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【特別対談 #3】Vegetable Record × januka 2021.07.22

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写真右奥より時計回りにVegetable RecordのSyotaro HayashiとRyota Mikami、janukaの中村夏子氏と中村穣氏。

音楽レーベル「Vegetable Record」の共同代表兼アーティスト、Syotaro HayashiとRyota Mikamiによる「音楽を使った空間デザイン」「サイトスペシフィックミュージック」などについての特別対談。

第3回目はジュエリーブランド「januka」の店内音楽・ブライダルリングの音楽「Songs for januka」について、janukaの中村穣さんと中村夏子さんとお話しました。

※ 写真撮影時のみマスクを外しています。

januka / ヤヌカ
“januka”は、デザイナー中村穣によって 2012 年にスタートしたジュエリーブランド。ジュエリーに対する素材や技法への先入観に捉われない、「お手本から少しずれた」がコンセプト。

Vegetable Record / ベジタブルレコード
「音楽の新しい楽しみ方・価値観を創る」をコンセプトに掲げた、音楽レーベル。林翔太郎と三上僚太により設立。楽曲を空間やプロダクトなどを構成する「自立したひとつの要素」として制作し、その時/場所/物でしか成り立たない音楽「サイトスペシフィック・ミュージック」を目指している。「ONSEN RYOKAN YUEN SHINJUKU」の館内音楽、専門店と共同制作した「音楽付きコーヒー豆」「音楽付きビール」など、他多数。ワークショップやライブ、インスタレーションも多数開催。

janukaについて

三上:今回はジュエリーブランド「januka」の店内音楽・ブライダルリングの音楽「Songs for januka」について、janukaの中村穣さんと中村夏子さんとお話します。本日はありがとうございます。

林:よろしくお願いいたします。

中村穣 / 中村夏子:よろしくお願いいたします。

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三上:早速ですが、janukaについてご紹介いただけますでしょうか?

中村穣:はい。まず僕がご紹介いただいたjanukaのデザイナー、中村穣です。ブランド自体は2012年にスタートしまして、最初はイベントとか売ったり、卸だけだったんですけど、2017年に西荻窪でお店を始めて、今年3月に南青山に移転しました。

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三上:西荻窪も意外と最近なんですね。

中村穣:デザビレ(台東区デザイナーズビレッジ)を卒業してからですね。それまではアトリエしかなかったので、店舗は無くて。

中村夏子:百貨店のイベントが毎月のようにありまして、出店を繰り返していく中で、やっぱり自分たちの確固たる空間というものが欲しくなってたんです。それと、コロナで中々そういったイベントが出来ない、という状況が重なって「いよいよ自分たちの空間を作りたい」という話になりまして。あとはブライダルリングとかを作っていく中で、お客さまの滞在時間が長くなる接客もあったので、もっとちゃんとブランドの世界観を見せたかったんですよね。

中村穣:色々な場所を見たんですけど、青山がジュエリーショップが多いっていうところと、あとはこの場所が気に入ったんですよね。根津美術館の近くで。

林:そうですね。大通りから一本入ってて、静かですもんね。

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中村穣:それで店を建てよう、ということで、色々な人に声をかけ始めて。内装を「関祐介さん」、香りを「伊部知代さん」、制服を「Jens」、スツールとキャッシュトレーを「Sho Otaさん」、そして音楽を「Vegetable Record」と、元々知り合いだった人に頼みました。

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音楽を依頼した経緯について

中村穣:福井県でお二人にお会いしたのは何年前でしたっけ。

林:あれは2019年ですね。僕が福井県の鯖江市出身なんですけど、鯖江のデザインチームのTSUGIの新しい施設(TOURISTORE)の音楽を依頼されて、そのお店で打ち合わせをしているタイミングでちょうどたまたま・・・、

中村夏子:そう!たまたま行ったんですよね、TSUGIのお店に。

中村穣:Janukaが「ataW」っていう福井県のセレクトショップで毎年のようにポップアップショップをやっていて、あの時TSUGIのお店が出来たばかりだったのでataWのオーナーが連れて行ってくれたんですよ。

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三上:ataWのオーナーはお知り合いなんですか?

中村穣:そうですね、オーナーがオランダの学校にいた時の同級生みたいなもので。

三上:なるほど、じゃあ福井に縁があったというよりは人の繋がりなんですね。本当に偶然ですね笑

中村夏子:そうですね、友達のお店だからっていう笑

中村穣:それで、そのころにちょうど共通の知り合いがお二人に音楽を頼んでいたのもあって、お二人のH Pを拝見しまして。西荻窪で3年間お店をやっていて、3年間ずっと音楽迷子というか。まあその時は空間が定まっていなかったので、そこに合う音楽というのが分かっていなくて・・・、

中村夏子:CD買ってきて流してたんですけど、直ぐに飽きちゃうし。スタッフからも、寝る前にもこのCDの音楽が流れてくる、とか言われて笑

林・三上:笑

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中村穣:お二人のウェブサイトにいっぱい(アーカイヴが)載ってるじゃないですか。それを流して、皆んなでいいね、って。

中村夏子:いつからかそれをお店でかけるようになって笑 全然聴き飽きないんですよ。

三上:本当ですか、それはありがたいです。南青山の新しいお店の空間は相当ハマっていますよね、全部(内装、香り、制服、スツール、音楽)が。

中村夏子:調和してますよね。

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janukaの2面性について

三上:僕も林も、あまり普段からアクセサリーやジュエリーを着けてるっていうタイプでもないので、初めてjanukaのジュエリーを見た時も、先入観というかそういう概念があんまり無い状態で・・・、

中村穣:似合いそうですけどね笑

林:着けてなかったっけ笑

三上:昔はハードロックをやっていたので、太いネックレスとか着けてましたけど笑 そういう偏見がない中で、janukaの作品を見て、普通にかっこいいねって林と話してたんですよ。建築的なフォルムと、光の反射のような有機的な要素の融合というか折衷というか・・・、小さい建築みたいな。その小さい建築の中に、光があったり色があったり。デザインの2面性というか、そのバランスが面白いなと。なので、僕らの中で初めから楽曲の漠然としたイメージはあったんですよね。

中村穣:うんうん。

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2つの視点(ビュー)

三上:その後に(内装の)関さんの設計プランで、お店を見る視点が「ショーウインドウ側から見たビュー」「入口側から見たビュー」で異なっている、「2つのビュー」っていうキーワードをお聞きして。僕たちも二人で作っているので、デザインの2面性ともかけ合わせればマッチするというか。

林:お店を見る「2つのビュー(眺め)」と、僕ら二人の「2つのビュー(視点)」、そしてjanukaのデザインの「2つのビュー(2面性)」ということで、すごくハマった感じですよね。

中村夏子:まさに三位一体ですね笑

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三上:今回の「2曲の異なる楽曲を2ヶ所から別々に再生して1曲として成立させる」という手法は、以前よりしばしば行っていたので、最終的に「2つの視点(ビュー)」を楽曲コンセプトに、僕と林でそれぞれ1曲ずつ、2種類の音楽を作って、2ヶ所(レジ側とショーウィンドウ側)からそれぞれの曲を流そうってことになったんですよね。

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Songs for janukaについて

三上:僕が作った「Songs for januka #1」の方は、janukaの有機的な雰囲気を音楽で表現しようと思って、マリンバとか木琴を使って、実際に僕ら楽器を弾くことも多いんですけど、短い音楽のモチーフを10個くらい予め作って、その音列とかリズムをベースにイメージしながら即興演奏したフレーズを編集して組み立ていく、というプロセスで作曲しました。

林:僕が作った「Songs for januka #2」は、楽器はハープとエレクトリックピアノとピアノの3種類を基本的に使ってるんですけど、janukaの建築的とか構造的な部分から着想を得て、一定のルールに従って音を配置しているんですね。建築の構造的なルールみたいな。等間隔に音が流れていくことで表現できればと思って作曲しました。

中村穣:うんうん。

三上:2曲を店内2ヶ所から別々に再生すると、それぞれの尺が違うので、どんどんずれていきながらひとつの曲として成り立つ、という。janukaのリングも、リングの形状自体は変わらないですけど、光によって、色が変わったりとかすると思うんですよね。

中村穣:そうですね。素材によって見え方は変わるというか。基本的に天然石だったり、有機的な素材を使うので。

中村夏子:デザインはルール化してますね、シリーズごとに。ただその中でも遊びの部分を残していて、それが有機的な要素になっているのかなと思います。

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三上:ルール化する、っていう点はすごく共感できます。自分ひとりだけで完結する音楽を作るときって、もちろん自分の中でルールを設定することもありますけど、第三者からルールとかお題を与えられることって無いと思うんですね。こういう第三者が介入するケースだと、例えば「ピアノだけで作って欲しい」とか、色々あるじゃないですか。

中村穣:クライアントからのオーダーとかですね。

三上:はい。それで、それを嫌がろうと思えば嫌がれますけど、面白がろうと思えば面白がれるというか。

中村穣:なるほど。お題があった方が意外と面白いもの作れたりってこともありますよね。

「お手本から少しずれた」「結果としての装飾」

三上:janukaのコンセプト「お手本から少しずれた」「結果としての装飾」について伺えますか?

中村穣:「お手本から少しずれた」っていうのは、僕が元々ジュエリーがベースではないので、あんまり知識がなかったっていうのもあるんですけど。プロダクトデザインの勉強を大学院までしていて、いわゆるなジュエリーを僕が作ってもあんまり意味がないというか。ただ「少し」で、まるっきりズレた変わったものを作りたかったわけではないので。

中村夏子:奇を衒いたいわけではないもんね。

中村穣:うん、ではなくて・・・、それで「結果としての装飾」も、なんていうか、いわゆるジュエリー特有の「意味がないけど装飾する」っていうのはなるべく避けたいなと思っていまして。構造とか、この素材を使うとか、結果として出てくるものが装飾として成り立つならいいかなと。そういった意味で「結果としての装飾」っていう言葉を使っています。

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三上:オランダに留学されている時に作っていたものはいわゆるプロダクトなんですか?それともアート作品を作っていた時期もあったんですか?

中村穣:オランダの前にアメリカにいたので、その時は製品の美しい形「使いやすくて美しいドアノブのフォルムを考えよう」みたいな。オランダではどちらかというと「意味」だったり、もう少し大きいビジョンでデザインを考えようっていう。なので、一概にアートってわけではないんですけど。オランダはそこの区別があんまりないので、椅子も作るけどジュエリーも作るっていう。

中村夏子:プロダクトだけどアートよりっていうか。今と同じようなスタイルかもしれないですね。

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語るべきところがあるデザイン

三上:janukaのカタログの文章にもありましたよね。アートとデザインの間というか。

中村穣:「かわいい」「綺麗」だけではなくて、語るべきところがあるデザインを作りたい、っていうところですね。なんとなく流行りの素材を使う、っていうのは僕がやっても仕方ないなと。やってて面白くないですしね。

林:僕らの音楽も結構近いですね。語れる音楽の要素がある、その場所でしか成り立たないような音楽「周りの環境がこうだから、じゃあこういう音を入れよう」とか。二人がそれぞれにあるんですけど。音楽のフレーズとか音色とか間とか、全てに意味がある。こういう空間だからこうしてるっていうことを、話すことができるので、そこは似ていますね。

三上:デザインとかアートとか、あとはエンターテインメントもそうですけど、その色々なものの間をいきたいっていうのはありますね。

中村穣:その音楽がアートにもなり得るし、エンターテインメントになるし、商品でもあるし・・・。

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機能性があって、かっこいい/美しい音楽

三上:そうですね。あとは「機能性があって、かっこいい/美しい音楽」というか。もちろん違うベクトルで作ることもありますけど、空間の音楽を作るときは、割とそれを重要視しています。

中村穣:音楽で「機能性」って面白いですね笑 

三上:そうですね笑 クラクションとか「機能性がある音」はありますけど。店内音楽でそういった視点から作るっていうことが、単純に面白いっていうことに気がつき始めたんですよ笑 空間と僕らの音楽が共存するような感覚というか、「ちょっとした非日常」を作れるなと、音楽があることで。

中村夏子:うん、本当にそれは感じます。なんか無音の方が圧を感じるんですよね。作っていただいた音楽が流れてることで、空間が朗らかになるというか、機能としてとても実感します。

ブライダルリングの音楽

三上:リング購入時にQRコードで付いてくるブライダルリングの音楽も、先ほどお話しした「Songs for januka #1」「Songs for januka #2」をベースに、それぞれが設定したルールに従って加工(リミックス)して作ってるんですよね。「U RIng」ですと、U字に見立てて、音の波形を編集したりとか。

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中村穣:口頭だけで聞いた時は、どういう事か全く分からなかったです笑

林:編集画面を見ればわかりやすいんですけどね笑 僕は「Y RIng」だと、イコライザーっていう音の高低(周波数)を編集できる機器を使って、Yのグネッとしてる感じを表現しています。

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中村夏子:お二人に作曲してもらったことで、こちらとしてもデザインに対する理解が深まったんですよね。自分たちが作ったものなんですけど、一回お二人に解釈してもらうことで、あらためて出てくるものがあったりして。

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三上:ただ最終的には、音楽は抽象的なものなので、受け手の自由というか。この曲によってハッピーになるっていう人もいれば、眠くなるっていう人もいるみたいな。そこの余白というか、作品を最後はフワッとさせてるのは僕らもワザとなんですよね。

中村夏子:それはすごくいいと思います。余白があるのは。

楽曲の反響について

林:そうしましたら最後に、店内音楽やブライダルリングの音楽として楽曲をご使用いただきいかがでしたか?

中村穣:ブライダルリングの音楽については、リングを買うっていう体験に、プラスの体験を足せてすごくよかったと思っています。

中村夏子:結婚準備って色々と大変なので、どうしても「リングを買う」ってこともひとつのタスクとしてやりがちなんですよね。でも、ふと落ち着いた時に、音楽と一緒にお渡しすることで、音楽を聴いて、そのころの2人の気持ちとかを思い出してもらえたり、そうやって繋がるといいなって思っています。体験に体験を重ねるってそういう事かなと。

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林:なるほど。

中村夏子:お店の音楽は、お客さまからは全体の感想として「すごく素敵なお店ですね」って言われます。それは絶対に音楽も含まれてると思います。

林:外からこの空間に来ると異空間というか、すごいですよね。いまどこにいるんだろうみたいな感覚になります。

中村穣:(内装の)関さんも包まれているような空間にしたいとは仰ってましたね。外の青山とのギャップもありますし。

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三上:janukaの今後の情報はInstagramを見ればいいですか?

中村夏子:そうですね。あとはHPにも載せています。

三上:表参道のお店もぜひお越しいただければと思います。それでは、本日はありがとうございました。

林:ありがとうございました。

中村穣・中村夏子:ありがとうございました。

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<2021年7月22日 januka shopにて>

本インタビューは、Podcastでも配信中です。

撮影:工藤 葵/写真家
https://aoikudoaonisai.wordpress.com

店内・ブライダルリング画像提供:januka

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