本当に「根拠の欠如した不合理な判断である」といえないんですかね?

上記島田仁郎判事補(当時)の論稿レベルの認識があれば、明らかに「根拠の欠如した不合理な判断」であるように思うのですが。。。(規範の当否はさておき)


一方、控訴審。

正当な理由のない不出頭は,一般的には逃亡ないし罪証隠滅のおそれの一つの徴表であると考えられ,数回不出頭が重なれば逮捕の必要が推定されることがあると解されている。そうすると,検察官の出頭要求に応じて被疑者が出頭したものの,弁護人を取り調べに立ち会わせることを求め,これを検察官が認めなかったことから,結果として被疑者の取調べを行うことができない事態が繰り返された場合に,検察官が,被疑者が正当な理由なく取調べを拒否しており,正当な理由のない不出頭を繰り返した場合に準じ,逃亡ないし罪証隠滅のおそれがあるとして逮捕の必要性があると評価することに合理的根拠がないとはいえ(ない。)

果たして上記評価は、本当に「合理的根拠がない」といえないんですかね?

上記島田仁郎判事補(当時)の論稿レベルの認識があれば、明らかに「合理的根拠がない」ように思うのですが。。。

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