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【特別対談 #2】Vegetable Record × ONSEN RYOKAN 由縁 新宿 2021.07.05

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写真左よりVegetable RecordのRyota Mikami、Vegetable RecordのSyotaro Hayashi、ONSEN RYOKAN 由縁 新宿の高橋亜弓氏。

音楽レーベル「Vegetable Record」の共同代表兼アーティスト、Syotaro HayashiとRyota Mikamiによる「音楽を使った空間デザイン」「サイトスペシフィックミュージック」などについての特別対談。

第2回目は新宿にある宿泊施設「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿(以下、由縁 新宿)」の館内音楽「Songs for ONSEN RYOKAN YUEN SHINJUKU」について、由縁 新宿の高橋亜弓さんとお話しました。

ONSEN RYOKAN YUEN SHINJUKU / ONSEN RYOKAN 由縁 新宿
YUEN ―「由縁」とは「ことの起こり」「由来」を意味します。旅をする人を迎え睡眠と食事を提供する場である旅館には、その発展の過程において日本のおもてなし文化が凝縮されてきました。簡素で無駄のない構成、静かさと落ち着きのある空間、削ぎ落とした美、五感で四季を感じるおもてなし。「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」は旅館が旅館たる由縁を研鑽し、新たな旅館の過ごし方を体感いただけます。

Vegetable Record / ベジタブルレコード
「音楽の新しい楽しみ方・価値観を創る」をコンセプトに掲げた、音楽レーベル。林翔太郎と三上僚太により設立。楽曲を空間やプロダクトなどを構成する「自立したひとつの要素」として制作し、その時/場所/物でしか成り立たない音楽「サイトスペシフィック・ミュージック」を目指している。「ONSEN RYOKAN YUEN SHINJUKU」の館内音楽、専門店と共同制作した「音楽付きコーヒー豆」「音楽付きビール」など、他多数。ワークショップやライブ、インスタレーションも多数開催。

ONSEN RYOKAN 由縁 新宿について

三上:今回は新宿にある宿泊施設、由縁 新宿の館内音楽「Songs for ONSEN RYOKAN YUEN SHINJUKU」について、由縁 新宿の高橋亜弓さんとお話しします。本日はありがとうございます。

高橋:よろしくお願いいたします。

林:よろしくお願いいたします。

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三上:早速ですが、由縁 新宿についてご紹介いただけますか?

高橋:はい。旅館の旅館たる由縁を研鑽し、新たな旅館の過ごし方を体感できる宿泊施設として、2019年5月8日に当館オープンいたしました。18F建て193室の館内は、伝統的な和の設えを取り入れ、日本らしい繊細な表現を随所にほどこしています。

最上階の大浴場の露天風呂では箱根から運んだ源泉を新宿の夜景をみながら愉しむことが出来、都心で温泉旅館を体験できると、国内外のお客様からオープン以来、好評をいただいております。

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館内音楽を依頼した経緯

林:ありがとうございます。館内音楽を依頼した経緯についても伺えますか?

高橋:建物の雰囲気と、「旅館の本質を編集」というコンセプトに合わせた音楽を探していたのですが、新たな旅館スタイルを創出する上で、アーティスト選定は検討当初、非常に難航しておりました。

三上:あ、そうだったんですね笑

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高橋:はい、かなり大変で・・・笑 どうしようと悩んでいたんですけど、そんな折に、弊社社長よりお二人をご紹介いただいたのが依頼のきっかけです。既存の枠にとらわれない、新しい価値観の中で音楽と向き合うベジタブルレコード様のコンセプトは、由縁 新宿と親和性が高いと感じました。

三上:初めから「オリジナルの館内音楽を作る」っていうアイデアはあったんですね。

高橋:そうですね。そもそも、お香や生花の設えを季節ごとに変化させるのに合わせて、音楽も四季それぞれにテーマを設けて制作いただくというのが、当初の案だったんです。

林:なるほど。

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Songs for ONSEN RYOKAN YUEN SHINJUKUについて

高橋:はい、ですが笑、結果的にお二人には、単純に春夏秋冬の楽曲を手がけていただくだけではなく、来館者の心理状況に合わせて空間的なギミックを音楽面で仕掛けていただいた、というのがすごく特徴的だったかなと思っています。

まず1Fレセプションでは、新宿の喧騒から非日常の入口へ足を踏み入れたことを想起させる繊細な単音の旋律がお出迎えします。その後お客様には客室で緊張を解いていただき、18F温泉ラウンジへ。こちらでは1Fの旋律が穏やかな和音で展開されており、高層からの眺めと併せて解放感とリラックス感を感じていただける、時間と空間の遷移を意図した仕掛けとなっております。これはストーリーを大切にする由縁 新宿のコンセプトと非常にマッチしており、当館ならではの、感性を刺激する独自の音楽空間が生まれたと感じております。

三上:僕らも自分たちの音楽のことを「Site-specific Music」っていう言い方をしていて、要するに「その場所でこそ真価を発揮する音楽」ですね。作品はApple MusicやSpotifyでも配信していたり、フリーダウンロードで公開しているので、お客さまが自宅とかで聴くことも出来ますし、もちろんお家で聴いても「かっこいいな」「綺麗だな」と思っていただけるように作っています。ただ、楽曲のもっとも本領発揮する場所が、その(楽曲をインストールする)場所になるように色々とコンセプトを考えています。

由縁 新宿の場合は、「四季を五感で感じる」というベーシックの考えがあったので、香りとか植栽と同じように、僕らも由縁 新宿ならではの音楽のアプローチを考えたいと思って、林と色々考えました。その中で、結構きっかけになったのはEVの前にある和紙のアートだったんですね。「1Fは蕾で上階に行くと花が開くんですよ」という事をご説明いただいて。

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高橋:はい。

三上:あとは、設計コンセプトもヒントになりました。「1Fの古典的な旅館を踏襲した佇まいから、18Fまで上がることで現代的にアップデートした新しい旅館の在り方を建築的にも表現しています」ということを設計の方からご説明いただいて。

そういう流れがあった中で、先ほど高橋さんも仰っていたように、1Fレセプションと18F温泉ラウンジは同じモチーフを使いながら、1Fではモノトーン(単音)、ラウンジではハーモニー(和音)になっています。入口ではモノクロで凛とした印象のフレーズが、EVで最上階まで上がると和らぎ色づくようなイメージですね。

高橋:ありがとうございます。まだ竣工前の全体像が湧かない段階からご来館いただき、説明できるところからお伝えして少しずつストーリーを紡いでいけたそのプロセス自体が、制作物の結果につながっているのかなと思っています。

林:結構、試行錯誤が・・・笑

高橋:ありましたね笑

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林:プレオープン前日の夜にもチェックしに来たり・・・、

三上:そんな直前までやってましたっけ笑

高橋:ギリギリまでやっていただいた覚えがあります笑 実際にどんなお客さまがどんな風に館内を利用されるのかイメージが湧かない状態から制作を進めていただきました。私どもも不安と期待が入り混じるような状況だったのですが、結果として意図したイメージ通り、お客さまには音楽を楽しんでいただけています。特に18Fの温泉ラウンジでは、皆さん音楽を聴きながらお風呂上がりの時間をリラックスして過ごしていただいています。あのやりとりがあったからこそだな、と笑

林・三上:笑

林:お客さまもそうですけど、僕らの音楽を館内に取り入れるっていうことで、スタッフの皆さんも本当に「どういう音楽が由縁 新宿に合うだろう」っていうことをすごく真剣に考えてくださって、音楽を通じて新しい関係というか、コミュニケーションが生まれたのが非常に特長的ですよね。

高橋:そうですね。

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林:僕らも当時(2019年春ごろ)、こういった制作をするのが初めてだったので、スタッフの皆さんと音楽を通じて対話できたことが新鮮で興味深かったです。

高橋:旅館の音楽ってなんだろう、というイメージのすり合わせから始まりましたもんね。

林:はい。

高橋:どういう楽器を使うのかなど。イメージの共有が中々言葉だけでは難しかったところから、(音楽の)例をあげたりしながら・・・、だんだんとピントを合わせていくというか。先ほど三上さんが仰ってましたけど、空間の音楽的なギミック作りというのを、アートをヒントに組み立てていくというのが、私どもも新鮮でした。建築の空間自体をあらためて再認識するというか。音楽制作のプロセスを通じて勉強させていただきました。

ひとつの楽器のみで四季を表現する

林:由縁 新宿ではピアノのモチーフによって四季を表現していて、自然や紋様をテーマに四季で変えているんですけど、例えば自然ですと、春は「しだれ桜」「黒とおさえたピンク」「春の暖かさ」、夏は「ケヤキ」「黒と緑」「差し込む陽光」。紋様ですと、秋は「念じ麻の葉」冬は「波兎」。高橋さんや他のスタッフの方とも話し合いをしつつ、テーマに沿ったイメージを音楽で表現しています。一方、1Fレストラン「夏下冬上」の楽曲では「ギターのみで朝昼夜を表現する」をテーマに、3曲で3つの時間帯を制作しました。

高橋:四季を音楽で表現するというのは凄く難しいと思うんですけど・・・、

三上:そうですね笑

高橋: 四季のモチーフの着想源、どういったところからアイデアを持ってくるか、というのを年によってご提案いただいています(2019年は自然、2020年は紋様)。私どもにとっても、そういうアイデアの持っていき方があるんだという発見がありました。音楽から、四季を通じたおもてなしとはどういうことなのかを考えるヒントを得させていただいている、とも思っております。

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林:楽器をピアノに限定して四季を表現するというのは、1年くらいすると、表現方法がなくなってくるというか笑、難しいなあって最初二人で言っていて、でも逆にその難しさが面白くて、思ってもいなかったような、ピアノの表現方法に辿り着きつつあるような感じですね。

高橋:相当難しいオーダーをしていたと思うんですけれど笑

三上:僕らも固定観念から脱せたというか。作曲をする上で、本当に勉強になりました。開業当初、2019年5月ごろって、もちろんオリジナル音楽はずっと作ってましたけど、空間に対して音楽を作るっていうことはそこまで多くなかったんですよね。且つ、限定された楽器(ピアノのみ)で曲を作るっていうことをやったことがほとんどなかったので、そんなことは出来ないであろうみたいな概念がやっぱり当時はあったんですけど笑 なので、音楽も由縁 新宿と僕らの二人三脚で作っているような感覚ですね。

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高橋:夏下冬上(1Fレストラン)の曲も難しかったですよね。実際に音楽をかけてみたら換気扇の音とかぶってしまったり・・・。

三上:そうですね。その曲を作るときくらいから、スマートフォンのボイスメモで録音した音源も使うようになりました。スカスカな音になるんですけど、それって普通の音楽的にいったらあんまり良しとされてない状態なんですね。でも、夏下冬上の曲はイヤホンで聴くために作ってる曲ではないので、レストランっていう、換気扇とかお客さまの会話とかある上で成立する曲、まさに「Site-specific」的なことだと思うんですけど、になるように作ったので、そのスカスカでペナペナの音の方が、感覚的ですけど空気に乗っかりやすいというか・・・。そういう発見もありました。

高橋:なるほど。

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楽曲の反響について

三上:曲を初めに作ってから2年くらい経ちましたけど、いまだにコンセプトがしっかりしたアーカイブとして、各方面で「由縁 新宿で音楽やってますよね」って言われることが少なくないんですよね。由縁 新宿きっかけで、僕らの音楽に興味持っていただいたことも結構あります。海外の方からインスタグラムで「泊まったけど、とてもよかったよ」ってDMが来たりとか。

高橋:素晴らしいです。そうですね、現場の感触としても、特に海外の方の反応がとてもいいな、と感じてまして、中には禅を感じるというお客さまもいらっしゃいます。

林・三上:笑

高橋:確かに、聴きようによっては、特に1Fレセプションの音楽に関して言えば、禅寺から庭を眺めて、四季の移ろいを感じるような体験と近く感じるのかな、と。

林:初めて泊まった時に、18Fで海外のお客さまがお風呂上がりに瞑想している方がいらっしゃったのがすごい印象的でした。この曲でメディテーション効果があるんだって笑

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高橋:海外の方からすると、湯上がりは一種の身体的な特殊体験なのかもしれません。音楽とのコラボレーションというか、化学反応みたいなものもあるのかなって考えると面白いですよね。

林:特に18Fはこれだけ眺望がよくて・・・、新宿を見渡せる温泉って中々無いと思うので、早朝とか朝日が入ってきて瞑想すると気持ちいいんだろうなって笑

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高橋:そうですね、イメージが湧きますよね。

由縁 新宿のオリジナルCD

林:それでは最後に、「由縁 新宿のオリジナルCD」「スイートルームの楽曲」「由縁 新宿瓦版(※宿泊ゲスト向けのタブロイド紙)への掲載」「ONSEN RYOKAN 由縁 札幌(以下、由縁 札幌)への派生」など、関連した取り組みを実施していかがでしたか?

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高橋:はい、まずオリジナルCDは、ご自宅で由縁 新宿での体験を思い起こしていただくということはもちろん、CDをあえて制作するという行為自体が、当館の音楽に対するこだわりを感じ取っていただけるのではないかなと考えております。

スイートルームの楽曲

次にスイートルームの楽曲ですが、こちらはエントランスのお香を担当する「Juttoku.」様とベジタブルレコード様との3社共同で作り上げた企画でした。香道では「聞香(もんこう)」といって、香りを聞くという表現をするのですが、「香りを聞く」「音楽を聴く」という二つの「きく」を起点として、スイートルームでのひとつのメディテーション体験を展開できたのは、私どもとしても新しい取り組みでした。さらに、音楽のセット方法は、かなり特殊なことをしていますよね。

三上:そうですね笑

高橋:「お香(香袋)作り体験というのをスイートルームで出来る」という企画で、制作キットが入っている小さい木箱に(中のキットを取り出した後に)スマートフォンを入れて共鳴させて、音楽を感じていただきながらお香を作ることができます。すごく遊び心があって、アイデアそのもの自体がベジタブルレコードのお二人らしく、とても素敵なものに出来上がったな、と感じております。

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三上:あの企画も1年・・・半年、結構かかりましたよね。

高橋:はい、かなり時間をかけて・・・笑

三上:色々なトライアンドエラーがあっての完成だったので、僕らも最終仕上がりを見た時に感慨深かったというか笑

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高橋:こういった試みをしようと思ったきっかけは、新宿という喧騒の中から離れた時に「都心でありながら温泉旅館の体験」としてどういう提案ができるのか、と考えたことでした。当館のスタッフの一人が、「自分と向き合う時間を館内で持てたら、(普通の旅館とは)違った体験になるんじゃないか」と発案し、ご相談差し上げたんですよね。スイートにお泊まりになる皆さま、香袋作りをすごく楽しそうに体験されて、インスタグラムに投稿いただいたり、とても反響があります。

由縁 新宿瓦版

三上:それはよかったです。瓦版はいま第4号目とかですか?

高橋:1周年の際に初号を発刊して以降半年に1回のペースなので、いまは3号目を館内に置いているという状況ですね。

三上:お部屋にも置いてありますよね。

高橋:はい、各お部屋にも設置させていただいています。第1号目の時に、ベジタブルレコードのお二人に楽曲制作にかけての思いを執筆いただきました。開業1周年というところで、当館のコンセプトやこだわりを伝える、という点を瓦版のポイントにしていたのですが、やはり音楽を聴くだけではなく、文字であらためてこだわりを執筆いただくことで、お客さまには楽曲を能動的に楽しんでいただく、良いきっかけになったと思っております。

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三上:持ち帰る方も多いんですか?

高橋:そうですね。ほとんどのお客さまは持ち帰られております。

三上:作りがすごいしっかりしてますもんね。

高橋:はい、紙から何からすごくこだわって・・・笑 いわゆる昔の新聞のようなイメージで。コンパクトな作りのお部屋も多いのですが、少しでもお部屋でゆったりとした時間をお過ごしいただくきっかけになればと。且つそれが当館のこだわりを知るひとつの要素となればいいな、と思っております。

由縁 札幌への派生

三上:そして由縁 札幌が出来ましたよね。

高橋:はい、由縁 新宿が由縁シリーズの第1号になるんですけれども、第2号として札幌が2020年8月にオープンいたしました。そこでお二人には遠路はるばる北海道まで足を運んでいただき・・・笑 新宿とは違って、北海道の土着のカルチャーからヒントを得て楽曲を制作いただきました。また、由縁 新宿は全体的に照度を落とした施設なのですが、札幌の方は全体的に明るいイメージですよね。

林:そうですね。

高橋:なので、その違いがよくわかる音楽の作りになっているな、と感じています。同じシリーズで軸は合わせているけれども、「Site-specific」に楽曲を展開している、という点がさすがだな、と感じておりました。

林・三上:笑

三上:札幌に行って、新宿に来たり、その逆だったり。あとは世田谷代田に由縁別邸 代田が最近出来ましたけど、由縁3ヶ所を巡るお客さまも出てきているんですか?

高橋:そうですね、ありがたいことに由縁というシリーズに関心を寄せてくださるお客さまが増えてきておりまして、3ヶ所を廻っていただける方もいらっしゃいます。代田が良かったから新宿、新宿が良かったから札幌というような、相互に行き来するお客さまも増えてきています。

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三上:ありがたい限りですね。由縁 新宿の基本的な情報は公式HPやSNSなどから見られますか?

高橋:はい。公式HPやInstagramをご覧いただければと思います。宿泊のご予約も公式HPからできますので、ぜひお越しください。

三上:それでは、本日はありがとうございました。

林:ありがとうございました。

高橋:ありがとうございました。

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<2021年7月5日 ONSEN RYOKAN 由縁 新宿にて>

本インタビューは、Podcastでも配信中です。

撮影:工藤 葵/写真家
https://aoikudoaonisai.wordpress.com

スイートルーム画像提供:ONSEN RYOKAN 由縁 新宿

由縁 新宿オリジナルCD撮影:Vegetable Record


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